いまだ人気の衰えを知らない池上彰氏の著作です。
タイトルから吉野源三郎氏の名著「君たちはどう生きるか」を連想して、手に取ってみました。
池上氏の本は今までも何冊か読んでいますが、氏の本を前にすると、今度はどんな新たな知識を教えてくれるのかという期待とともに、それをどういうふうに伝えてくれるのかという「切り口」へのワクワク感がありますね。
ですが、本書を読み終えてみると・・・、これは、かなりフラストレーションが溜まるものでした。
取り上げているテーマはもちろん興味深いものが多かったのですが、その解説の内容やそこからの示唆という点では、正直なところ期待はずれです。
たとえば、「イスラム国」について。
「イスラム国」は、国際テロ組織「アルカイダ」・アフガニスタン反政府武装勢力「タリバン」に代わり、短期間に急速に巨大化していきました。その過程において、「カリフ制の復活」を唱え過激な活動をとるイスラム国の主張は、多くのアラブ人を惹きつけているという状況があることも否定できません。
そのあたりの池上氏の解説はこんな感じです。
(p193より引用) 第1次世界大戦中、イギリスやフランスは、オスマン帝国が崩壊したら、その地域を山分けしようという秘密協定を結んでいました。「サイコス・ピコ協定」です。・・・
この国境線を打ち破ったというのが、「イスラム国」の主張です。・・・
ヨーロッパの列強によって勝手に引かれた国境線を、自分たちで引き直す-。この主張は、地元のアラブ人にとって魅力的な響きがあります。
こういった説明から、現代の国際問題の背景解釈には歴史の知識が不可欠とのアドバイスにつながっていくのですが、どうもこの程度の短絡的なストーリー展開は、想定している対象が理系の大学生であるとしても(あるがゆえに)圧倒的に物足りないものがありますね。
「いま、君たちに一番伝えたいこと」というタイトルが本書のメッセージを真に表わしているのだとすると、この程度の掘り下げ方で止まっているエピソードの列挙が「一番伝えたい」ということになるわけです・・・。ちょっと、幾らなんでもそれはないでしょう という感じですね。残念です。
いま、君たちに一番伝えたいこと | |
池上 彰 | |
日本経済新聞出版社 |
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