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通訳日記 ザックジャパン1397日の記録 (矢野 大輔)

2015-03-22 21:59:08 | 本と雑誌

 サッカーは大好きです。とにかく面白いサッカーを見るのが好きです。
 その点、日本代表のスタイルは正直あまり好きではありません。ワクワクしないんですね、日本代表にはズラタン・イブラヒモビッチはいないのです。やはり素材としての選手のタイプから、自ずとそのスタイルは規定されてしまうのでしょう。

 そのあたり、ザッケローニ氏が監督として日本代表をどうプロデュースしていったのか、ああいったスタイルに導いた必然性がこの本で語られているかもしれないと期待して手にとってみました。

 日本代表のサッカーを見ていて、おそらく誰しもが最も不満に思うこと。それは、しばしば中盤で交わされる「意思のない横パス」でしょう。2011年1月9日アジア杯初戦ヨルダンと引き分けた試合後の監督のコメントです。


(p46より引用) 監督が繰り返し話したのは、横パスと無意味なボールポゼッションが多くすぎたこと。


 そして、2013年6月、コンフェデレーションカップの初戦でブラジルに圧倒されたとき、このときも日本の悪い癖が出てしまいました。


(p226より引用) 我々が我々のプレーをしなければ、力を出し尽くさなければ、何が通用して何が通用しないのか分からない。その点でブラジル戦は無駄に終わったと考えている。


 こうザッケローニ監督は話したのですが、素人目には、日本代表が力を出し切れないほど、実力の差があったように思えました。自分たちのサッカーをするためには、自分たちの形でボールを持たなければ始まらないわけですが、日本は、そういう機会をほとんど作らせてもらえませんでした。


(p291より引用) これまでやってきたことが上手くいかなくなって、結果も出なくなると、当然迷いが生じる。監督として、オープンマインドで新しいチョイスを受け入れる姿勢を持たなければいけないが、それはチームとしてのコンセプトをすべて出し切り、それでも埒が明かないようであれば、新たなものを付け加えなければならないと思っている。


 この「すべて出し切る」という見極めがとても難しいのだと思います。早過ぎれば、それは安易な諦めになり、何をやっても中途半端に終わってしまうということになりますし、遅れれば、後手を踏んでさらに泥沼に沈みこんでしまいます。

 さて、本書の著者は、ザックジャパンの通訳という立場で、ザッケローニ監督が選手たちとコミュニケーションをとる場には必ず立ち会っていました。そこには、普通のマスコミを通しての報道では伺い知ることのできないザッケローニ監督や日本代表の素顔がありました。

 その中で印象的だったのは、ザッケローニ監督が選手たちに寄せている信頼の言葉でした。
 特に、長谷部選手に対する信頼には一方ならぬものがありました。長谷部選手が自分のキャプテンシーに疑問を抱いて、監督に相談した時、ザッケローニ監督はこう返したと言います。


(p177より引用) あらためて言おう。これからのチーム作りに関しての心配事や考えなくてはいけないことが多くある中で、唯一、キャプテンのことは何も心配していないんだよ


 これ以上の賞賛の言葉があるでしょうか。

 が、そういった日本代表選手にまつわるエピソード以外で私が興味を抱いたのは、ザッケローニ監督の人となりを示す数々の言葉でした。
 たとえば、監督就任しての第2戦2010年10月12日韓国戦を前にした移動バスの中で、著者にこう話したそうです。


(p32より引用) 「大輔、覚えていろ。人生でも何でもそうだ。何かをしたいと思ったら、リスクを冒さなければならない。リスクを恐れることが一番よくないんだ


 また、2011年1月9日アジア杯第2戦シリアに2対1で勝利したとき。


(p51より引用) 何とか勝った。嬉しかったけど、監督から「勝ったからといって、相手の目の前で喜び過ぎないように。相手は悔しい思いをしているのだから」とたしなめられる。


 勝ったからといって驕らない、相手をリスペクトした思いやりの心です。
 そして最後、2010年1月のアジア杯で優勝したあと、イタリアに一時帰国するため成田に向かうため車中での監督の言葉はとても印象的です。


(p72より引用) 「成功や結果は約束できないが、努力することは約束できる」


 以前、同じく日本代表監督だったイビチャ・オシム氏を描いた「オシムの言葉」という本を読んで、その人柄に深く感銘を受けたことがあります。
 本書で語られたアルベルト・ザッケローニ氏もまた、そうでした。

 

通訳日記 ザックジャパン1397日の記録 (Sports Graphic Number PLUS)
矢野大輔
文藝春秋

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