新渡戸稲造氏については、恥ずかしながら先の5000円札の肖像になるまでは多くを知りませんでした。
新渡戸氏の代表的著書『武士道』(BUSHIDO THE SOUL of JAPAN)は、日清戦争と日露戦争とのはざま1900年(明治33)に初版が出版され、アメリカでベストセラーになる他、多くの国でも翻訳され広く読まれました。
新渡戸氏は、日本の古来からの精神的支柱ともいうべき「武士道」の解説をもって、真正面から日本の精神性の高さを論じています。しかしながら、
(p138より引用) 他方、我が国民の欠点短所に対しても武士道が大いに責任あることを承認するのは公平である。
と、武士道が影響した日本人の行動・学問・精神上の欠点等についてもフェアに開襟しており、このあたりもこの著作が諸外国にても高く評価された一因でしょう。
その論は英文をもってなされ、その論旨は日本のみならず広く西欧思想への深い造詣をもとに進められています。また、ところどころに顔を出すウィットに氏の博識と批判精神が光ります。
著作は全17章からなりますが、それぞれの章の締めは意識して次章へのイントロダクションの役割も担わせており、氏のロジカルでもあり律儀とも言える構成力が見て取れます。
この著作は、当時の西欧社会における日本理解及び日本の後進性に対する反証に大きく寄与しました。これは著作自体の質の高さもさることながら、英文にて深い西欧知識も踏まえての論陣を張った「新渡戸稲造という超一流の進歩的国際人の存在」によるところが極めて大きいのです。
武士道 (岩波文庫 青118-1) | |
矢内原忠雄訳,新渡戸稲造 | |
岩波書店 |
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