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弁理士法人サトー 所長のブログ

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標準化がビジネスを妨げた事例

2015-04-17 11:56:54 | 知財関連情報(特許・実用新案)
先日のTBT協定のブログでもちょっと紹介しましたが、「Suica」は進め方を一歩間違うと導入できない可能性もありました。これは、TBT協定の政府調達に関する規定による例です。

この例に限らず、実は国際的な標準化がビジネスを妨げた事例は散見されるのです。
身近な例では、洗濯機があります。
最近ではあまり見かけなくなりましたが、以前、洗濯槽と脱水槽とが別々になった二槽式の洗濯機がありました。この洗濯機は、洗濯槽で「洗い」と「すすぎ」を行ない、脱水槽で遠心力を利用して「脱水」するものです。
日本のメーカが手がけていた二槽式の洗濯機(以下、単に「洗濯機」)は、脱水槽に外蓋と内蓋とが設けられていました。脱水槽は、濡れた洗濯物を遠心力で脱水するものですから、比較的高速で回転します。そのため、ユーザが不用意に手を入れたりすると、大けがのモトにもなっています。そこで、日本製の洗濯機では、外蓋と内蓋との二段構えにすることで、外蓋を開けても内蓋が待ち構えて手を突っ込めないようになっています。そして、外蓋を開けると、ブレーキが掛かり、内蓋を開ける頃までには脱水槽の回転は安全な速度まで低下又は停止するという安全装置を備えていました。
これはこれで十分に安全性が確保されていたと思います。

日本のメーカは、国内の市場が二槽式から一槽式の全自動洗濯機へ移行しつつあったことから、二槽式の販路を海外、特に安価な製品が好まれる途上国への輸出を目指しました。
ところが、この洗濯機を海外へ輸出することはできませんでした。

ここで立ちはだかったのが「国際標準」です。国際標準では、「脱水槽の蓋は脱水運転中に開いてはいけない。」という規格になっていたのです。日本の洗濯機でも安全性の確保ができているのですが、脱水運転中に外蓋を開けることができます。
製品を輸入する国や地域によっては、国際標準の規格に合致しない製品の輸入を制限することもできます。
そのため、国際標準の規格に合致しない日本の洗濯機は、輸出が制限されてしまうというビジネス上の被害を受けてしまいました。

知らず知らずのうちに、国際的な舞台では、自国の企業などに有利となるように国際標準化の動きが進められています。国際化が拡大する一方の昨今、早めに動向を察知し、自社のビジネスが国際標準によって妨げられないように情報収集することも重要となってきています。


今時、なかなか二槽式の洗濯機のイラストはありませんね。一槽式です。
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TBT協定

2015-03-30 16:40:30 | 知財関連情報(特許・実用新案)
2000年代以降に弁理士試験を受験した人であれば、WTOの附属書1Cに「TRIPs協定」があるのはご存知だと思います。
このWTOの附属書には、さらに多くのものが含まれているのですが、附属書1Aに「TBT協定」という協定が含まれています。

TBT協定は、簡単に説明すると、技術的な規格が貿易上の支障とならないように国際的な標準規格の策定を透明化し、各加盟国が国際的な標準規格を採用することを求めるものです。もっとざっくりと説明すると、各加盟国は技術的な規格について国際的な標準規格を採用するように、という協定です。

日本の場合、技術的な規格として広く採用されているものに「JIS」があります。様々なメーカーさんの場合、まずはJIS規格に準拠することを前提に製品作りを進められると思います。しかし、この「JIS」は、あくまでも日本国内における国内規格であり、国際規格ではありません。そのため、「JIS規格」の製品は日本国内では問題なく技術的な適合性を有していても、日本以外の国々では適合しないことがあります。これは、日本から輸出する側、日本が輸入する側の双方にとって貿易的な障害となります。
そこで、国際的な規格を策定し、技術製品(工業製品)についてはこの国際的な規格に準拠して製造するように、と求めているのがTBT協定といえます。

国内規格の代表例を「JIS」とすると、国際的な規格で代表的なものには「ISO」、「IEC」、「ITU」などがあります。複数の標準規格があるのは、技術分野に応じて規格が策定されているからです。

TBT協定は、国内で流通する製品に国内規格を用いることについては問題としていませんが、貿易に関わる国際的な商取引の対象となる製品については国際規格を用いることを求めています。また、国内での規格を策定する場合でも、国際規格に準拠した規格の策定が求められています。
特に大きな問題となるのは、政府調達に対する強制性です。加盟国の政府やこれに相当する機関が技術導入をする場合、国際規格の採用が強制されます。
一例では、10年ほど前に、JRでは大規模なICカードによる運賃の精算システムを採用しました。いわゆる「Suica」です。この「Suica」で採用した「フェリカシステム」は、当時、国際的な標準規格ではありませんでした。そのため、欧米の諸団体から異論が出され、「フェリカシステム」による「Suica」の導入が危ぶまれることとなりました。これは、「近距離無線通信」の技術的視点で「フェリカシステム」を国際的な標準規格としたことで、「Suica」への「フェリカシステム」の採用が認められ、無事導入されました。

このように、現在では、海外において製品を広く流通させていくためには、単に特許で技術を保護するという観点だけでなく、技術的な標準規格への準拠・策定に関する知識も必要となっています。

サトー国際特許事務所では、上記のような標準化についてのご相談やセミナーの開催についても対応します。
遠慮なくお問い合わせください。
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オープン・クローズ戦略 序論

2015-03-17 15:35:27 | 知財関連情報(特許・実用新案)
すでに使い古されたかもしれませんが、知財分野のはやりの用語として「オープン・クローズ戦略」があります。
特許は、弁理士を受験された方ならご承知の通り、発明公開の代償として排他的な独占権を得ることができます。つまり、独占的な権利をインセンティブとして発明を促し、権利独占の責任として発明公開を義務づけることで、次なる技術の進歩を呼び起こし、技術をどんどんと進化させていく仕組みが特許制度の根幹です。

さて、特許法の根幹を整理した上で、「オープン・クローズ戦略」です。
「オープン・クローズ戦略」は、とらえ方によって随分と意味が異なってきます。
★実施のオープン・クローズ
取得した特許権に関する発明は、特許権者が独占的に実施することができます。また、この発明を他人にライセンスすることで、他人からライセンス収入を得ることもできます。このように、取得した特許権を特許権者が独占的に利用することを「クローズ」、第三者にライセンスすることを「オープン」というとらえ方ができます。
この場合、「オープン・クローズ戦略」は、特許権者が自身が実施を独占して利益を得るのか、第三者へのライセンスも含めて利益を得るのか、を意味するといえます。
・例えば零細企業が爆発的に流行するであろう製品について特許権を取得したとします。零細企業なのでどんなに流行しても月産100個が精一杯。このような場合、ニーズが月に10万個であれば、第三者へのライセンスを上手に利用すれば、特許権者は大儲けできるかもしれません。上記の例でいくと、オープン戦略です。
・一方で十分な生産能力を持っている企業の場合、ライセンスするよりも、自社の実施で独占的に販売した方が、特許権者の大儲けにつながるかもしれません。上記の例でいくと、クローズ戦略です。

★実施料のオープン・クローズ
取得した特許をお金に換えるためには、自己で実施するか、ライセンス収入を得るかを選択する必要があります。自己の実施に物理的な限界があれば、ライセンスを考えることでしょう。このとき、ライセンスをする場合、有料ライセンスを「クローズ」、無料つまりフリーライセンスを「オープン」と捉えることができます。自分が保有している特許を、第三者を含めて自由に実施させることを「オープン」と捉えることができるのです。
・例えば競合する複数の技術があり、より早く普及した方が市場を制する可能性がある、つまりデファクトとなる可能性があるとします。このとき、複数の技術のうちの一つの技術を保有する特許権者は、自己が保有する関連特許のすべてを「無料(フリー)」でライセンスすることにより、一気に市場に自社技術の普及を進めることも考えられます。これは、オープン戦略といえます。この場合、特許権をフリーにする特許権者は、当然ながら普及を目指す技術の核となる部分や周辺技術を特許で固め、フリーの部分の価値を高めるためには自身の特許を利用しなければならない状況に導くことで利益を得る、という難易度の高い仕組みを作ることが求められます。
「QRコード」などは、その成功例でしょう。

★技術のオープン・クローズ
上記の2例は、特許を取得することを前提としたオープン・クローズ戦略です。しかし、もっと上流側つまり発明を作り出す段階からオープンにする技術とクローズにする技術とを選別することも、オープン・クローズ戦略です。つまり、特許出願を行なって独占権を取得する代償として公開を受け入れるのか、そもそも自社の強みである技術であればノウハウとして特許出願をせずに公開そのものを回避するのか、特許出願を行なう前に判断することが求められています。
ここでは、冒頭に述べた特許制度の根幹と矛盾する判断が求められます。

このように、オープン・クローズ戦略は、フェーズによって様々なとらえ方がされています。そして、上記の分類は単なる一例です。今後、技術をともなう事業では、この各フェーズごとのオープン・クローズ戦略を十分に立案することが求められます。
さらに、このオープン・クローズ戦略を国際的な標準化と結び付けていくことで、利益を最大化することも必要です。
オープン・クローズ戦略について有意義な助言ができるかどうかが弁理士に問われる時代になっています。

技術と国際的な標準化との関係については、後日おいおい。
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