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賢慮型リーダーシップ (美徳の経営(野中郁次郎・紺野登)

2008-11-30 15:43:24 | 本と雑誌

Churchill   「高質の暗黙知、実践的な合理性に基づく知性」と定義づけられる「賢慮」を体現するリーダー、すなわち「賢慮型リーダー」の要素として、著者は、6つの能力を挙げています。

 
(p103より引用) 「賢慮」型リーダーシップは、実践的推論を軸として行為を現実化する次の六つの賢慮の要素(能力)からなっている。
(1) 善悪の判断基準を持つ能力
(2) 他者とコンテクストを共有して共通感覚を醸成する能力
(3) コンテクスト(特殊)の特質を察知する能力
(4) コンテクスト(特殊)を言語・観念(普遍)で再構成する能力
(5) 概念を共通善(判断基準)に向かってあらゆる手段を巧みに使って実現する能力
(6) 賢慮を育成する能力

 
 この「賢慮型リーダー」の代表者として著者が紹介しているのが、20世紀を代表する英国の政治家ウィンストン・レオナード・スペンサー・チャーチルです。

 「賢慮型リーダー」は、従来の典型的リーダー像である「戦略的リーダー」とは異なる特性を有しています。

 
(p136より引用) PL(賢慮型リーダー)は「変革型」「牽引型」リーダーというより、①知識のインフラづくり、②後進の育成(コーチングや動機づけ)、③知の発信(知識資産価値、セミナー)を行っており、「社会関係資本」(ソーシャル・キャピタル)に働き掛ける「知のプロデューサー」の側面を持つのである。

 
 他方、「戦略的リーダー」は、米国のMBA出身者に見られるように、基本的には現状分析から戦略を導きだす「分析型リーダー」です。

 
(p140より引用) われわれの調査でも、分析型リーダーの資質が経営や業績にとくに貢献しているという姿は見えてこないのである。分析型リーダーとは、戦略計画などの技術・技能の側面に光をあてて生み出されたモデルである。こうした「理想モデル」の周辺や背後においては、現場での実践や人間的側面が軽視されてきたともいえる。賢慮のリーダーとは、資質、意識、経験を取り込んだ、より全人的リーダーシップへのアプローチでもある。

 
 ハーバードビジネススクールのR.オースティン教授も、「分析的方法」に疑問を呈しています。

 
(p175より引用) かれらもまた戦略計画の分析的なありかたを批判する。不確実な経営環境においては先を読む地図が必要だが、実際われわれは将来を知ることはできない。ところが分析的方法は最初に分析によって特定の方向を定めることからしか出発しないので、うまくいかない。ではどうするか。常に創り続ける姿勢が重要である。たとえばアーティストは何を創るか(仕様)は定めていないが、その場その場で何を創りたいか、創るべきかの意志によって、環境が変化しても成し遂げていく。これが知の時代の生産システムのありかただという。

 
 ここに、次の時代の企業観として、「知の時代の生産システム」を有する「芸術企業(artful firm)」というコンセプトが提示されています。
 美学にもとづく経営です。

 そういった新たな企業をリードするのが「賢慮」を有する「全人格的リーダ」です。
 「全人的リーダーシップ」は、基軸となる価値観として「真善美」を重視し、同時に、現実の矛盾した要素において「中庸」を知るという「実践型」のリーダーシップと言えます。
 
 

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