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理論の役割 (間違いだらけの経済政策(榊原英資))

2009-03-01 15:57:53 | 本と雑誌

 著者は、元大蔵官僚のエコノミストです。
 本書において、著者は、現在の経済の構造変化に対応するためには、従来型のマクロ政策は役に立たず、それぞれの分野の需要と供給に直接影響を与えるミクロの政策が必要だと説きます。

 著者は、現在の日本の経済運営に関わっている人たちの「マクロ理論」信奉に問題があると指摘しています。

 
(p34より引用) 現実が大きく変化しているのに、あるいは、対象としている現実が理論の想定しているものと著しく異なっているのに、現在、確立している理論で現実を分析しようとする態度が、特に日本の政府当局者やエコノミストに強いようです。

 
 特に、ここ10数年間、「理論」は前提とした「現実」のもとでのみ機能するという「理論と現実との関係性」を逸脱した経済政策がとられてきたと言います。
 理論偏重の考え方です。

 
(p35より引用) 日本的現実と理論とがくい違うと、「日本的現実が遅れているのだから、まずこれを変えなくてはならない」という、本来の理論と現実のあり方からいったら、まさに逆立ちしたような議論がしばしばなされたのです。
 ・・・筆者も一つのきわめて有効な経済分析の枠組みとしてのマクロモデルを否定するつもりは毛頭ありません。
 しかし、構造が大きく変わっている場合には、その分析力には限界があり、かつ理論モデルの側から演繹的に現実を切ってはならないということには十分留意すべきだと言っているだけなのです。

 
 著者は、ひとつの指標で物価を判断することの問題点を繰り返し指摘しています。
 東アジアを中心とした経済統合によって構造的なコスト削減が可能となり、それが物価の安定状態(デフレ)をもたらしました。と同時に東アジア経済圏に対する日本からの輸出も活性化し景気拡大も進んだのです。
 景気拡大とデフレの同時進行という現実の姿は、従来からのマクロ理論では説明困難な状況です。
 さらに最近では、製品価格の下落(デフレ)と資源価格の上昇(インフレ)とが共存しています。

 
(p71より引用) インフレの時代だ、いや、まだデフレが続いているという議論をしていてもあまり生産的ではありません。問題は、価格の構造変化であり、一つに抽象された価格のレベルではないからです。
 つまり、一国・一財一価格を基本とするマクロ経済理論やマクロモデルが、経済統合・価格革命などの構造変化でその有効性を大きく減じてきたのです。

 
 元大蔵官僚であること、すなわち、ある意味では経済運営の失態の責めを負うべき立場にあることから、著者の発言の評価には触れ幅があるようです。
 ただ、本書についていえば、旧態然とした従来の経済政策の問題点を、初心者にも分かりやすく整理・解説しているように感じました。
 
 

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コメント (1)    この記事についてブログを書く
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1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
TBありがとうございます。 (Johannes Chrysostomos(黄金の口))
2009-03-04 08:30:35
TBありがとうございます。
サブプライムショック後の経済政策に関しては多数の書籍が出版されていますが、本書が一番適正に問題点を指摘しているように思えました。
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