坂の町を歩いていた
ふと、なつかしい匂いがした
なんの匂いだろう、と少し考えたら
キンモクセイの匂いだった。
二年前、と書こうとして
それがもう三年前なことに気がついた
三年前のこの時期も、
場所は違えどこの匂いがした
むせかえるようなあまったるい香り、
私はいつからかこの匂いが
すきではなくなった。
香りは思い出のトリガーになる
きっとたくさんのひとがキンモクセイの匂いで
なつかしい思い出を思い出すとおもう
それがいい思い出なら、
胸がきゅっとなるような思い出なら
いや、そうだからこそ。
この匂いが嫌いなんだった
どうしてもノスタルジックな感じになる
あれが何年前の秋なのかは数えるのが難しいけど
すきなひとは、キンモクセイの枝を部屋に置いていた
その匂いがすきなんだ、と言っていた彼がすきだった
それから、恋をしていた頃のこと。
大学の大きなキンモクセイの木のことをおもう
あの木の下で待ち合わせをしたこと
よく着ていたキンモクセイ柄のワンピース。
三年前の秋、そう、その日も三月のライオンの発売日
すきなのかすきじゃないのか、
よくわからなかったひとと、キスをしたこと
明け方の裏路地でのことだった
それから、
一年、二年、と、月日は流れて
この場所で迎える二度目の秋
うれしいおもいでも、かなしいおもいでも、
私にとってはせつない思い出。
今はまだ、何も思い出したくない。