ゆうわファミリーカウンセリング新潟 (じーじ臨床心理士・赤坂正人)     

こころと暮らしの困りごと・悩みごと相談で、じーじ臨床心理士が公園カウンセリングや訪問カウンセリングなどをやっています。

川上範夫『ウィニコットがひらく豊かな心理臨床-「ほどよい関係性」に基づく実践体験論』2012・明石書店

2024年05月09日 | 心理療法に学ぶ

 2020年5月のブログです

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  川上範夫さんの『ウィニコットがひらく豊かな心理臨床-「ほどよい関係性」に基づく実践体験論』(2012・明石書店)を初めて読みました。

 川上さんの論文は、これまでにいくつか読ませていただいています。

 そのこまやかでていねいな実践を踏まえた論考にはすごく感心させられることが多かったのですが、今回、単行本を古本屋さんで手に入れることができました(こんないい本が品切れなのはもったいないことです)。

 すごい本です。

 川上さんは、ご自分のケースを紹介しながら、ウィニコットさんをとてもわかりやすく説明してくれていますが、それがすごいです。

 ウィニコットさんをこんなに深く理解して、説明されるかたはそういません。

 ひょっとすると、ウィニコットさんが表現できなかったことも説明されているような気もします。本当にすごいです。

 例によって、特に印象に残ったことを一つ、二つ。

 一つめは、遊ぶこと、二人でいながら一人、抱えること、などなどのウィニコットさんのアイデアが、ほどよい関係性、という川上さんの考え方とご自身のケースで、こまやかにわかりやすく説明されます。

 こんなにわかりやすいウィニコットさんの説明は初めてですし、さらに深い理解に誘われて刺激的です。

 二つめは、関係性、という考え方から、精神病や発達障碍などを説明されて、それがまたとてもわかりやすいこと。

 それだけでなく、母子関係や親子関係の理解にも広がって、さらには、時代の病いである不登校や非行、虐待などの理解にも進みます。

 このあたりは、乳児の関係性からはじまって、それがおとなや時代の関係性にまで広がっていて、視野が広いですし、理解が深いです。

 いい本に出会えたなと思います。

 今後、さらに、読み込んでいきたいと思います。    (2020.5 記)

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 2023年5月の追記です

 ウィニコットさんの言葉の中で印象深いものに、治療者の解釈は治療者の限界を示すため、というのがあります。

 どんな解釈にも限界があるということとともに、治療者が限界を見せることで、クライエントさんの自立をうながす側面があるのではないかと思います。

 治療者の言葉が、もし、いつもあまりに完璧過ぎると、クライエントさんの依存性を助長して、自立を阻害してしまうのだと思います。

 ほどよい関係性、ほどよい母親ということの一面を示しているように、じーじには感じられます。     (2023.5 記)

 

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村上春樹 『ダンス・ダンス・ダンス』(上・下)1991・講談社文庫-『羊をめぐる冒険』の世界へ

2024年05月09日 | 村上春樹を読む

 2019年6月のブログです

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 村上春樹さんの 『ダンス・ダンス・ダンス』(上・下)(1991・講談社文庫)を再読しました。

 なんとなく、あらすじの一部をぼんやりと覚えているような気がしていたので、再読がしばらくぶりになってしまいましたが、細部はほとんど忘れていたので、例によって(?)、またまたとても新鮮な気分で読んでしまいました。

 さきほど、読み終えたばかり、この感情をどう表現したらいいのか、戸惑います。

 やはり、すごい小説です。

 今まで思っていた以上にすごいです。

 読むほどに、生きる経験を積んで読むほどに、うなずけることと不思議さの両方が、哀しみや微笑みや笑いととともに増えていきそうな小説です。

 そう、この小説の中で、読者は人生を生き、哀しみ、苦しみ、喜び、そして、死を眺めるのだと思います。

 生きることのしんどさ、辛さ、苦しさが描かれます。

 そんな中での小さな喜び、楽しさ、スリルが描かれます。

 読みながら強く感じるのは、生きることは哀しいですし、少しだけ楽しいこと。

 そんなことを感じさせてくれる小説ではないでしょうか。

 一方、偽りの幸せを生きる危険や生きたまま死んでいるかのような虚飾の生き方の危なさも描かれます。

 真に生きるとはどういうことなのか、子どもからおとなまで、区別なく、村上さんは真摯に描きます。

 若者もおとなも深く考えさせられる、いい小説だと思います。    (2019.6 記)

 

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