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シリア アサド政権の40年史 (国枝 昌樹)

2013-01-16 23:54:50 | 本と雑誌

Flag_of_syria  ちょうど読む本が切れたので、妻が読み終わっていた本を借りてみました。

 2011年春の民衆蜂起以来、政情不安で大揺れのシリアの紹介本です。著者の国枝氏はシリア大使も歴任した元外交官です。

 私自身、シリアについては全く知識がなかったので、種々興味深いところがありました。

(p70より引用) シリアにとって湾岸諸国との関係は政治的にも経済的にも重要である。イスラエル占領地の回復とパレスチナ人の権利回復というアラブの大義の下、湾岸諸国にとってもシリアは中東紛争の鍵を握る国として支援対象であり、経済交流も少なくない。湾岸諸国で経済活動をするシリア人は多い。

  「中東の活断層」ともいわれ対外的にも微妙な位置にいるシリアですが、国内情勢も複雑です。

(p71より引用) シリア社会は複雑な宗教・宗派社会であり、多民族国家でもあって、歴史的にそれら構成要素の間で緊張関係が展開してきた。

 人口の9割はアラブ人、宗教的にはスンニー派イスラム教徒が75%近くを占めるとのことですが、基本は部族社会で、特に近年は部族意識の高まりが認められるといいます。

 さて、シリアの国際社会における位置づけを理解するには、イスラエル・パレスチナ・アラブ諸国間の歴史的問題を避けて通るわけには行きません。そこには常に権謀術数を巡らした外交交渉や紛争がつきものでした。そして、当然のことながら米ソ英仏(当時)といった大国の思惑も絡んでいました。

 この地域を巡る混乱が「戦争」という形で噴出したのが数次にわたる中東戦争です。当時のキーパーソンの一人はキッシンジャー米国務長官でした。

(p163より引用) キッシンジャー国務長官は、第四次中東戦争の灰燼がまだくすぶっている中東世界に自らが乗り出して戦後世界の枠組みの構築に腐心した。
 その際の戦略は、ソ連を牽制しながらアラブ社会で最大の軍事力を持つエジプトをアラブ戦線から引き剥がしてイスラエルとの単独講和に引きずり込み、シリアとパレスチナ勢力が軍事的にもはやイスラエルに対抗できない状況を作ることだった。・・・
 エジプトと米国との交渉で顧慮されることがなかったパレスチナ人たちは荒野に放たれた。彼らは過激化し、中東地域全体に暴力の芽を拡散させていった。

 こうした米国の対中東基本戦略はその後の政権の変遷を経ても大きな方向性としては堅持されました。
 そういった国際的圧力の中、本書で紹介されているバシャール・アサド現シリア大統領の基本認識は、昨今の多くのマスメディアの論調とは異なるトーンです。

(p217より引用) バシャール・アサド大統領はシリアがイスラエルに対して軍事的に対抗できるような力の均衡を実現できるなどの幻想は一切抱いていない。アラブ世界が経済、技術、社会などすべての分野で発展に努めて総合的にイスラエルと肩を並べ、そのような条件下で平和を求めることこそが永続的で包括的な平和を作れるという認識だった。

 本書を読んで、私自身、改めて中東地域の政治的安定の困難さを認識しました。その困難さのひとつの要因は、伝えられる情報における選択の恣意性・意図的なバイアス等にあります。

 本書で紹介されている事実も多くは二次情報なので、何等かのノイズが入っていう可能性はありますが、それでも、誤った情報や報道が主要関係国の政策決定や国際世論形成に大きな影響を与えていることは、どうやら事実のようです。

 単一の報道(インプット情報)に依存することなく多角的に情報を集めて現状を把握・認識・評価する大切さを改めて感じますね。


シリア アサド政権の40年史 (平凡社新書) シリア アサド政権の40年史 (平凡社新書)
価格:¥ 819(税込)
発売日:2012-06-17



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