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クリティカル・コア (ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (楠木建))

2010-11-02 22:56:09 | 本と雑誌

 楠木氏によると、起承転結の「戦略ストーリー」の肝は、「起」の「コンセプト」と「転」の「クリティカル・コア」にあるといいます。その「クリティカル・コア」についての著者の解説です。

 
(p295より引用) 「戦略ストーリーの一貫性の基盤となり、持続的な競争優位の源泉となる中核的な構成要素」、これがクリティカル・コアの定義です。・・・第一の条件は、「他のさまざまな構成要素と同時に多くのつながりを持っている」ということです。・・・つまり・・・「一石で何鳥にもなる」打ち手です。・・・
 第二の条件は、「一見して非合理に見える」ということです。・・・しかし、ストーリー全体の中に位置づければ、強力な合理性の源泉になる。クリティカル・コアの特徴はこの二面性にあります。

 
 この「クリティカル・コア」の「ひねり」が他社を寄せ付けない「持続的な競争優位」をもたらすのだと著者はいいます。

 
(p322より引用) クリティカル・コアは、部分の合理性と全体の合理性が別ものであるということに着目しています。戦略全体の合理性は、部分の合理性の単純合計ではありません。・・・部分的な非合理を他の要素とつなげたり、組み合わせることによって、ストーリー全体で強力な全体合理性を獲得する。・・・
 ストーリーの本質は「部分の非合理を全体の合理性に転化する」ということにあります。

 
 「非合理な要素」の具体例として著者が挙げているのが、スターバックスの「直営方式」です。
 経済合理性からいえば「フランチャイズ方式」の方が望ましいと一見誰もが思います。しかしながら、「店舗の雰囲気」「出店と立地」「スタッフ」等の要素を通して、顧客に「第三の場所」を提供するというスターバックスの「コンセプト」を確実に実現するためには、「直営方式」が不可欠だとの論です。
 そして、この「非合理性」は、競合の追随において「動機の不在」「意識的な模倣の回避」をもたらし、そこにスターバックスの「持続的競争優位」が生じたのだと著者は指摘しています。
 デルにおける「自社工場での組立て」、サウスウエスト航空における「ハブ空港は使わない」、アマゾンにおける「自前の物流センター」といった構成要素も「クリティカル・コア」です。

 さて、このクリティカル・コアを含んだ戦略ストーリーは企業に「競争優位の長期的持続性」をもたらしますが、それは「他者の自滅」によるところも大きいというのが、著者の考察の興味深い点です。

 
(p370より引用) 優れた戦略ストーリーの競争優位が長期の持続性を持つ理由は、その企業の戦略の模倣を困難にする障壁があるというよりも、・・・追いつこうとする企業が戦略を模倣しようとする結果、自滅していくからではないか。・・・場当たり的に戦略を模倣しても、オリジナルの戦略の競争優位の本質であった交互効果は発揮できません。戦略が不全をきたし、かえってちぐはぐなことになります。・・・これまでの戦略の一貫性や強みも破壊され、パフォーマンスの低下の憂き目に遭うという成り行きです。

 
 この自滅の論理がより顕著になるのは、戦略のコアに「一見非合理」な要素が含まれているケースです。

 とはいえ、著者の説く「戦略ストーリー」も実行されなくては無意味です。

 
(p423より引用) どうしたら「一見非合理」なことをあえてするという決断に踏み切れるのでしょうか。・・・それは自らの戦略ストーリーに対する「論理的な確信」にしかない、というのが私の意見です。戦略ストーリーを構想する経営者は、自らのストーリーに論理的な確信を持てるまで、「なぜ」を突き詰めるべきです。

 
 第6章「戦略ストーリーを読解する」の中で、著者はこう語っています。

 
(p425より引用) 戦略とは将来の世の中や環境が「こうなるだろう」(だからそれに適応しよう)という予測ではありません。自分たちが世の中を「こうしよう」という主体的な意図の表明です。

 
 大事なことは「切実な意思」です。
 
 

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