畑村氏の本はいままでも結構読んでいます。
本書は、著者が提唱している「失敗学」の研究から導かれた「失敗を乗り越えるための現実的なアドバイス」を開陳したものです。
畑村氏は、人間が生来もっている「回復力」を大切に考えています。
まずは、失敗から立ち直るためのエネルギーの充填を第一とし、疲弊している状況からの強引なリカバリーを否定します。
(p34より引用) 程度に差はありますが、失敗したときには誰だってショックを受けるし傷つきます。・・・こういうときに失敗とちゃんと向き合い、きちんとした対応をしようとしても、よい結果は得られません。大切なのは「人(自分)は弱い」ということを認めることです。自分が、いまはまだ失敗に立ち向かえない状態にあることを潔く受け入れて、そのうえでエネルギーが自然に回復するのを待つしかないのです。
不思議なもので、人はエネルギーが戻ってくると、困難なことにも自然と立ち向かっていけるようになります。これは人間がもともと持っている「回復力」の為せる業です。
失敗と向き合うための方法は、過去の畑村氏の著作でも説かれていますが、その第一歩は「失敗を認める」ということです。
(p72より引用) 失敗を失敗と認めないうちは、失敗後の対処など考えることができないし、悪い現象を前にして何ひとつ手を打つことができないのです。だから失敗にうまく対処するには、自分の失敗を認めることが第一歩なのです。
そして、自ら認めた失敗を自ら評価するのです。
畑村氏が薦める評価方法は「絶対基準」からの評価です。「お天道様に向かって堂々と話せるかどうか」、これが畑村氏の基準です。ただ、これは結構難しいことです。
(p80より引用) 自分の中に絶対基準を持つことは、失敗の評価をきちんと行うことにつながりますが、これとは別にきちんとした視点で失敗を見ることも、失敗を正しく評価するための有効な手段です。
その中でもとくに重要なのは「物理的視点」「経済的視点」「社会的視点」「倫理的視点」という四つの視点です。
失敗は誰にとっても嫌なことです。誰でも、知られたくないと思うものです。しかし、ここに大きな危険があるのです。「記憶のすり替わり」です。
(p95より引用) もともと失敗について検討するときには、人は、「自分は悪くない」という理由づけをどう行うかを重点的に考える傾向があります。・・・その一方で、失敗を招いた自分の悪い行為に関する記憶はいつの間にか消えてしまいます。その結果、頭の中ではいつの間にか自分にとって都合のよい架空の記憶へのすり替わりが起こるのです。
こうして自分に失敗したという自覚がない状態で失敗が隠蔽されると、また同様の失敗が再発する可能性が高まります。さらに危険な「失敗の再生産」のサイクルに入ってしまうのです。
さて、本書では、「失敗と付き合う」ための具体的な方法がいくつも示されています。中には、「逃げる」とか「他人のせいにする」といった方法まで紹介されています。
もちろん、こういった姿勢は通常の状況では褒められたものではありません。しかし、それを承知で畑村氏は薦めているのです。
失敗から回復できず最悪の状況に陥ることだけは、何としても避けなくてはならないという強い意志の表れです。
(p114より引用) 「あきらめない」というのは、失敗と付き合うときの大切な心構えですが、ここでいう「あきらめない」は、目標に向かってひたすら「やり続ける」というのとはちょっと違います。これは「意欲を持ち続ける」という意味です。行動としては、あえて失敗と向き合うことを中断することがあってもいいのです。
なんとか「意欲」を持ち続けて「回復力」を待つのです。
「明日は明日の風が吹く(”Tomorrow is another day.”)」という台詞が、口に出るようになれば大丈夫です。
回復力~失敗からの復活 (講談社現代新書) 価格:¥ 756(税込) 発売日:2009-01-16 |
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
TREviewブログランキング