Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol169:高等教育におけるeラーニングの質保証(基調講演)

2005年11月17日 | セミナー学会研究会見聞録
某社のN氏が「こんなニッチなテーマでよくこれだけ集まったなあ~」と感想をもら
しておりましたが、専門的な内容にも関わらず大盛況のシンポジウムでした。

セミナー概要
日時:2005年11月9~10日
場所:メディア教育開発センター(千葉幕張)
主催:独立行政法人メディア教育開発センター
http://www.nime.ac.jp/conf2005/index.html#01
シンポジウムの模様は、下記メディア教育開発センターのWebサイトからオン
デマンドコンテンツを無料で視聴できます。
http://p4web.nime.ac.jp/p4web3/public.asp
興味をお持ちになりましたらぜひご覧ください。

基調講演「高等教育における国際及び国家レベルの質保証」
お話いただいたのは(独)大学評価・学位授与機構の木村 孟機構長 です。
お話いただいた内容は
1)日本の高等教育機関の特徴
2)日本での海外大学に関する規制について
3)国境を越えた高等教育の質保証について
の3点です。メインの話題であった3)の「国境を越えた高等教育の質保証」につ
いて以下に説明します。

国境を越える高等教育の経緯

そもそもこの問題はWTO/GATSにおいて、「高等教育サービスはサービスの貿易に該
当するので自由化すべき」という声が出た事に端を発するそうです。その根拠はと
いうと・・・

WTOにおいてはサービスの貿易の形態を
・越境取引
・国外消費
・拠点の設置
・自然人の移動
の四つに分類し、こうしたサービスの貿易をする際の障害を少なくしようとしてい
ます。高等教育を上記の4つのモードにあてはめると
・越境取引=eラーニング等の遠隔教育
・国外消費=海外留学
・拠点の設置=海外大学の日本校
・自然人の移動=教員の派遣
とすべて該当してしまうためです。

しかし、何の基準もなく自由貿易にしてしまうと、例えば現行の日本の大学設置基
準等も関税障壁になってしまい、撤廃を要求される可能性がでてきます。そこ
で「消費者(学習者)保護の観点から高等教育の質の維持・向上の観点に主眼を置
いて検討すべき」と日本、ノルウェー、オーストラリアの3カ国がこれに反対しま
した。そして、教育に関するイシューなのでWTOでなくUNESCOの中で検討するよう働
きかけました。

その結果、高等教育の国境を越えた質保証についての話し合いがUNESCOおよびOECD
で開始され、両機関で「国境を越えた高等教育に関する質保証のガイドライン」 が
起草され、2005年10月にユネスコの総会で承認されました。(メデタシメデタシ)
UNESCO/OECD guidelines on "Quality provision in cross-border higher
education" - Updated: 2005-10-24
http://portal.unesco.org/education/en/ev.php-URL_ID=41508&URL_DO=DO_TOPIC&URL_SECTION=201.html

ガイドラインの概要
ガイドラインの目的は
1)学習者(消費者)や他のステイクホルダーを質の低い高等教育(disreputable
provider)から守る。
2)人や社会や経済や文化のニーズに対応するため、国境を越える高等教育を促進
する。
の2つです。そして、高等教育機関のステイクホルダーとして、
1)政府
2)高等教育機関とプロバイダー(教職員含む)
3)学生
4)質保証とアクレディテーション組織
5)学会
6)職業能力認可団体
を定義し、それぞれのためのガイドラインを提示しています。

コメント
日本は10万人以上の留学生を受け入れる輸入国であり、かつ10万人近くの留学生を
送り出している輸出国でもある世界でも稀な国なのだそうです。輸出入両方の視点
から考えられる立場の国として、こうした問題に対してリーダーシップを取って国
際社会に働きかけたということを聞き、「日本もなかなかやるじゃん」と少し誇ら
しい気持ちなりました。
しかし、今後もこの問題についてリーダーシップ発揮していくためには、昨年開始
された国内での認証評価システムをきちんと運用し、改善していくことが大前提と
なるのだなあ痛感しました。


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