弁理士法人サトー 所長のブログ

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PPAPの商標登録出願は登録されるのか、そして使用できるのか!!!

2017-01-30 11:14:35 | 知財関連情報(商標)

いつも話題を先取りしてアクセスを稼いでいたにもかかわらず、今回は乗り遅れてしまいました。
すでに大ニュースになっていますので、今さらの感が非常に強いのですが、周回遅れで乗り込んでみます。

これまで多くの専門家の方々がブログやSNS等で発信されているように、今回の「PPAP」に限らず元弁理士による大量出願は、印紙代(特許庁へ納める手数料)を支払うことなく行なわれている点に問題があります。
印紙代を支払わなくても、分割を繰り返すことにより、出願が却下されずに長期間保留状態になってしまうので、この保留状態の間にウマミがある出願について印紙代を補充することで出願を維持することができます。
このあたりは手続的な問題点ですが、善意の印紙代不足などによる手続不備を救済するためには必要な制度ですから、印紙代が不足すると即却下とする制度は整備しにくいでしょう。いずれにしても現状、解決は難しいですね。

ところで、仮に今回問題となっている「PPAP」が印紙代の納付によって特許庁に正式に受理されたら、その後、どのようになっていくのでしょう?
こちらについての考察はあまりされていないようですので、そっちの視点から探ってみたいと思います。

●登録の審査
出願が受理されると、特許庁の審査官によって登録してもよいかどうかについての審査が行なわれます。以下、参照条文はすべて「商標法」です。
この審査は、次のような視点から進められます。
1.自分が使用する商品や業務に使用するものか(3条1項柱書)
2.識別力(商品や業務を識別する能力)があるか(3条1項各号)
3.上の「1.」、「2.」をクリアしても、公的な表示だったり、他人の表示として広く知られていたりしているものと同一だったり類似していないか(4条1項各号)

ざっくりと説明すると、上のような3つの視点から登録の可否が審査されます。
今回の元弁理士によって出願された「PPAP」は、インタビューでもご自身で認めていたように他人に売りつけたり、使用させて使用料をとることが目的(「ビジネスモデルだ。」と言ってましたよね。)のようです。
そうなると、上の「1.」の要件、つまり「自分が使用する商品や業務に使用するもの」という要件を満たしていません。
このように、登録のための要件を満たしていないときは、「拒絶理由通知」が特許庁から発せられるわけですが、ここで「自分が使用する」ことを審査官が納得しなければ登録にはなりません。結局、「拒絶査定」です。無名な商標ならともかくビッグビジネスが期待できる有名な「名称」を使用して元弁理士が望むようなビジネスモデルは構築できそうにありません。

というわけで、「拒絶査定」となる可能性が高そうです。
仮に「1.」の要件をクリアしたとすると、「識別力」はありそうですし、「他人の表示」として同一だったり類似するものはないかもしれません。
そうなると、本件の出願は、めでたく「登録」されてしまうことになります。
審査官は、上記の要件と照らし合わせて客観的に審査を行なわなければならず、恣意的な判断はできません。ですから、「拒絶理由通知」に対して、出願人が説得力のある説明をして「1.」の要件をクリアしてしまうと、「登録」になる可能性も否定できません。

そうすると、「PPAP」は登録となってしまいます。
じゃあ、仮に「PPAP」が登録されてしまうと、小坂大魔王ピコ太郎さんやレコード会社のエイベックスは、商標権者となる元弁理士から使用の差止や賠償を求められ、それが認められてしまうのでしょうか。
こちらについても解説します。

●商標的使用
登録商標の商標権が行使されて、使用の差止や、使用によって生じた損害賠償が求められたとします。
でも、その表示を「商標」として使用していないときは、その使用には権利が及びません。商標的使用については、こちらの「必殺技」の回で説明していますので、参考にしてください。
「エイベックス」はレーベルの名称ですので、「ポニーキャニオン」や「ソニーミュージック」などと区別するために用いられます。そうなると、CDにエイベックスと関係のない者が「エイベックス」と表示すると商標権侵害の可能性が出ます。
一方、「PPAP」は楽曲の名称に過ぎません。そうすると、CDのジャケットやCDに「PPAP」と表示しても、これはあくまでも楽曲の名称を表示しているとして、商標的使用でないとの反論が可能です。
とはいえ、本当に「商標的使用でない」との主張が通用するかどうかは微妙です。楽曲名とはいえ「PPAP」を見て他のCDと区別しているのであれば、「商標的」に機能している可能性も出てきますので。

●権利が及ばない範囲(26条)
ところで、商標権は、登録さえしてしまえば何にでも及ぶのでしょうか?
上の審査の話で「1.」~「3.」の要件を示しましたが、これをクリアしたとしてもやっぱり「1.」~「3.」に該当するような商標については、商標権が及ばないことになっています。
但し、今回の「PPAP」は、この26条のケースには該当しそうにありません。

●他人の権利との関係(29条)
続いて、商標権者は、登録さえしてしまえば、その登録商標を自由に使うことができるのでしょうか?
原則は、商標権者は、登録した範囲で使用する権利を専有しています。
ところが、登録商標の使用が、出願の前に発生した他人の権利(特許権や著作権等)と抵触するとき、登録商標を使用することができません。
つまり、登録商標の使用によって他人の権利を侵害する場合、例え登録商標であっても使用することができません。
今回のケースに当てはめてみると、「PPAP」は小坂大魔王ピコ太郎さんの創作(?)でしょうか。他に作曲者やプロデューサなどもいるかもしれませんが、少なくとも元弁理士の創作ではないでしょう。
そうすると、商標登録出願の前に、既に「PPAP」は創作されています。「PPAP」については、元弁理士による商標登録出願の前に、創作を行なった人つまり著作者が存在しています。
そして、「PPAP」については、元弁理士による商標登録出願の前に、著作権が発生しているのです。

このような状況ですから、仮に「1.」~「3.」の条件をクリアして「PPAP」が商標登録されても、「PPAP」の登録商標は著作権に抵触して使用することができません。
つまり、元弁理士は、著作権と抵触する「PPAP」を使用できません。
使用できないので、元弁理士には損害などの不利益が発生しません。

以上をまとめてみると、次のようになります。
・自分で使用しない商標は、審査で拒絶され、登録されない可能性が高い。
・「PPAP」を楽曲の名称として使用するのであれば商標的使用でないので、仮に「PPAP」が商標登録されても反論可能。
・そもそも「PPAP」は商標の出願前に著作権が発生しているので、仮に「PPAP」が商標登録されても使用できない。

みなさん、安心してください。
マスコミは混乱が大きくなるほど視聴率・売上が増加するので不安を煽るような報道になりがちですが、商標登録をされても対応策はありますし、まだ出願がされただけで審査すら行なわれていない段階で権利は発生していないのです。
報道に惑わされず、僕らに相談してくださいね。

でも、自分が出願するよりも先に他人に類似した表示を商標登録されてしまうと、ビジネスの大きな障害になることも事実です。
早め早めに相談していただき、先んじて適切な戦略を採ることも重要です。

それから、商標だからといって侮らないように。
ビジネスの規模や損害は、特許を上回ることだってありますから。

コメント (2)
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