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「指南書」としての花伝書

2005-11-20 15:17:47 | 本と雑誌

 以前、私はこのBlogでマキアヴェリの「君主論」を「プレゼンテーションツール」としても一流と書きました。

 この「花伝書」は、形式的に「指南書」としても極めて上質なものだと思います。

 その構成ですが、イントロダクションとしての「序」に続き、「第一 年来稽古条々」の章で、「年齢段階順」に申楽の稽古の要諦を示しています。

 次に「第二 物学条々」の章において、申楽の芸の基礎となる各種「物まね」の心得・注意点を整理しています。その示し方は、「女」「老人」等々、ひとつひとつ具体的対象を挙げて個々に詳しく勘所を解説しています。

 「第三 問答条々」は、今流にいえば「FAQ」です。「第一」「第二」の稽古が進んだ者が、より深く申楽の奥義を体得しようとする姿勢に応え、実際の舞台本番においてその力が発揮できるような活きた智恵を与えています。

 「第四 神儀に云ふ」は、申楽の歴史について述べた章です。解説によると、この章は以下のような目的で書かれたとのことです。

(p164より引用) 当時の申楽者は、平安初期に楽戸を辞退して以来、戸籍のない民であって、自ずから社会的地位・身分を卑しめる境遇に甘んじていたのである。・・・それら申楽者が、尊重すべき長い歴史を持つ芸道に身を置くものであることを自覚することによって、彼等の持つ社会観を変更させ、自己の歩む芸道に自信を持たせようと企図したのである。

 とすると、この章は、グループのリーダ(統帥)としてミッションの正統性を明らかにし、メンバのモチベーションの向上を図るための宣言とも言えます。

 「第五 奥神儀に云ふ」は、申楽の意義・価値を明らかにし、申楽を演ずる目的、そもそも芸能の本質とは何か等について述べた章です。この章をもって、申楽の道に精進するものをして、その道を究めようとの自覚を増さしめ、さらに、なお一層の研鑽に努めることに至らしめています。

 まさに、芸術・芸能の本質論から歴史、求道の目的、具体的研鑽方法・心構えの解説、意欲継続・増進に向けた訴求等、あらゆる要素を包含したフルスペックの指南書と言えます。

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