Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol.266:ICTを活用した教育に関する調査報告書(NIME2007年度)

2008年03月21日 | 調査・アンケート
昨年『VOL222:e-learning等のITを活用した教育に関する調査報告書』
http://blog.goo.ne.jp/sanno_el/e/981b8aef15ab3bf92fb93a8c035296dd
で取り上げたNIMEの調査報告ですが、2007年度版の調査報告書が、下記のWebサイトよりダウンロードできるようになりました。
http://www.nime.ac.jp/reports/001/

ちなみに2006年度版のデータは
http://www.nime.ac.jp/reports/001/2006/
2005年度版のデータは
http://www.nime.ac.jp/reports/001/2005/
にあります。

基本的な調査の枠組みや調査項目はぼぼ例年と同じなのですが、今年度版の特徴は「ITを活用した教育からICTを活用した教育へ変更」と「FD(ファカルティ・ディベロップメント)の重視」の2点であると筆者は考えております。

ITからICTへの変更については、『昨年度の本調査における「IT」と同義であるが、本年度調査では「コミュニケーション」の概念を重視し、教育関係の各種国際機関においても広く定着している「ICT」を用いた』(p.6)としています。

またFDの重視については、『本年7月の大学等設置基準の改正により、学士課程においても、教育内容等の改善のための組織的な研修及び研究の実施の義務が明文化されたところである』(p.42)という高等教育界の動向を受けてのことと推察されます。

調査報告書はPDFファイルで154ページにも及ぶ膨大なものです。よって本メルマガでは、筆者が読んで特に興味深かった点のみ触れさせていただきます。ご興味をお持ちになった方は、ぜひダウンロードして通読されることをオススメします。

ICTを活用した教育
ICTを活用した教育活用の実施率は75.8%で、昨年とあまり変わっていません。ただし公立大学では、昨年度に比べ68.6%から84.9%へ16.3ポイント増と大幅に増加しているようです (p.7)。

ICT活用教育の取り組み方針については、「ICT活用教育のためのFD(ファカルティ・ディベロップメント)の実施」が15.2ポイント増、「ICT活用教育の人材の育成」で13.7ポイントの増と、人がらみの項目の伸びがが目立ちます(p.9)。

その背景には実施上の課題があります。ICT活用教育を実施する際の課題では、「システムやコンテンツを作成、維持するための人員が不足していること」(58.7%)、「教員のICT活用教育に関するスキルが不十分であること」(51.9%)、「eラーニング講義(授業を含む)のシステム開発に関するノウハウが不十分であること」(43.9%)と、人やノウハウがらみの課題が上位ベスト3を占めているからです(p.19)。

また、ICT活用教育の導入デメリットにおいても、「コンテンツの作成など、教員の授業の準備の負担が増した」(56.2%)、「システムの維持、管理で負担がかかった」(50.6%)、「対面授業と比べて、コストがかかった」(18.7%)と人的負荷、あるいはそれを外部に委託することによるコスト負荷をあげる回答が多くなっていることにも、人・ノウハウ面での欠如の影響が色濃く反映していると言えます(p.22)。

今回の調査では、ICT活用教育の要は人や組織がらみの課題をいかに克服するかという点が明らかになったと言えます。

FDの視点
そうした人や組織がらみの課題の中心にあるのが、教員の教育力向上です。今回の調査では、教員がICTを活用して効果的な教育が実施できるようなるために、どのような施策(FD)を機関として行っているかを調査しています。

実施内容の比率の多い順では、「教員全員を対象にしたFD講習会等(ICT活用を含む)の開催」(54.0%)、「教員に対するマルチメディア教材の制作に関する支援」(38.1%)、「ICT活用を含む効果的な授業事例の紹介」(29.3%)などがあげられています(p.45)。そして今後の支援要望でも、「ICTを活用した効果的な教育のヒント・ノウハウの提供」(53.0%)及び「教員に対するマルチメディア教材の制作に関する支援」(50.2%)が過半数を超え、次いで「ICT活用を含む効果的な授業事例(国内)の紹介」(48.4%)等が上位を占めています(p.48)。

これらICT活用教育に関する人・ノウハウがらみの課題は、個々の大学の努力だけでは中々進まない部分なので、NIMEのような組織が各大学を支援していくことが必要なのだと言うことを感じさせる調査結果となりました。

eラーニング
高等教育機関におけるeラーニングの実施率は、昨年度(46.1%)より5.0ポイント増加し51.1%と半数を超えています。その授業形態を聞くと、「対面授業とeラーニングのブレンド型の授業を行っている」(79.6%)、「自習用教材として提供している」(72.0%)、「eラーニングによる履修のみで修了できる講義、授業がある」(24.7%)となっており、ブレンド型や自習用教材としての利用が大勢を占めていることが窺えます(p.56)。
しかしeラーニングによる授業を単位認定している科目があると回答した機関は20.7%に留まっており、普及はしてきたものの、一般の教室授業とは別物という位置づけが続いているようです。

ラーニング・マネジメント・システム(LMS)
各大学にLMSの導入状況とどのシステムを導入しているかを聞く、毎年筆者が楽しみにしている調査項目です。今年の大きな特徴は、Moodleの大躍進です。現在LMSを利用している高等教育機関のうち、Moodleを利用し
ていると回答した率は、
・2005年 6.5%
・2006年20.7%
・2007年30.5%
と一つだけ大きく伸びています。オープンソースであることのコスト優位性、イギリスのオープンユニバーシティーでの導入等から一気に高等教育機関でのデファクトLMSになろうとしているようです。

事例
後半は10の高等教育機関での取り組み事例が紹介されています。どれも興味深い事例でありますが、中でも「東京歯科大学における新しいe-Learning(p.98)」は新規性を感じました。教育内容については専門性が高くてわからないのですが「系統科目・統合テーマの有機的連携」というコンセプトは高等教育機関のみならず、企業内教育でも応用が効きそうです。詳細についてはぜひ本文をご覧ください。

まとめ
半数以上の高等教育機関でeラーニングが実施されており、9割近くの機関でICTが教育に活用されているという事実から考えると、高等教育機関においてはeラーニングが「普通の教育手段」として定着しているのだなあと改めて実感しました。近年、企業を上回るペースで高等教育機関でのICT活用教育やeラーニングの導入が進んでおり、両方の教育に携わる身としては複雑な心境を抱いたのでした。

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