臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

一首を切り裂く(044:ペット・其のⅡ・決定版)

2010年11月24日 | 題詠blog短歌
(青野ことり)
○  ほとばしる 水 水 水 を受けとめる ペットボトルの水はさみしい

 「ほとばしる 水 水 水 をうけとめる」とあるが、ドッドッドッと「ほとばしる」「水」を、ガラスのコップで「受けとめる」のか、直接てのひらで「受けとめる」のか、本作の作者たる<青野ことり>さんという未知の女性は、作品中の表現では決して明らかにしようとしない。
 そこで、人一倍想像力の逞しい評者などは、「青野ことりさんという女性は、或いはその『水』を、コップや掌で『受けとめる』のでは無くて、ご自分の<膣>で『受けとめる』のかも知れないな」などと、とんでもない事まで考えてしまうのである。
 と、すると、それに続く下の句「ペットボトルの水はさみしい」という表現中の「ペットボトル」の解釈も少し妖しくなって来る。
 とどのつまりに、評者は、「この作品は愛を伴わない性行為の淋しさや侘しさを、膣内に精液を『受けとめる』女性の立場から詠んだ傑作である」などという迷解釈をしてしまって、澄ましているのである。
 そんな意地の悪い評者とて、勿論、この作品は、「ペットボトル」という狭い牢屋のような器に閉じ込められていて、一旦その蓋が開けられるや否や、解放されたと言わんばかりに、ドッドッドッと堰を切ったようにして「ほとばしり」出て来る「ペットボトル」の中の「水」の印象の「さみしさ」を詠った作品であることを、十二分に承知しているのである。
 そうしたまともな解釈とは別に、かなり怪しい解釈をも許容する作品。
 それが名作に備わっているべき条件の一つであり、また、そうした怪しい解釈をも、笑って受け入れられるような心の余裕を持っている歌人が、優れた歌人とも言えましょう。
 さてさて、本作の作者・青野ことりさんは、優れた歌人でありましょうか? 
  〔返〕 この扉ひらけば飛び立つ青い鳥未だ逃がさず飛び立たせぬぞ   鳥羽省三


(七十路ばば)
○  子ら巣立ち井戸端会議ではずむのはこの子この子とペットの自慢

 「子ら」を巣立たせた後の主婦が、<犬><猫>或いは<青のことり>などを、現代版「井戸端会議」の席上で、「この子この子」と「自慢」することは大いに有り得ましょう。
 <七十路ばば>などと仰りながら、本作の作者たる女性は、まだまだお若く、若いママたちに伍して、一歩もひけを取らずに、自己主張なさって居られるのでありましょう。
  〔返〕 墓標には「祖母の愛」とぞ記すのみペット墓場の景色空しい   鳥羽省三


(高松紗都子)
○  六月の空の高みに打ち上げたペットボトルは神になりたい

 「六月の空の高みに打ち上げたペットボトル」とは、あの<月面探索機・かぐや>なのである。
 あの<かぐや>は、「神」になり、「神」としての責務を十二分に果たし、はるばると月世界から、また、この地球上に生還したのである。
  〔返〕 振り向けば少し歪な青い星<かぐや>の観たるふるさと地球   鳥羽省三


(五十嵐きよみ)
○  ため息で倒れかねない空っぽのペットボトルのような心境

 「ため息」はほとんど<風力>を伴わない。
 その「ため息」を吹き掛けられてさえ「倒れかねない空っぽのペットボトルのような」私の今の「心境」などと仰りながら、本作の作者・五十嵐きよみさんは「ため息」を吐いているのである。
  〔返〕 諦めか安堵か知らぬため息を吐きて五十嵐きよみは笑う   鳥羽省三


(flower_of_the_briar)
○  南里文雄のトランペットがラジオから流れる雷雨の中の天幕...

 涸沢の幕営地に「ラジオ」を携えて行ったのであるが、生憎の「雷雨」で、楽しみにしていたキャンプ・ファイヤーは中止と決まった。
 そこで、やること無しに、「天幕」の中でラジオを聴いていたら、流れて来たのは、あの「南里文雄」が「トランペット」を吹いての名演奏『スター・ダスト』であった。
  〔返〕 日本のサッチモ逝きて幾年か雷雨の空に星瞬かず   鳥羽省三


(村木美月)
○  無造作にペットボトルを飲むしぐさ腕と顎との角度が好きよ

 こんな感じ、あんな感じ、どんな感じと、「ペットボトル」を手にして、いろいろポーズをつけてみるのだが、本作の作者・村木美月さんに「腕と顎との角度が好きよ」と言われるような状態にはなかなかならない。
 と言うことは、これは「腕と顎との角度」の問題と言うよりも、ご面相の問題なのかしら?
  〔返〕 重そうにペットボトルをテーブルにそんな怠惰な貴方は居ない   鳥羽省三


(丸井まき)
○  嘘はもう始まっている嫁に行く家のペットを「カワイイ」と言う

 犬嫌いの女性が犬好きの「家」に嫁入りしたら悲劇ですね。
 でも、相手の男性のことが好きで、その男性が親との同居を望むなら致し方ありません。
 <嘘も方便>という言葉もありますから、少し我慢して、<クロちゃん>のことを「カワイイ」と言ってあげて下さい。
 それで姑さんが喜び、家庭内が丸く治まるのでしたら、<儲けもの>といったところでありましょう。
 ところで、結婚後の<丸いまき>さんの姓はどうなるんでしょうか?
 まかり間違って<杉山まき>とか<松原まき>なんてことになってしまったら、一生の笑い者ですからね。
  〔返〕 <只野まき>この頃わたし燃えてます夜昼と無く燃えて燃えちゃう   鳥羽省三


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