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私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『19歳 一家四人惨殺犯の告白』 永瀬隼介

2010-05-20 21:35:35 | 本(人文系)

92年、千葉県市川市でひと晩に一家四人が惨殺される事件が発生。現行犯で逮捕されたのは、19歳の少年だった。殺人を「鰻を捌くより簡単」と嘯くこの男は、どのようにして凶行へと走ったのか?暴力と憎悪に塗り込められた少年の生い立ち、事件までの行動と死刑確定までの道のりを、面会と書簡を通じて丹念に辿る著者。そこで見えた荒涼たる少年の心の闇とは…。人間存在の極北に迫った、衝撃の事件ノンフィクション。
出版社:角川書店(角川文庫)



この作品で述べられている事件のことは、何となく覚えているという程度の知識しか持っていない。
それなのに、なぜこの本を読もうと思ったのか、自分でもよくわからない。

ただひとつ言えるのは、何の深い考えもなしにこの本を読めば、心がきっと痛い目に合うということだ。
そしてその事実こそ、この本を読み終えた後に抱いた、僕の率直な感想でもある。
解説の言葉を借りるなら、「本書は決して楽しい物語ではない」し、そこに描かれているのは、本当に陰惨な殺人事件だからだ。


犯人の少年は、典型的なワルである。

ちょっとばかり問題のある家庭で育ち、相手にバカにされたとなると容赦がなく、他人より優位に立つために、また虚勢や力への陶酔もあってか、簡単に暴力的な行動を取る。
家庭内暴力は当たり前で、物事に対する反省の心に欠けている。
まるで絵に描いたような、という形容がふさわしいような生い立ちと人間性である。

そして事件現場での行動も残酷そのもので、読んでいて、気持ちが滅入ってしまう。
世の中には残酷な人間がいるし、ひどいことだって起こる。
そのことを僕は充分知っているつもりだけど、この本を読むと、そんなことを改めて思い知らされる。


著者はそんな犯人と向き合い、彼の人間性についてアプローチをしている。
その記録は真摯であり、精緻だ。

この本を読んで、たいていの人は、典型的なワルで、上辺だけの反省の心しか持たない、この少年に対して、怒りを覚え、不愉快に思うのだろう。
そしてそう読み手に感じさせるだけの、綿密で丁寧な取材を行なっていることが伝わってくる。


だが、それは言うなれば、知っていることでもあるのだ。

情報としてまとまっているし、一般常識とずれた殺人犯の思考を、手紙のやり取りを通じて、浮かび上がらせていることは事実だ。しかしそこからのプラスアルファに乏しい。
結局読み終えた後に残るのは、ああ、ひどいことをするやつがこの世にいるんだな、で終わってしまう。
そしてそんな最終結論など、細かい事情や生い立ちはともかくとして、みんなが知っていることでもある。

あえて、僕の趣味で語るなら、もっと被害者側や、加害者の家族に筆を割いて、この事件を複合的に捉えてほしかったと思う。
本書は、加害者一人にあまりに視点が集中しすぎていて、印象が平板になっている気がしてならない。


と、あえて辛らつに書いたが、事件の記録として見れば、誠実な仕事であることは事実である。
一つの作品としては物足りないが、この事件に興味を持つ人には充分に示唆に富む作品である。

評価:★★★(満点は★★★★★)

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