ガーベラ・ダイアリー

日々の発見&読書記録を気ままにつづっていきます!
本の内容は基本的にネタバレです。気をつけてお読みください。

河合隼雄著 「あなたが子どもだったころ」 講談社+α文庫②

2006-02-12 | こんな本読みました

遅くなりました、2月3日のつづきです。。。(この本をこれから読もうとされる方は読まない方がいいかもしれません)

6番目の対談者は、作家井上ひさし氏である。
地主でありながら、氏の父親は農民運動をする。母親は理想主義的な人。もともと体が弱い上に、拷問されたのがもとで父親が亡くなる。その後も母親は社会主義運動で追われた人たちを一生懸命に助ける。こうした矛盾を目の当たりにして氏は育つ。そこから「嘘を意識し始め、嘘というものに真剣にならざるをえなかった」という(先生に提出する日記と自分だけの日記の両方をつけていたという)。

また母親が未亡人となって、母親としてではなく
「人間」として生きている姿を見て、母親離れができたとも。「自分を捨てる藪はないが、子どもを捨てる藪はある」という母親の言葉が子どものころショックだったと言っている。なかなかにすごい母親であることが察せられる。河合氏の<「嘘というものに真剣になる」ことは、あらゆる芸術の基本ではなかろうか>という言葉がこころに残った。

次は画家の司(つかさ)修(おさむ)氏である。
<装幀の場合は、その小説に書かれたたましいと触れるところがあるんですけど、挿絵は、作家のたましいを、挿絵を描いた人間も同時に持っているという思いを持っちゃうんです。挿絵をずっと長くしてると、自分のたましいがぬけていくんですね>絵心のない自分にはよくはわからないが、印象深い司氏の言葉である。

また、私生児として家庭的に普通の環境を得られなかったと回想する司氏。「母親を常に避けていた。母親があることによって、自分がいつも歪められていた」という思いを生前抱き続けてきたが、母親が亡くなった瞬間「むしろ逆だったのではないか。むしろ自分の方が母親を歪めていた」と気づく。司氏の<死ほど人間に何かを伝え残していくものってないんじゃないでしょうか>という言葉がこころに残った。

次は、動物学者日高敏隆氏である。
小学4年生のときに今で言う登校拒否になる。軍国校長に対抗してである。そして親までもそちらの味方なのである。するとある日、担任の先生が家に来て転校をすすめる。日高少年が自殺したいという気持ちを抱えていたことを察知していたようなのである。親を説得してくれ、また夢をかなえるために勉強の必要性も説かれる。すばらしい先生だなあと思った。なかなかできないことだと思う。河合氏の「「見ること」、「見とおすこと」が日高さんの武器であり、それが勇敢さを支えている」という言葉がこころに残った。

9番目は、作家の庄野英二氏である。
弟は、やはり作家の潤三氏。氏の子どものころの印象深かったことは「母親に怒られるという強迫観念」だという。厳しく、ピシッとした母親だったという。兄は「目鼻立ちがはっきりした可愛い子」。弟は「末っ子みたいなものだから気ままに甘やかされた」。その中で自分はひがみがついた。そして小学校を出ると「農学校」に行かされる。そこでしょっちゅういじめられる。(あの時代は鉄拳制裁とかいって、師範学校でも上級生が下級生を殴っていたとのこと。またハイカラな家庭の子が「農学校」に行くということは、相当型破りなことらしい)。他にも子どものころに苦労した人であることがうかがえる。それゆえに「人の心の痛みを知る、ということが庄野さんの全作品の根本にあるのではないか」という河合氏の言葉がこころに残った。そして庄野氏を「日本人離れしたユーモリスト」と評している。

最後にこれまた作家の大庭みな子氏。
戦争中、子どものころに見た中国兵の漫画に違和感を覚え「ある切なさ」を感じた少女時代。大庭氏の「子どもの感性っていうのは大人とまったく同じであって、あんまり区別して考えないほうがいいですね」。河合氏の「ある意味では大人より鋭いですね。大人は、普通の人だとだんだん常識的になりますからね」という対話に共感。また河合氏は大庭氏を「男性的な目でものが見られる人」だとも。

外国に10年ほど住んで、そこで子育てをしたという。大庭氏の「子どもを異国人の中で育ててみますとわかりきったものの中でやってるよりも、何か発見みたいなものがございましたね」「外国へ行って見出すのは自分なんですよね。ほかの珍しいものがわかるわけじゃなくて、やっと自分のことがちょっとわかるというのかな」という言葉がこころに残った。ある意味今の置かれている状況に近いからだと思うが。また河合氏の「外国へ行くというのは、よい照明器具をもらうことになりますね」「違う角度から光を当ててくれるということになりますからね」という言葉もとても示唆的だった。

読者の皆さまへ:長いことお付き合いくださりありがとうございました。特に子育て中の方や子どもに関することに興味をおもちの方にとって、本記事がお役に立てれば幸いに存じます(それだけでなく、自分の親子関係をふり返る契機にもなるかと思いますが)。ここに引用した以外にも、視野の広がる文章が随所にあります。たくさんの発見があること間違いなしです!