村上氏の著作は、以前にも「やりなおし教養講座」「新しい科学論」といった本を読んでいます。
今回読んだ「科学の現在を問う」という本は、時期的には両書の間ごろに書かれたものです。したがって、「現在」といっても今から約10年前のことになります。
10年前の本であっても、「原発事故」や「医療(クローン技術等)」に関する説明は分かりやすく、科学・技術に係る基礎知識を整理するには有益な内容でした。
また、「原発事故」の章では、高速増殖炉実験炉「常陽」の臨界事故を例に「事故発生プロセス」が分析されており、その文脈のなかで技術における「メインテナンス」の重要性が説かれていました。
(p64より引用) この問題は、日本において技術の問題を考える際に気をつけなければならない一般論へと私たちを導いてくれる。それはメインテナンスの重要性である。
メインテナンスに代表される「下流プロセス」はしばしば軽視されます。
(p67より引用) 実際、政治の予算措置などを見ても、新しい設備、建物、機械を導入するときには、比較的気前良く予算が配られるが、そうしたものを日常的に維持、管理、運営していくためにかかる費用については、一切面倒を見ないというのが原則である。
しかしながら、いくら作っても稼働し続けなくては何の意味もありません。
「作ったら動くのは当たり前」ではありません。さらに、稼働させ「続ける」ことは、実はものすごく大変なことなのです。この大変さは、それを実際に担当したことがないと分からないかもしれません。
(p66より引用) 造られたものを安全に機能させるためには、造ったときに匹敵するほどの努力(資力と技術力)を注がなければならないのである。これを怠れば、造られたものは、無用の長物ならばまだしも、凶器にさえ変じることがある。
科学・技術関係の啓蒙書において、こういった事実にも日を当てることは非常に意義深いことだと思います。
(p67より引用) こうして構造的に軽視されるメインテナンスこそ、システムの安全にとって、最も重要な課題であることは、いくら強調してもし過ぎることはないはずである。
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