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パワハラ上司を科学する (津野 香奈美)

2023-12-09 10:32:29 | 本と雑誌

 

 いつも聴いている大竹まことさんのpodcastの番組に著者の津野香奈美さんがゲスト出演していて、本書についてお話ししていました。

 科学的データに基づくパワーハラスメントの発生要因や対策等の研究成果を体系的に整理し解説した著作です。
 私が今まで勤務した会社でも少なからずパワハラは発生し、それらへの対応に関与してきた経験もあることからちょっと気になって手に取ってみました。

 数々の興味深い指摘がありましたが、それらの中から特に私の関心を惹いたところをいくつか書き留めておきましょう。

 まずは、「パワハラ発生のメカニズム」についてです。
 本書では、パワハラの発生するメカニズムして「個人的パワハラ」と「構造的パワハラ」の2類型を挙げています。いずれも気になるところですが、私としてのより強い関心は「個人的パワハラ」にあります。

 津野さんは「個人的パワハラの発生原因」を、まず以下のように概括しています。

(p134より引用) 人がいじめやパワハラをしてしまう原因に、自尊心の不安定な高さ、感情知能の低さ、自分の言動が他者にどのように影響するのかの認識の甘さ、他者に対する期待水準の高さがあることがわかっています。
 これらの原因の中で一番に指摘されているのが「自尊心の不安定な高さ」です。

 “自尊心” を持つこと自体は、向上心を高める動機ともなるので必ずしも悪いことではないのですが、実際の組織や社会の場で扱おうとするとどうやらかなりの難物のようです。
 一時、“自尊心” を高めるような教育が流行りましたが、成果は期待とは裏腹でした。

(p137より引用) 「あなたは存在しているだけで素晴らしい」という教育やメッセージが繰り返された結果起こったのは、期待されていた成績向上や犯罪率の低下ではなく、むしろ「負の効果」でした。高い自尊心、その中でもナルシシズムは、プライドを傷つけられたことへの報復として他者を攻撃すること、そして自尊心の高い人は、低い人と比べて内集団(自分が所属する集団)を優遇する傾向にあり、それが差別や偏見を助長させる可能性があることが示されたのです。

 「不安定な自尊心」は、自尊心が傷つくのを恐れるあまり “自己防御” に走り、他者を攻撃したり排除したりしてしまうとのことです。

 もう一点、「構造的パワハラ」についても、ひとつ「キーコンセプト」を押さえておきましょう。
 それは、「ソーシャル・キャピタル (social capital) 」という概念です。

(p167より引用) シーシャル・キャピタルは、ネットワークや規範、信頼などの社会組織の特性のことを指します。社会疫学や公衆衛生学の分野でよく使われている概念で、メンバー同士のつながりが強く、お互いを信頼しており、相互規範が共有されている時に、ソーシャル・キャピタルが高いと判断します。

 この「シーシャル・キャピタル」 の負の側面がハラスメントの発生要因に関係します。

(p168より引用) ただ、団結力が強かったり、同質性が高かったりすることは、異質なものを排除する力の強さにつながります。日本は島国であり、「同じ日本人」として高い同質性が期待される傾向にあります。

 同質性が高い組織や社会では、「部外者」だと認識された途端に排除されるリスクが高まると津野さんは指摘しています。

 そして、最後に書き留めておく要諦は、「パワハラや部下のメンタルヘルス不調の予防に資するリーダーシップ形態」についてのアドバイスです。
 この論点について、津野さんは、まず「マネジメントとリーダーシップの違い」についての整理を紹介しています。

(p235より引用) ハーバード大学ビジネススクール名誉教授であるジョン・P・コッタによると、マネジメントは「計画と予算の策定」「組織編成と人員配置」「統制と問題解決」によって構成されるのに対し、リーダーシップは「方向性の設定」「人心の統合」「動機づけ」から構成されると定義されています。
 管理職であればいわゆるマネジメント業務を行うのは当然ですが、その管理職にリーダーシップがあるかどうかは別問題です。

 “マネジメントとリーダーシップのバランスが重要” とのことですが、ここで言う「リーダーシップ」についても、マギル大学のヘンリー・ミンツバーグ教授による興味深い指摘を踏まえ、津野さんはこうアドバイスしています。

(p237より引用) つまり、「人が協力して働き、個を尊重し、組織をより良い場にするために互いを結び付けていくこと」「コミュニティシップ」であり、これを実現するために必要な程度のリーダーシップで十分ということです。

 業務成果向上や職場環境の改善には、しばしば上司の「リーダーシップ」が必須と言われますが、どうやら不必要なまでに強調され過ぎているようです。行き過ぎた “リーダーシップの発揮” は、パワハラと紙一重ということですね。

 ここでのキーコンセプトは “個の尊重” です。
 「個別配慮型リーダーシップ」がもっともパワハラ発生のリスクが低いとのこと、“個人へのリスペクトと一人ひとりへの心配り”、パワハラ防止に止まらず、あらゆる人間関係のシーンで忘れてはならない姿勢ですね。

 

 

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