臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

一首を切り裂く(022:カレンダー)

2010年04月17日 | 題詠blog短歌
 異常とも言えるこの気象条件の中、また、今さら口にするのも忌まわしいこの不景気の中、この年頭に「題詠2010」への参加表明を華々しくなさった方々は、一体何をなさっていらっしゃるのでありましょうか。
 ここ数十日、「題詠2010」への投稿スピードが急激に弱まり、私が今回採り上げようとしているお題「022:カレンダー」への投稿作品などは、未だ百首にも達していない状態である。
 私は、公平さや後々の煩わしさなどを考慮して、「一首を切り裂く」を執筆するタイミングを、それぞれの<お題>への投稿作品が少なくとも百五十首に達してから、可能ならば二百首に達してからと思っていたのであるが、こうした状態では、いつまで経ってもパソコンのキーを叩くことが出来ない。
 そこで、先日から、そのレベルを百首に切り下げた次第である。
 レベルを下げざるを得なくなったのは、執筆時期を計る目安だけではない。
 投稿作品の減少に伴ってなのか、それとは関係無いのかどうかは判らないが、投稿作品の質の低下も目に余るものがある。
 私がこんなことを申し上げると、「短歌の評価は人さまざまであり、一首の短歌に百人の鑑賞者が寄れば、百通りの評価が生まれるものである。それなのに、そうした常識も弁えないで、他人様の掌中の珠たる作品を貶すとは、鳥羽省三の思い上がりも甚だしい。切り裂かれなければならないのは、投稿作品ではなく、鳥羽省三自身である」などとのメールが殺到するかも知れないが、「ゲゲゲの鬼太郎」の作者・水木しげる氏の無い左手は使えぬと同様に、駄目な作品は所詮駄目なのである。
 そこで今回は、これまでのやり方とは少し変え、私の観賞意欲を刺激する作品に加えて、観賞意欲を刺激するわけでは無いが、推敲の手を加えれば少しは良くなると思われる作品なども選んで、観賞することにしたのである。
 それぞれの作品が、私の観賞意欲を刺激した作品なのか、しない作品なのかは、観賞文をお読みになれば容易に判断がつくように書くつもりでありますから、読者の方は、その旨、ご承知置き下さい。


(飯田和馬)
   一月に戻ってしまうカレンダー日暮れつつぎの十三月経て

 「カレンダー」というものは、一年経ってしまえば、また最初の「一月」に戻ってしまうのであるが、その一年とは、旧暦の閏年という例外を除いては、一月から十二月までの十二ヶ月なのである。
 それなのにも関わらず、本作の作者は「十三月経て」と言っている。
 これは、この「十三月」を修飾している「日暮れつづきの」と合わせて考えるべきであり、作者は、「日暮れつつぎの十三月経て」という表現を通じて、自分自身の生存の辛さ、耐え難さを訴えようとしているのでないだろうか。
 だとすれば、本作の作者・飯田和馬さんは極めて不満足な青春の日々を送っていることになる。 
 そうした彼の青春に一片の花を咲かせるのは、私如き老爺では無く、彼と同じ年輩の女性ということになる。
 「恋人募集中。趣味は短歌創作と読書。特に短歌創作方面での将来性は有望。但し、お金にはならず。お相手さまの美醜及び結婚歴は問わず。どなたかご奇特な女性はございませんか?」
  〔返〕 一月に戻ってしまうが嬉しくて一日ニ度もカレンダー捲る  


(アンタレス)
   カレンダー医師看護婦とマッサージ麻酔の医師やヘルパーで埋まる

 病気療養中の作者の「カレンダー」が、病院関係や介護関係の書き込みでいっぱいになっている、と述べたいのでありましょうが、いくらなんでもこれではあんまりです。
 <五七五七七>三十一音という形式の短歌に盛り込めるものは限定されているはずです。 何が重要で、何がそれほど重要で無いのか、よくよく考えて整理して詠まなければいけません。 
  〔返〕 診察日・検査・点滴・介護師と書き込み目立つ我がカレンダー   鳥羽省三


(原田 町)
   年明けてカレンダー買ふ今までは貰ひものにて済ませをりしが

 それまでは「貰ひもの」で済ませてきた「カレンダー」であるが、退職と同時に何処からも貰えなくなり、それでもなお且つ、年の暮れや元旦の挨拶に何方かが訪れ、お歳暮やお年始の品々と一緒に、豪華なカレンダーも貰えるのではないだろうかと期待するのは人情の常というものである。
 しかし、そうは問屋は卸さない。
 その期待も空しく、結局は松の内を過ぎた辺りに、投売りのカレンダーを買ってしまうことの悔しさよ。
 原田町さんの切ないお気持ちは、この鳥羽にもよく解りますよ。
  〔返〕 年明けの七日に買ったカレンダー表紙の図柄が富士・鷹・茄子   鳥羽省三


(理阿弥)
   叔父の部屋の淡い矩形はカレンダーかけた日の色事故より五年

 「淡い矩形」は、この「五年」の間に「叔父」様の「部屋」に射し入って来た陽射しの関係で、そうなったのでありましょうが、強ちそうとばかりは言い切れない。
 本作の作者は、その<方形>ならざる「淡い矩形」という表現を通じて、「叔父」の事故死を容易に受け入れ難い、ご自身の気持ちを表そうとしているのである。
  〔返〕 うす蒼き矩形残して色褪せたこの部屋の壁あの日の記憶   鳥羽省三


(斉藤そよ)
   神無月、霜月、師走、昨年のカレンダーから陽が漏れて 春

 語呂はなかなか宜しいが、「昨年のカレンダーから陽が漏れて 春」の意味がかなり不分明である。
  〔返〕 神無月・霜月・師走と捲らざる去年(こぞ)のカレンダー色褪せて春   鳥羽省三


(水絵)
   カレンダー薬飲む日に印しつけ 一病息災開き直りて

 作者ご当人がそのように思ったのなら仕方が無いが、作品の出来としては「一病息災開き直りて」が面白くない。 
 このままでは、病気持ちのお婆さんの応援歌みたいではありませんか?
  〔返〕 薬飲む朝ごと宵ごと記し付け一病息災わがカレンダー   鳥羽省三 


(いさご)
   あかまるをここのつつけたカレンダー 5がつうまれがこんなにおおいの

 本作の作者<いさご>さんは、保育所の保母(或いは、保父)さんかしら?
  〔返〕 赤丸を五つもつけたカレンダーなんであなたは危険日おおいの   鳥羽省三


(砂乃)
   もう少し雪に逢いたい冬よまだ行かないでねとカレンダー伏せ

 とか何とか仰いますが、四月の中旬というのにこの悪天候。
 かくなる事態を本作の作者・砂乃さんは予測されて、この作品をお詠みになったのでしょうか?
 野菜の値上がりも馬鹿になりません。
 「雪」なんて、もううんざりです。
  〔返〕 「この責任、誰が取るの」と詰め寄れば又も降り来る四月の雪が   鳥羽省三


(ひじり純子)
   今月の心の中のカレンダー しるしをふたつつけておきます

 「今月の心の中のカレンダー」に付けた「ふたつ」の「しるし」は何の記しでありましょうか?
  〔返〕 今月の私の体のカレンダー連続三個の<しるし>付けます   鳥羽省三


(橘みちよ)
   三月のカレンダーを剥ぎ残酷な月はめぐり来よるべなき身に

 二句目で切り、それ以降の語順を替えてみました。
  〔返〕 三月のカレンダー剥ぐ寄るべ無き我に残酷月はめぐり来   鳥羽省三


(さと)
   接吻の記憶反芻するためのカレンダー春の窓に白く

 三句目までの韻律は順調なのですから、四、五句に於いて、突然それに乱れが生じるのは、とても残念なことです。
  〔返〕 接吻の記憶を反芻する如く春の窓辺にカレンダー貼る   鳥羽省三


(越冬こあら)
   月々に君が剥ぎ取るカレンダー生き急ぐかに見ゆる背中の

 毎月毎月、自分に与えられた使命のようにしてカレンダーを剥ぎ取っている「君」を、「生き急ぐ」人に見立てたのは宜しいかと思います。
  〔返〕 生き急ぐ者の如くにカレンダー剥ぎ取る君の背中視ている   鳥羽省三


(珠弾)
   今月のカレンダーにも三連休 嬉しくもあり悲しくもあり

 「嬉しくもあり悲しくもあり」という下の句が、江戸時代の「ものは付け」みたいで軽く感じられますが、最初からそれを狙っていたのだとしたら、文句の付けようがありません。
  〔返〕 今月も三連休在るカレンダー金の掛かるの覚悟の上田   鳥羽省三
 「上田」とは、真田幸村ゆかりの長野県の観光地である。
 

(ふみまろ)
   双六のようにはゆかずカレンダーのひとますのみを今日も寂しむ
 結婚式までのカレンダーの日数が一日ずつしか進まないのを悔しがっているのでしょう。
 全体的な語調の悪さと意味の不明確さが惜しまれる。
  〔返〕 双六の八艘跳びは叶わなく今日もひと桝カレンダー跳べ   鳥羽省三  

 
(青野ことり)
   来年のカレンダーにはきみのこと書けるだろうか 天気雨降る

 本作の「カレンダー」はメモ代わりに書き込みの出来るカレンダーなのである。
  〔返〕 来年は君とのことを書けるのか? 日記代わりの我がカレンダー   鳥羽省三


(高松紗都子)
   カレンダーやぶく季節の裂け目から未来のようなものの手ざわり

 月末になって、カレンダーを破る時は、去り行く月の空しさを嘆き、めぐり来る月へのほのかな期待を感じるもの。
 私などは、翌月への期待感の余りに、三日も四日も前から破ったりするのである。
  〔返〕 三月と四月の裂け目の穴からはエイプリルフールが顔を覘かす   鳥羽省三


(秋月あまね)
   誤って昨日と今日をもろともに破かれてしまうカレンダーはや

 どうでもいいくらい代わり映えのしない生活を表現しようとしているのでしょうか?
 だとしたら、「誤って」は不要でしょう。
  〔返〕 日めくりの昨日と今日をもろともに破いてしまうカレンダーはも