いつも聞いているpodcastに著者の小川さやかさんが登場して、本書の内容のさわりを紹介していました。それでちょっと興味を持ったので手に取ってみました。
私の今まで抱いていた常識とはまったく異なった世界での活き活きとした生活模様はとても刺激に満ちています。
まずは、“魔窟”ともいわれる香港のチョンキンマンションを中心に暮らしているタンザニアの人びとの「思慮深い無関心」について。
(p51より引用) 香港のタンザニア人たちは、「みなそれぞれのビジネスをしている」「他人の人生は他人のものである」などと言い、あまり他者の生き方に口をださない。だが彼らは、「信用するな」と言いながらも、偶然に出会った得体の知れない若者を気軽に部屋に泊める。「信用するな」と私に忠告する相手と食事をおごりあい、カネを貸しあい、時には別の次元で「彼/彼女は信用できるやつだ」とも「信じていたのに裏切られた」とも言う。
そして、そういう摩訶不思議な関係性を認めていながらも、結局のところ「窮地にあるときには助け合う」のです。
(p79より引用) カラマたちと暮らしていると、組合活動への実質的な貢献度や、特定の困難や窮地に陥ることになった「原因」をほとんど問わず、たまたまその時に香港にいた他者が陥った状況(結果)だけに応答して、可能な範囲で支援するという態度がひろく観察される。
ここには助力するにあたっての「厳密な基準やルール」はありません。「私があなたを助ければ、だれかが私を助けてくれる」「最終的にはいろいろな事情があるんだから、細かいことをいうのはやめようぜ」といった緩いルールでの行動規範が実効性の高い互助機能として活きているのです。
(p87より引用) このように、他者の「事情」に踏み込まず、メンバー相互の厳密な互酬性や義務と責任を問わず、無数に増殖拡大するネットワーク内の人々がそれぞれの「ついで」にできることをする「開かれた互酬性」を基盤とすることで、彼らは気軽な「助けあい」を促進し、国境を越える巨大なセーフティネットをつくりあげているのである。
とても興味深い仕組みですね。
今日のインターネット上には多彩な「個人情報」に加え個人個人の「信用スコア」により格付けられた経済圏が生まれています。そのアンチテーゼとして「チョンキンマンションのボス」の“アングラ経済モデル”はとても人間らしく魅力的に映ります。
(p258より引用) 信用システムが確立されれば、信用スコアを獲得するための競争が始まる。業績や社会的地位、能力を高めるための競争、有力者とのコネクションを増やす競争は、人々のあいだの潜在的な差異を序列化することになる。彼らが言うように、特定のブローカーを「信頼できる相手」と「信頼できない相手」と仕分けるよりも、「誰も信頼できないし、状況によっては誰でも信頼できる」という観点に立って、個々のブローカーが置かれた状況を推し量り、ひとたび裏切られても状況が変われば何度でも信じてみることができるやり方のほうが、本人の努力いかんに関わらず足を踏み外したり災難にみまわれたりする不条理な世界を生きぬいていきやすいのではないか。
この小川さんの評価ですが、いかがでしょう、みなさんはどう思いますか。
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