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日本人の宿題: 歴史探偵、平和を謳う (半藤 一利)

2022-04-11 09:47:14 | 本と雑誌

 いつもの図書館の新着書籍リストで見つけた本です。

 著者の半藤一利さんの著作は、今までも何冊も読んでいますし、最近では「墨子よみがえる」「戦争というもの」を読んだところです。それらの著作に通底する半藤さんの“平和への想い”や“非戦の誓い”は、私たち一人ひとりがしっかりと受け継ぐべき大切なものだと思います。

 本書は、生前のNHKラジオ番組での半藤さんの「語り」を再構成して書籍化したものとのこと、その中から特に強く心に残ったお話をいくつか書き留めておきます。

 まずは、戦後の「高度成長期」に対する半藤さんの評価を語ったくだりです。

(p106より引用) 戦後日本も、わたしらは一所懸命働いて、たしかに走った。経済大国をつくる。とにかくわれわれはもっと繁栄しなければならないと、復興から始まって、走って、走って、走って、見事に経済大国をつくったんですよね。
 真面目でした。だけれども、何らかのかたちで、本当はやっておかなければ、詰めておかなければならない問題を全部後回しにしたことはたしかですね。・・・
 一つは、たとえば教育ですね。なんだか日本の教育はフラフラしていますよ。それと同時に、公害とか、差別とか、いま流行の環境問題とか、わたしたちの身の回りにある、きちんと整理しておかなければいけないこと。もう一つ言えば、家庭というものの崩壊ですね。

 その後回しの“つけ”は、今なお我が国に重苦しい影を残し、その結果日本人のレベルは大いに低下したと半藤さんは語ります。然らば、その対策は何か?

(p110より引用) やっぱり、勉強ですよ。勉強しなければ駄目ですよね。・・・
 結局、教育によって国というのは立つんですよ。経済によっては立たないんです。 ・・・いまからでも、まだ間に合うと思いますよ。だから、みんなして、もういっぺん勉強するんですね。

 その教育をもって、「論理的にものを考えることができる能力」を養うべきだとの主張です。
 ただ、半藤さんがそう話したのは2008年のことです。10年以上を経て、どうでしょう、残念ながら「教育」面でも迷走が続き、日本人の劣化はさらに進んだように感じます。

 もうひとつ、こちらは半藤さんの代名詞である“歴史探偵”の由来秘話です。
 最初に“歴史探偵”を名乗り始めたのは、あの坂口安吾だったというのです。文藝春秋の入社前、半藤さんは坂口安吾宅へ原稿を取りに訪れ、そこで坂口安吾本人から彼流の “歴史の見方” を教授されました。

(p211より引用) 歴史というのは、ここに一つの史科がある。だけど、失われた史料があるということに想像力を働かせて、「では、この間に何があったのか」ということを、ごく常識的に自分で考え抜いて埋めていくことで、現在残っている史料というのがどういう意味を持つかということがわかるのだと。これをきちっとやらないで、こっちの史料だけしか知らないから、歴史はこういうものだと思い込むのは間違いだと。だから、歴史というのは、裏にもう一つの史料が存在するのだが、それは必ず潰されているんだと。

 残された史料のネガを想像して、その裏に隠されている“歴史”を探索していく営み。半藤さんは坂口安吾から歴史を探る楽しさを教えられたのでした。

 そして最後は、半藤さんの若者に対するメッセージ
 15歳のとき経験した“東京大空襲”。その体験を書き留めつつ、半藤さんはこう訴えています。

(p242より引用) 戦争というのは非常に悲惨なものであり、残酷なものであると。自分はけっして人を殺さないなんて思っていても、もう、自分が助かりたい一心で、わたしも人をはねのけた覚えがあります。そんなことを考えると、本当に非人間的なものである。だから、「戦争というものは、本当に人間がやってはならない一番最大の悪だよ」ということを繰り返して言いたいと思いますね。・・・
 戦争というのは、けっして天から降ってくるものでも何でもないです。人間たちの判断が、間違った判断を一つすると、また次の判断を、また間違った判断をする、その積み重ねが戦争のような非人間的なことに到達していってしまう。だから、やはり、歴史を知らないと、

 こういう体験を自らのこととして伝えられる人に替わって、歴史を記した書物が “人々にとっての戦争の実像” を語り継いでいくのです。とても大切なことだと思います。

 本書が伝える“15歳の戦争体験”は、今の若い人たちは対する半藤さんからの魂のメッセージです。

 

 


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