私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「コクリコ坂から」

2011-08-03 20:05:55 | 映画(か行)

2011年度作品。日本映画。
翌年に東京オリンピックを控えた、1963年の横浜。古いものを壊し、どんどん新しいものを作っていこうとする気運のなかで、横浜のとある高校でも老朽化した文化部部室の建物「カルチェラタン」の取り壊し計画が持ち上がる。そんな騒動の中、学生たちを率い、部室棟を守ろうとする少年・俊と、高校に通いながら下宿宿を切り盛りする働き者の少女・海が出会う。二人は順調に距離を縮めていくが、ある日を境に、急に俊がよそよそしくなって…?(コクリコ坂から - goo 映画より)
監督は「ゲド戦記」の宮崎吾郎。
声の出演は長澤まさみ、岡田准一 ら。



つまらないわけでもないが、むちゃくちゃおもしろいわけでもない。
良くも悪くも平均的な映画というのが個人的な印象である。
実際、内容はぼちぼちだなと思う。ちょっとメロドラマ的だし、いかにも少女マンガって展開だな、ってとこが少し引っかかるけれど、気にするほどではない。

だが見ていて、収まりの悪い映画だな、という感覚が終始ぬぐえなかった。
その理由は、僕の趣味もあるけれど、筋運びがいささか雑だった点にあるのでは、って気がする。


この映画は、少し言葉が足りないように、個人的には思う。
議論の最中に、校長が入ってきた途端、歌を歌う場面といい、ラストで二人一緒になって船まで行くシーンといい、説明が足りないために唐突だな、と感じるポイントはいくつかあった。

もちろんそれらのシーンに対して、脳内補完することは充分にできる。
ただもう少し言葉を尽くしてもよかったのではって気もしなくはない。おかげで全体的にもどかしい。


だがストーリー的にはともかく、細かい技術的な部分に関しては、さすがジブリと感じることができる。
背景は毎回のことだけど、本当に美しくて、一枚の絵画のよう。

だがそれ以上に目を引いたのは、時代背景の描き方だろう。
炊飯器や洗濯機のレトロ感、街のごちゃついた感じなどは見ていてもおもしろいし、抽象的な議論を延々とくり返すところは、いかにも全共闘世代らしい。
時代設定は東京オリンピック前だが、この時代の雰囲気がよく出ていんじゃないかな、と見ていて思う。


いろいろ書いたが要約すると、「コクリコ坂から」は物語はちょっと弱いが、技術は一級の作品ということである。
そういう意味、この作品は近年のスタジオ・ジブリの典型的な作品と言えるのかもしれない。

評価:★★(満点は★★★★★)



製作者の関連作品感想
・宮崎吾郎監督作
 「ゲド戦記」
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「奇跡」

2011-06-16 19:50:30 | 映画(か行)

2011年度作品。日本映画。
小学生の兄弟、航一と龍之介は、両親の離婚で、鹿児島と福岡で暮していた。新しい環境にすぐに溶け込んだ弟・龍之介と違い、鹿児島に移り住んだ兄・航一は、現実を受け入れられず、憤る気持ちを持て余していた。ある日、航一は、新しく開通する九州新幹線、「つばめ」と「さくら」の一番列車がすれ違う瞬間を見ると奇跡が起こるという噂を聞く。もう一度、家族で暮したい航一は、弟と友達を誘い“奇跡”を起こす計画を立てる。(奇跡 - goo 映画より)
監督は是枝裕和。
出演は前田航基、前田旺志郎 ら。




俳優陣の存在感が、特に子役たちの存在感が目立つ作品である。
子どもたちはいかにも伸び伸びと演技をしていて、それが見ていてとっても好ましい。

もちろん大人たちも名のある俳優が出ているだけあって、それぞれ個性を発揮している。
子どもたちを見守ったり、支えたり、ときに子どもたちの生活のネックになったりする大人の姿を等身大で演じていて、さすがだな、と感じる場面は多い。
だが大人よりも、やっぱり子どもたちに注目すべき映画だな、と感じるところは多かった。


「誰も知らない」のときでもそうだったが、是枝監督は子どもらの自然な雰囲気を捉えるのが上手いと思う。
何かに不満を言ったり、毒を吐いたり、自分の夢を語るシーンは、いい意味で力が抜けており、好印象。

特にすばらしかったのは、まえだまえだの二人だ。
彼らのキャラクターがしっかり描き分けられている点が何よりも良い。
兄は学校をサボったりはするけれど、基本的にきまじめ。一方の弟は楽天的で、いかにもネアカだ。

まえだまえだを、僕はこれまでまったく注目してこなかったのだが、そのキャラクターはひょっとして素なのかな、と思うシーンは多かった。
彼らは自然に演じており、その個性に見ていて大いに惹かれる。


物語はそんなまえだまえだ演じる別々に暮らす兄弟の話だ。
兄は別れた両親が縒りをもどすことを願い、弟は別れたままでもいいと考えているが、兄の願いを基本的には尊重している。
そんな彼らと友人たちは、新幹線がすれちがうところを見ると、奇跡が起きるという話を信じて(いまどきの子がこんな話を真に受けるのだろうかは別として)、自分たちの夢を願いに行くために行動する。


もちろん奇跡は容易に起きないから、奇跡なのである。
両親が縒りを戻す可能性はきわめて低く、子犬が生き返ることはない。
この映画での数少ない奇跡は、老夫婦と子どもたちの出会いくらいだろうか。

だがここでは、奇跡が起きることそのものが重要なのではない。
大事なのは、子どもたちが、自分たちの願いや夢や思いを口にすること。そしてその願いなどのために、なんらかのアクションを起こすことにあるのだから、だ。

女優になりたいとか、絵が上手くなりたいなどの、彼らの夢や願いが叶うのかはわからない。
しかしそのために、いかにも子どもじみているとは言え、何かを成したことには、意味があるのだと思う。
幼い兄はあのとき何も祈らず、世界のことを考えたが、それも新幹線が見える場所までやって来たからこそ、達した感情なのだろうと思う。
それを成長と単純に言い切りたくはないが、その選択も、彼の中では大事な意味を持つ日が来るのかもしれない。


ときどき笑え、物語的に大した筋でないのにおもしろく、俳優陣の演技には圧倒される。そして子どもたちの行動はとても好ましい。
是枝裕和という監督の良さが存分に発揮された作品ではないか、と思う次第だ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)



製作者の関連作品感想
・是枝裕和監督作
 「歩いても 歩いても」
 「空気人形」
 「花よりもなほ」
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「岳 ―ガク―」

2011-05-25 21:09:41 | 映画(か行)

2010年度作品。日本映画。
島崎三歩は、世界中の山を登り、山の楽しさ、山の厳しさ、山の美しさを知り尽くした山岳救助ボランティア。山の素晴らしさを多くの人たちに知ってもらいたいという三歩は、たとえ自分の過失で遭難した者であっても、決して責めることはしない。仮に要救助者が死亡していたとしても、その遺体に向かって「よく頑張った」と労わりの言葉をかける男である。そんな三歩の暮らす山に、北部警察署山岳救助隊に配属されたばかりの椎名久美がやってくる。久美は、同じ山岳救助隊の隊長・野田や三歩の指導の下、厳しい訓練をこなし新人女性隊員として着実に成長していく。しかし、実際の救助では自分の未熟さや大自然の猛威により、遭難者の命を救うことが出来ない日々が続く。打ちひしがれ自信をなくす久美。そんな折、猛吹雪の雪山で多重遭難が発生。救助に向かった久美を待ち受けていたのは、想像を絶する雪山の脅威。その時、三歩は……。(岳 -ガク- - goo 映画より)
監督は片山修。
出演は小栗旬、長澤まさみ ら。




どんな良作も、どんな駄作でも、良い悪いはあるわけで、それはこの映画でも同様である。

この映画の良い点は壮大な自然の映像が美しいことと、一人の女性の成長物語として見える点がそこそこ好ましいこと。
悪い点は、にもかかわらず、全体的に見て安っぽいことである。


この映画はいろいろな点でお粗末だ。

主人公の三歩は、無駄に明るく、それがいかにもつくりものっぽく見える点が気に食わないし、演出のせいか、どの役者陣も演技が過剰で鼻につく。
エピソードのいくつかも、お涙ちょうだいものという意図が透けすぎて、上手く入り込めない。

唯一良かったのは、ラストの雪山での長澤まさみのエピソードだろうか。
そのシーンのあまりのツッコミどころの多さに、僕は失笑ではなく、心の底から笑ってしまった。
そこが泣く場面なのはわかっているけれど、それはねえわ、と心の中で叫ぶのにいっぱいいっぱいで泣いてしまう余裕などなかった。

マジメに映画をつくると、それはときとして滑稽になるのかもしれない。そんな深いことを考えてしまう。


いい点はその長澤まさみ演じる久美の姿が、一つの成長物語っぽく感じられるところだろうか。
はっきり言ってその筋運びはベタだけど、成長物語ってそんなに嫌いじゃないので、まあいいじゃんって気になってくる。

また大自然の映像は美しく、なかなか雄大。
「劔岳 点の記」ほどではないが、空撮とか登山シーンとかの雪山の映像はすなおに美しいと思える。


いろいろダメなところのある映画なので、点は辛くならざるをえない。
けれど、これもありっちゃ、ありなのかな、という気もしなくはないのだ。
文句は腐るほどあるけれど、どうやら僕はこの映画がそんなに嫌いじゃないのかもしれない。

評価:★★★(満点は★★★★★)



製作者・出演者の関連作品感想
・小栗旬出演作
 「キサラギ」
・長澤まさみ出演作
 「隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS」
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「キック・アス」

2011-02-18 20:47:28 | 映画(か行)

2010年度作品。イギリス=アメリカ映画。
ニューヨークに住むデイヴは、アメコミ好きでスーパーヒーローに憧れているさえない高校生。ネット通販で購入したコスチュームを着て、勝手にヒーローになりパトロールするが、特別な能力があるわけではなく、最初の戦いであっけなく入院。しかし2度目の戦いぶりがYouTubeにアップされると、ヒーロー“キック・アス”はたちまち人気者に。一方、マフィアのボスのダミコが、組織に起きた最近のトラブルを“キック・アス”の仕業と勘違い。実は別に父娘のヒーローである“ビッグ・ダディ”と“ヒット・ガール”がおり、ダミコへの復讐の機会を狙っていたのだ。(キック・アス - goo 映画より)
監督は「レイヤー・ケーキ」のマシュー・ヴォーン。
出演はアーロン・ジョンソン、クリストファー・ミンツ=プラッセら。




ヒーローに憧れるオタクがコスプレをして、キック・アスという名のヒーローになりきり悪に立ち向かう。それが本作の主筋だ。
冴えない主人公が冴えないなりにがんばり、活躍し、そして最後はラスボスを倒す。
そういう意味、本作は王道展開の話と言えるかもしれない。

しかしながら、僕はそういうメインの話はちょっと弱いと感じた。
なぜなら、この映画のおいしいところは、主役であるキック・アスではなく、脇役のクロエ・グレース・モレッツ演じるヒット・ガールがすべて持っていってしまったからだ。


ところで話は飛ぶが、戦うヒロイン、というジャンルが映画にはあるような気がする。
だがハリウッドでの戦うヒロインは、古くはシガニー・ウィーバーから、いまならアンジェリーナ・ジョリーに至るまで、大概20代以上であり、戦う少女、と呼べるほど若いのはあまりいない。いても女子高生が限界だ。

本作のように小学生の女の子に銃を持たせ、生々しく戦わせるような設定のものは、ハリウッド映画はもちろん、日本のマンガでもあまりないと思う。
それだけに超がつくほど、インパクトは強い。


映画の中で、ヒット・ガールは、銃をぶっ放して相手の眉間を撃ち抜き、心臓めがけてナイフをぶん投げ、背後から槍で敵を刺し殺す。
それはとっても無慈悲で、スプラッタで、ちょっぴりグロい。

しかし彼女の動きはスピーディで、スタイリッシュで、びっくりするくらいにカッコいい。
二丁拳銃を乱射するところとか、カートリッジを空中で交換するシーンなんかはしびれてしまう。

少なくとも僕はこんな11歳の女の子が登場するような作品を見たことはない。
彼女のアクションには、本当に心底ほれぼれしてしまった。
そして、そのインパクトがこの映画を一級の作品に高めていたと思う。


しかし映画を見ていて、つくづく思ったのだが、よくこんな企画が通ったものだな、と思う。
中学生にもなっていない子どもに、こんな残忍な人殺しをさせる作品など、日本なら絶対にボツだ。人殺し以前にバタフライナイフをふり回す時点で100%アウトと思う。
そしてそれはイギリスなりアメリカだって似たようなものだろう。

それだけに映画にしてくれた製作陣には敬意を表したい。
こういう勇気がいい映画をつくるのかもしれない。そんなことを強く思うのである。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)



出演者の関連作品感想
・アーロン・ジョンソン出演作
 「幻影師アイゼンハイム」
・ニコラス・ケイジ出演作
 「ワールド・トレード・センター」
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「海炭市叙景」

2011-01-26 20:57:33 | 映画(か行)
   
2010年度作品。日本映画。
冬の海炭市。造船所が縮小され大規模なリストラで颯太は職を失ってしまう。彼は妹と初日の出を見るために山に登る。幹線道路沿いの古い家に住んでいるトキは、立ち退きを拒んでいる。プラネタリウムで働く隆三は、ある日仕事から帰ると妻が姿を消していた。父親からガス店を継いだ晴夫は、新しく始めた事業がうまくいかず苛立ち、再婚した妻には不倫がばれてしまう。路面電車の運転士の達一郎は、仕事中、疎遠になっている息子の博を見かける…。(海炭市叙景 - goo 映画より)
監督は「アンテナ」の熊切和嘉。
出演は谷村美月、竹原ピストル ら。




本作は連作短編集とも言うべき作品である。そのエピソード内容はおおよそ以下の5つに分かれるだろう。

1つ目は、造船ドックを整理解雇となり生きがいを失った男とその妹の話。
2つ目は、区画整理対象地域に住むにもかかわらず、立ち退き要求を突っぱねる老女の話。
3つ目は、夜の店に勤める妻の浮気を疑い、一人息子とも折り合いが悪い、中年男性の話。
4つ目は、仕事と浮気で家庭を顧みず、そのため再婚相手が息子を虐待していることになかなか気づかないでいる男の話。
5つ目は、母の墓参りで帰省したものの、父との仲が悪いため実家に立ち寄ろうとしない男の話、である。

基本的に、どのエピソードも何かが壊れ、失われようとしている(失われてしまった)人たちの姿が描かれている。


その内、前半3つのエピソードの人物たちは、失われようとしているものに対し、それを失うまいと必死になってしがみつこうとしている。
彼らが職や家や家庭といった、失われゆくものにしがみつくのは、それを愛しているからであり、それがある世界の中でしか生きられないからだろう。

だが言葉を変えるならば、彼らは失われていこうとしている現実を見ようとしていない、とも言える。
そして中には、現実的な生き方を選ぶことができず、悲惨な選択をする人物だっている。
彼らの生き方は総じて言えば、不器用だ。
それゆえ、見ていてとても悲しく、痛ましい気分になってしまう。


それに対し、後半2つのエピソードは前半とは少しトーンがちがっている。

たとえば4つ目のエピソードは、主人公自身が何か(ここでは家庭だ)を壊す側に回っている。
彼は、息子を愛しているけれど、再婚相手である妻の方は大切にしておらず、平気で暴力をふるうこともある。妻のその怒りは彼の息子に向けられるという悪循環に陥っている。
自業自得ではあるが、彼の家庭生活はまったく破綻している。

また5つ目のエピソードだと、壊れてしまった状況(ここでは親子関係)から、距離を置いて、無関係を装うだけでしかない。
主人公は父と決して和解せずに、状況を改善しないまま故郷を後にしている。

その二人の生き方は前半の人物たちのように、壊れゆくものにしがみつこうとはしていない。
そういう点、見ようによっては賢い生き方なのかもしれない。
しかし彼らが現実から目を背けている点では変わりないのだ。
彼らは現実と真正面から向き合っていない。


そういう風に考えると、この映画に出てくる人物は、すべて弱い人間しか出てきていないのだ。

だがそれが当たり前なのだ、という気もしなくはないのである。
いやなことやつらいことがあれば、できればそれを直視したくない。そう心のどこかで考えてしまうのが人間なのだからだ。

人は結局のところ弱い生き物でしかない。
そんなシンプルなことを、本作は切々と淡々としたトーンで積み重ねているように思う。それが何とも味わい深い。

必ずしも好きなタイプの作品ではなかったし、少し長いけれど、人間の生き方を描く雰囲気はよく、文学的な味わいも悪くない。
見終わった後には、胸にしーんと沁みこんで来る何かがある。
「海炭市叙景」はそんな一品である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)



出演者の関連作品感想
・谷村美月出演作
 「サマーウォーズ」
 「十三人の刺客」(2010)
 「時をかける少女」(2006)
 「魍魎の匣」
・加瀬亮出演作
 「アウトレイジ」
 「硫黄島からの手紙」
 「ぐるりのこと。」
 「叫」
 「重力ピエロ」
 「スカイ・クロラ」
 「好きだ、」
 「ストロベリーショートケイクス」
 「それでもボクはやってない」
 「パコと魔法の絵本」
 「ハチミツとクローバー」
 「花よりもなほ」
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「義兄弟 SECRET REUNION」

2010-12-15 22:44:00 | 映画(か行)

2010年度作品。韓国映画。
ソウル市内で起きた、北朝鮮工作員との銃撃事件で犯人を取り逃がした責任を問われ、国家情報員のイ・ハンギュは免職を余儀なくされる。それから6年、逃げた妻や外国人妻を捜す探偵まがいの家業で食いつないでいた彼は、工事現場で韓国に潜入していた工作員のジウォンに偶然出くわす。ジウォンはこの6年間、パク・ギジュンという偽名を使って潜伏生活を送っていた…。(義兄弟~SECRET REUNION - goo 映画より)
監督は「映画は映画だ」のチャン・フン。
出演はソン・ガンホ、カン・ドンウォン ら。




韓国映画ということで、中年女性の数が多かったが、もう少し広い年代の人にもらってもいい映画だと感じた。
というのも、本作はそれなりにうまくまとまったエンタテイメント作品だと感じたからだ。

スパイがらみの映画ということもあり、本作もかなり早い段階から銃撃戦が始まることとなる。
つっこみどころもあるけれど、それらのシーンには見入ってしまう。街中の銃撃戦やカーチェイスのシーンは普通におもしろい。
おかげですっと映画の世界に馴染むことができる。

肝心のプロットも雑な面もあるが、それなりによくできている。
お話としては、韓国の元刑事と北朝鮮のスパイの友情物語で、そういうこともあり、いくつかの点ではベタだ。
だが基本を抑えているとも言え、後半の展開には、見ていてジーンとすることができる。
ラストの飛行機のシーンもなかなかすてきだ。

見終わった後、ほとんど記憶に残らないのだが、エンタテイメントなどそんなものなのだろう。
純粋な娯楽作として、楽しめる一品になりえている。

評価:★★★(満点は★★★★★)



製作者・出演者の関連作品感想
・チャン・フン監督作
 「映画は映画だ」
・ソン・ガンホ出演作
 「グエムル ―漢江の怪物―」
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「彼女が消えた浜辺」

2010-10-26 20:10:44 | 映画(か行)

2009年度作品。イラン映画。
ささやかな週末旅行を楽しもうとカスピ海沿岸のリゾート地を訪れた大学時代の友人たち。その参加者の中に、セピデーが誘ったエリもいた。初日は楽しく過ぎるが、2日目に事件が起こる。海で幼い子どもがおぼれ、何とか助かったものの、エリが忽然と姿を消してしまったのだ。パニックに陥った一行は懸命に捜索を続けるが、エリの姿はどこにもなかった……。(彼女が消えた浜辺 - goo 映画より)
監督はアスガー・ファルハディ。
出演はゴルシフテ・ファラハニ、タラネ・アリシュスティ ら。




ミステリアスな映画だ。

子どもが溺れるという事故が起きた直後、一緒に来ていたエリという女性がいなくなっていることに気づく。
みんなでエリのことを捜すが、その過程で彼女のくわしい経歴を、誰も知らないという事実にぶち当たる。彼女は一体どういう女性で、何者だったのか。
そういう経緯が謎めいていて、実にサスペンスフルである。

映画が謎めいているのは、エリと、彼女におせっかいを焼く女性セピデーが嘘をついていることが大きい。
その嘘が物語をさらに謎めいた展開へ向かわせ、やがては悲劇を生むに至る。
この展開がおもしろく、スリリングだ。

また子どもが溺れるシーンには緊迫感があって、見ていてもドキドキしてしまった。
ヒューマンドラマという枠組みに入る作品だけど、見せ方はエンタテイメントンで楽しめる作品になっている。


最終的に明かされるラストは、結構重たいと思う。
その重たさは結果的に、この中に責めるべきものがいないということが遠因なのだろう。
そしてエリ自身は悪くないのに、最終的に他人から責められかねない罪深い存在となってしまったことも大きい、と思う。

もっともエリが責められる理由は、日本に住む僕からすると、理解はできない。
現代イランは、男女問わず大声ではしゃぐ陽気さがあり、恋の話をする開放的な雰囲気がある。若い女性はヴィトンのバッグだって持っている。欧米化の波はイランにも押し寄せているらしい。
それでも根本的なところは、イスラム法の精神が生きている。
そしてその精神がエリの名誉を傷つけることになる。

そんなイランの価値観や女性観を、外の人間である僕がとやかく言うわけにいかない。それはただの文化のちがいでしかないからだ。
だがそれゆえに、エリがちょっとかわいそうに思えてならないのである。


ともあれ、地味ではあるが、丁寧に撮られた作品である。
絶賛はしないけれど、それなりの佳品である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)



出演者の関連作品感想
・ゴルシフテ・ファラハニ出演作
 「ワールド・オブ・ライズ」
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「クレイジー・ハート」

2010-09-10 20:35:42 | 映画(か行)

2009年度作品。アメリカ映画。
かつて一世を風靡していたカントリーシンガー、バッド・ブレイクだが、今ではドサ周りの日々を送っていた。弟子であり、バックバンドの一員だったトミーは今や大スター。しかしバッドの生活は対照的。結婚生活は何度も破綻し、アルコールに溺れ、落ち目の日々を送っていた。しかし、そんな彼の生活もジーンの登場により変化が訪れる。2人は愛し合うようになり、バッドにも新曲の依頼が来るなど、事態は少しずつ好転していくが…。(クレイジー・ハート - goo 映画より)
監督はスコット・クーパー。
出演はジェフ・ブリッジス、マギー・ギレンホール ら。




「Ray」「ウォーク・ザ・ライン」など、これまで男性ミュージシャンを主人公にした映画をいくつか見てきた。
そしてそれらの映画に共通して言えることは、主人公は才能があるけれど、プライベートでは生活破綻者だという点である。
どのミュージシャンも大概、麻薬やらで身を持ち崩すパターンが多い。

僕は一般人であり、ミュージシャンの実態をまったくもって知らない。だからこういう人が多いんですよ、と言われると、ああ、そうなの、としか言いようがない。
けれど、ここまで生活破綻者ばかり、ステロタイプに描かれると、少しばかりうんざりしてしまう。


「クレイジー・ハート」もそういう意味では、よくあるパターンの映画と言えるのかもしれない。
ジェフ・ブリッジスはアル中のミュージシャンを自然体で演じていたけれど、よくあるキャラだよな、と感じてしまったため、あんまり引き込まれなかった。

個人的には、もうちょっと、何かあるのかな、と思って見ただけに、ちょっとがっかりだ。


だが、人間関係の描き方は非情に丁寧だ。

旅先で親しくなった女性と子どもに、親密な情を抱いていく様子や、別れた息子とやり直したい、と思い立つ経緯など、なかなか印象的である。
更正施設に入ろうと決めるところも、主人公の痛みが伝わってきて、なかなか悪くない。

そして、安直なハッピーエンドにしなかったところは、個人的には好印象である。


ミュージシャンの映画だけあり、音楽もすてきだ。
カントリー・ミュージックはほとんど聴かないけれど、心地よい曲調で、映画を見ている間、その音楽に聞き惚れてしまった。


絶賛するポイントには乏しい映画と思うのだけど、非常に丁寧に、物語と人間と音楽を描いた映画だと思う。
気に入らない部分もあるが、悪い印象を持たない作品である。

評価:★★★(満点は★★★★★)



製作者・出演者の関連作品感想
・マギー・ギレンホール出演作
 「ダークナイト」
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「キャタピラー」

2010-08-19 22:08:32 | 映画(か行)

2010年度作品。日本映画。
一銭五厘の赤紙1枚で召集される男たち。シゲ子の夫・久蔵も盛大に見送られ、勇ましく戦場へと出征していった。しかしシゲ子の元に帰ってきた久蔵は、顔面が焼けただれ、四肢を失った無残な姿であった。村中から奇異の眼を向けられながらも、多くの勲章を胸に、“生ける軍神”と祀り上げられる久蔵。四肢を失っても衰えることの無い久蔵の旺盛な食欲と性欲に、シゲ子は戸惑いつつも軍神の妻として自らを奮い立たせ、久蔵に尽くしていく。四肢を失い、言葉を失ってもなお、自らを讃えた新聞記事や、勲章を誇りにしている久蔵の姿に、やがてシゲ子は空虚なものを感じ始める。敗戦が色濃くなっていく中、久蔵の脳裏に忘れかけていた戦場での風景が蘇り始め、久蔵の中で何かが崩れ始めていく。そして、久蔵とシゲ子、それぞれに敗戦の日が訪れる……。(キャタピラー - goo 映画より)
監督は若松孝二。
出演は寺島しのぶ、大西信満 ら。




誰もが知っていることだけど、戦争は大変悲惨なものである。
それは暴力を伴うものであり、多くの人を傷つけてしまうからだ。

だがその暴力の形は、決して一様ではない。
わかりやすいのは、人がバンバン死んでいくという直接的な暴力だろう。
だがそれ以外に、間接的な暴力というものも存在するのだ。
たとえば、戦争という空気から無言の圧力が生まれ、それが人間の言動を制限し、自由な人間の心を抑圧してしまうことがある。地味ではあるがそれだって悲惨な暴力だ。

そして「キャタピラー」という作品はどちらかと言うと、そのような間接的暴力を描いていると感じた。


本作は、戦争で手足と、耳と声を失ってしまった夫と、それを看護する妻の話である。
里に残された妻は、そんな形になってまで生き残り、軍神とあがめられる夫のために、銃後の妻として尽くさなければならなくなる。
(蛇足だが、個人的には寺島しのぶ以上に、大西信満の演技の方が印象的だ。鬼気迫るものが感じられる)

ただ生き、食い、眠り、体を求める男のために、女は働かなければいけない。
愛があれば、まだマシだけど、この夫婦の場合、相手に対する同情はあっても、愛情はないように見える。
それだけに、妻の方としては苦しいのだろう、という気がする。

だが、周りはそんな夫に尽くせと無言で強要し、貞節な女であることを要求する。
そこにあるのは無言の抑圧であり、見ていていくらか気が滅入る。


そんな関係ゆえか、介護の場面では微妙な形で、憎悪が混じりこむこととなる。
介護は、閉鎖的な行為だ。いろいろな負の感情が湧き出るのも当然のことだろう。

個人的には、女が、軍神だからという理由で夫を外に連れ出すシーンに惹かれた。
女としては、夫をさらし者にして、これまでの夫の態度に対し復讐してやろうという気持ちがあるのだろう。
そして、貞節な妻なのだ、と村人に対してアピールしようという女の打算も透けて見える。

そこからは、虐げられるだけではない、女のしたたかさがうかがえて、にやりとさせられる。
それと同時に、女の静かな憎しみが感じられて、ぞわりともさせられる。


そして二人の関係は、ラストの終戦で異なる結末を迎えることになる。
女が戦争の終わりを笑顔で迎えたのに対し、男は自殺を選ぶ。

ひょっとしたら、男は、戦争の中でしか、手足を失った自分の居場所を見つけられなかったのかもしれない。あるいは、終戦により、女が自分を介護する理由がなくなったことを感じ取り、それを恐れたのかもしれない。
何にしろ、男は土壇場になると弱いのだ。

だがそれを抜きにしても、夫の一生はなかなか悲惨である。
彼の死もまた戦争が生み出した間接的な暴力かもしれない。


ともあれ、戦争が生み出す悲劇を別の側面からアプローチした作品である。
なかなか誠実な作品と思った次第だ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)



出演者の関連作品感想
・寺島しのぶ出演作
 「単騎、千里を走る。」
 「ハッピーフライト」
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「借りぐらしのアリエッティ」

2010-08-03 20:10:37 | 映画(か行)

アリエッティはとある郊外の古い屋敷に住んでる小人の女の子。小人の一族は、自分たちの暮らしに必要なモノを必要なだけ人間の世界から借りて生活する、借りぐらしの種族だ。アリエッティが初めて借りに出たその夜、借りの最中に病気の静養でこの屋敷にやってきた少年・翔に姿を見られてしまう。人間に姿を見られたからには、引っ越さないといけない。掟と好奇心の間でアリエッティの心は大きく揺れるのだった…。(借りぐらしのアリエッティ - goo 映画より)
監督は米林宏昌。
声の出演は志田未来、神木隆之介ら。




基準をどこに置くかで、作品の評価というものは微妙に変わる。
「借りぐらしのアリエッティ」はジブリ作品という基準で見るなら(ハードルは高くて酷だけど)、正直弱い作品である。


そう感じたのは、人間の表情や動きが不自然で、個人的に物語に入り込めないポイントがあったからだ。
特に翔と家政婦のハルの動きにそれを感じる。

たとえば、翔が最初にアリエッティに話しかけるシーンがあるが、そのときの彼の表情がつくりものめいていて、しゃべくりのテンポも悪いように感じる。
またアリエッティに対して、小人は滅びゆく種族だ、と語るシーンも個人的に気に食わない。
あのシーンでは、もう少し表情に動きをつけてほしかった。せめてその後で謝るシーンとの間で、表情に落差がほしい、と思う。病気のせいで悲観的かつ虚無的になってるから出たセリフとはわかるけど、あれではただの冷血漢にしか見えない。
それ以外でも、彼の動きはいくらかぎこちない。病人であるという設定を差し引いても、彼の動きはもったりして見えて、どうも違和感を覚える。

ハルの方も、いろんな意味で変だ。
顔はデフォルメしすぎだし、小人が見えなくなって、身もだえるシーンの動きは不自然極まりない。
つくり手はコミカルのつもりでそれを描いたのかもしれないけれど、正直僕は見ていて引いてしまった。

それは小人たちが生き生きと描かれているのとは、対照的だ。
もしかしたら、人間たちの動きのぎこちなさは意図的なものかもしれない。
けれど、理由はなんであれ、僕にとってはマイナス材料でしかなかった。


一方の小人たちは、先に述べたとおり、いかにも楽しそうに描かれている。

特に生活のディテールの描き方がすばらしい。
糸巻きを使ったエレベーター?はいかにもおもしろそうだし、釣り針を使って、机から降りるところや、両面テープを使って柱をよじ登るところにはワクワクしてしまう。小人たちの飲むお茶が水滴で数滴分というところも、なかなかリアル。
こういう細かい描写は、いちいち目を引くものがある。

キャラクターもすてきで、アリエッティはかわいらしいし、父親はかっこよく、母親は表情豊かでおもしろい。
そういった描き方もあり、小人の世界は魅力的に映る。


また、お話そのものも楽しめる作りにはなっている。
ハルの行動理由がわからず、いかにも物語の都合で動いている感じがするのが難だけど、盛り上がるポイントをきっちり抑えていて、全体的に見れば、なかなかおもしろい。


というわけで、欠点はあるものの、美点も見出せる作品となっている。
ジブリ作品としては真ん中か、真ん中より下のレベルだが、新人監督の作品としてはまずまず及第点だろう。

評価:★★★★(満点は★★★★★)



そのほかのスタジオジブリ作品感想
 「おもひでぽろぽろ」
 「崖の上のポニョ」
 「ゲド戦記」
 「千と千尋の神隠し」
 「となりのトトロ」
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「川の底からこんにちは」

2010-07-15 21:15:54 | 映画(か行)

「川の底からこんにちは」
2009年度作品。日本映画。
上京して5年、仕事も恋愛もうまくいかず妥協した日々を送っていたOLの佐和子。そんな彼女の元に、父が末期がんで倒れたという知らせが届いた。佐和子は田舎に戻り、実家のしじみ工場を継ぐことに。しかし工場は倒産寸前で、パートで働くおばちゃんたちからも相手にされない。さらについてきた恋人にまで浮気されてしまう始末。そんな追い込まれた中で佐和子は工場を立て直す決意をし……。(川の底からこんにちは - goo 映画より)
監督は「剥き出しにっぽん」の石井裕也。
出演は満島ひかり、遠藤雅 ら。




予告編の時点でわかっていたことだけど、「川の底からこんにちは」はゆるい映画だ。

主人公は「しょうがない」が口癖で、自己評価が中の下という女。前半の彼女のトーンはいかにも無気力って感じである。
こんなキャラが主人公では、ゆるくなるのも当然と言えば当然だ。


しかしそれによって、映画にはゆるい笑いが生まれている。これがなかなかおもしろい。
会話などは、噛み合っているようで、微妙に噛み合っていないし、どのキャラクターもどこかとぼけた味わいがある。
爆笑と言えるほどのネタはないが、くすくすと笑えるポイントは多い。

ぶっちゃけてしまえば、グダグダなわけだけど、雰囲気はこれで悪くない。


そんなゆるい、まったりテンポで進む物語は、後半になるに至り、微妙にテンポが変わる。
それまで、しょうがない、と流されているように生きていた主人公が、男に逃げられることで見事にふっきれるのだ。

自分の自己評価は、相変わらず、中の下のまま。彼女は自分をそんなものだと認識している。
しかし、だからこそがんばるしかない、と彼女は思うようになる。
そう開き直った彼女の姿は、非常にすがすがしい。

彼女の言葉は、基本後ろ向きだけど、行動はきっちり前を向いている。
僕自身も、自己評価は中の下だと思っているので、彼女のふっきれ具合が、いい感じで心に響いてきた。


絶賛できるほどのポイントはないと思うのだけど、細やかな笑いと、ネガティブ寄りのポジティブさが、楽しい一品である。
作品自体は、中の下よりもちょっと背伸びした感じ、言うなれば、それなりの佳品といったところだ。

評価:★★★(満点は★★★★★)



出演者の関連作品感想
・満島ひかり出演作
 「愛のむきだし」
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「告白」

2010-06-08 21:00:56 | 映画(か行)

2010年度作品。日本映画。
女教師・森口悠子の3歳の一人娘・愛美が、森口の勤務する中学校のプールで溺死体にて発見された。数ヵ月後、森口は終業式後のホームルームにて「私の娘はこの1年B組生徒二人に殺されたのです」と衝撃の告白をし、ある方法にてその二人の生徒に復讐する。そして4月、クラスはそのまま2年生に進級。犯人のひとりAはクラスのイジメの標的になっていた。そして、もうひとりの犯人Bは登校拒否し、自宅に引きこもっていた…。(告白 - goo 映画より)
監督は「嫌われ松子の一生」の中島哲也。
出演は松たか子、木村佳乃ら。



「告白」はこわい作品であり、重い作品であり、暗い作品である。
そしてべらぼうにおもしろい作品でもある。
端的にまとめるなら、そういうことだ。


原作が原作だからということもあるが、「告白」はこれまでの中島哲也作品とはトーンがちがっている。
しかし僕は本作で、中島哲也の力量を思い知らされた気がする。

その理由は彼が、原作の欠点を補い、そして原作の良さを引き出していたからだ。


元々原作はラストが個人的に不満だった。
具体的には、美月のキャラが第二章と後半とで微妙に変わっているように感じられた点と、教師が生徒の爆弾をちがう場所に持っていく点である。
その流れはいくらか強引で、説明不足と思えて、個人的には気に入らなかった。

しかし中島哲也はそれらの欠点を、丁寧に描くことで、無理なく説得力を持って見せてくれる。
このあたりの手腕はさすがといったところだ。


もちろん欠点を補うだけでなく、原作の良さも十全に引き出している。
たとえばスリリングな展開。

この物語には多くのキャラクターの視点から物語が語られるが、それぞれのキャラクターには、それぞれの思いがあり、その思いが必ずしも交わるわけではない。
そしてそこから立ち上がる予測つかない展開と、不穏な雰囲気は実にスリリングだ。
展開を知っていたにもかかわらず、見ている間はドキドキしてしまった。
この牽引力は目を見張るものがある。


だがそれ以上にすばらしいのは、映画中に終始漂っている、冷たい悪意だろう。

特に松たか子演じる女教師がすごかった。というか、こわかった。

娘を殺された彼女は口調も静かで、淡々としているように見える。
しかしその復讐心が恐ろしく根深いことが、やがてわかってくる。
そこには冷たいくらいの悪意に満ちていて、あまりに鋭利だ。

幼い娘を殺された恨みを晴らすため、彼女はあらゆる手段を駆使し、冷静に相手の心を追いつめていく。
口調が穏やかなだけに、そこには容赦のない雰囲気が感じられる。

多分彼女は自分の行動に対して、迷いをもっていない。
彼女が泣くシーンがあるが、それは自分の行為に悩んでの涙ではないと思う。
ラストに、彼女は「なーんてね」とも言った。それは見ようによっては、すべては冗談だと茶化しているようにも見えるが、多分本当に、彼女は言葉の通りにやったのだろう。
そう感じさせるだけの情念が画面越しから伝わってくる。

そんな彼女の姿には、すごみさえ感じられるのだ。それが本当にすごい。


物語の性質上、この作品は見る人を選ぶかもしれない、とは思う。
だが、それでも本作はおもしろいと断言したい。

個人的にはかなり好きな作品だ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)



製作者・出演者の関連作品感想
・中島哲也監督作
 「嫌われ松子の一生」
 「パコと魔法の絵本」
・松たか子出演作
 「ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~」
 「THE 有頂天ホテル」
 「HERO」
 「ブレイブ ストーリー」
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「クロッシング」

2010-05-18 20:49:48 | 映画(か行)

2008年度作品。韓国映画。
中国との国境に近い北朝鮮のとある寒村で、親子三人で暮らすヨンスは、肺結核にかかった妻の薬を求め、命がけで中国へ渡る。しかし、脱北の罪で追われる身となり、北朝鮮に戻ることができなくなってしまったばかりか、他の脱北者たちとともに韓国に亡命することになる。その間に病状が悪化した妻はとうとうかえらぬ人に。一人残された11歳の息子・ジュニは、父を探しに、あてのない旅に出るのだが…。(クロッシング - goo 映画より)
監督は「火山高」のキム・テギュン。
出演はチャ・インピョ、シン・ミョンチョル ら。



「クロッシング」は悲惨な映画である。
もっとも脱北者を描いた映画だからそれも当然かもしれないけれど、登場人物を取り巻く状況はあまり明るくないものばかりだ。

最初の内はそれでもまだ明るい部分はある。
北朝鮮は独裁国家なので、もう少し人々が虐げられていると思っているが、普通に暮らす分にはサッカーをするなどの娯楽があるようだ。

しかし反動分子は収容所に送られることもあるし、何より一般家庭は貧困にあえいでいる。
病気にかかり薬がほしくても、それは容易には手に入らないし、食料自体手に入れることは難しい。


主人公は妻の薬を得るため、中国へ密入国し、勘違いも重なって脱北者になってしまう。
妻子を故郷に残しているだけに、それは主人公にとっては不本意な形だ。
そして北朝鮮に残された息子は父もなく、母には死なれ一人で生きざるをえない。

そんな彼らの状況を見ていると、北朝鮮という国家に関わった以上、内に暮らすのも、外で暮らすのも大変なのだな、と思ってしまう。
北朝鮮国内には貧困があり、ものの奪い合いもあるし、収容所に入れられでもすれば、衛生状態の悪さから、死に瀕することもめずらしくない。
北朝鮮国外で生きていれば、少なくとも命の不安はなくなるけれど、妻子を残した者にとっては、精神的にはつらい状況に見舞われる。それでもまだ恵まれているとは言えど。


ラストはそういった映画のすべてを象徴するようなシーンとなっている。
明るいラストであれば、よかったとは思うけれど、北朝鮮を描く上で、生半可な幸福を、現段階では描くわけにはいかない。そう言っているようで、ずいぶん重たく、考えさせられる場面になっている。

現在世界で起きている状況を、切り取った悲しく重い映画だ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)
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「クレイマー、クレイマー」

2010-03-01 20:00:26 | 映画(か行)

1979年度作品。アメリカ映画。
ダスティン・ホフマン、メリル・ストリープ主演で贈る、父子家庭、女性の自立といった現代社会が抱える家族の問題をヒューマンな視点で描いた、アカデミー賞5部門受賞の珠玉のドラマ。
監督はロバート・ベントン。
出演はダスティン・ホフマン、メリル・ストリープ ら。



名作と呼ばれる作品は多くあれど、そのすべてが、必ず僕の感性に合うという保証はない。
ごくまれにだが、これはどうも俺には合わないな、という名作もあるし、そこまでいかなくとも、まあ良作程度だよね、で終わる作品もある。
だがもちろん、さすが名作と呼ばれるだけあるな、と感じる作品もある。

この「クレイマー、クレイマー」は名作として名高い作品だ。
そして鑑賞した後は、名作と呼ばれるのも納得と思うことができた。ともかく心がゆさぶられるのである。


映画は、仕事人間の男テッドが妻のジョアンナに逃げられるところから始まる。テッドは息子のビリーを預かることとなり、それまで妻に任せきりだった家事を切り盛りし、仕事もこなさなければならない始末。
当然、そういう状況だと、いらいらする場面も多くなり、息子のビリーと衝突することもしばしだ。
しかし、けんかをするということは、裏を返せば、自分の息子と真に向き合うことでもあるのだろう。
実際、結果として、テッドとビリーの親子の愛情はどんどん深まっていくこととなる。その過程が実にあったかい。

ビリーがジャングルジムから転落した後、ビリーを抱えながら、道を失踪するシーンは心を打たれてしまう。
そこには確かな愛情が感じられて、忘れがたい一シーンだ。

だからこそ、テッドはジョアンナにビリーを渡さないためなら、格の落ちる仕事に就いてもかまわない、と考えるのだろう。
それはまちがいなく、テッドにとっては、屈辱的なことだ。でも仕事よりも、テッドにとっては、息子の方が大事なのだ。
その変化した主人公の姿が胸に響いてならない。


しかしその息子の親権をめぐる夫婦の争いは、あまりに悲しいものである。
自分の息子を、自分の元に引き止めるためには、裁判の場でジョアンナを攻撃するしかない。
それは裁判に勝つためには必要なことだが、同時に相手を傷つける行為でもあるのだ。

確かにテッドとジョアンナは別れた。
しかし二人の間に憎しみがあったわけではない。それなのに、相手を傷つけるような消耗戦を行なわなければいけない。
その様があまりに悲しくて、見ていて切ない気持ちにさせられる。

最終的に、テッドは裁判に負ける。愛する息子は別れた妻の元に引き取られることになる。
テッドとしては、納得いかないだろうが、息子を裁判の場に出してまで、上告して勝とうとは思わない。
息子を愛するからこそ、裁判の場で息子を傷つけたくはないのだろう。それも一つの愛だ。


ラストはある意味ではハッピーエンドと言えるだろう。
もうテッドとジョアンナの関係はむかしのようにはいかないのかもしれない。
しかし二人はそれぞれ、変化しており、それがいい方向に向かうような予感が、何とはなくだが感じられる。その予感が美しく、忘れがたい。

心に残るシーンも多く、展開もすばらしい。僕はこの作品が好きである。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)



制作者・出演者の関連作品感想
・ダスティン・ホフマン出演作
 「パフューム ある人殺しの物語」
・メリル・ストリープ出演作
 「大いなる陰謀」
 「ダウト ~あるカトリック学校で~」
コメント (3)
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「カティンの森」

2010-02-24 20:16:58 | 映画(か行)

2007年度作品。ポーランド映画。
1939年9月、ポーランドは西からドイツ、東からソ連に侵攻され、両国によって分割されてしまう。ソ連によって占領された東部へ、夫のアンジェイ大尉を捜しに妻のアンナと娘がやって来た。アンナは捕虜になっていた夫に再会するも、目の前で収容所へと移送されていく。やがて独ソ戦が始まり、1943年、ドイツは占領したカティンの森で虐殺されたポーランド将校たちの遺体を発見する。しかし、アンナは夫の死を信じられない。(カティンの森 - goo 映画より)
監督は「灰とダイヤモンド」のアンジェイ・ワイダ。
出演はマヤ・オスタシェフスカ、アルトゥル・ジミイェフスキ ら。



人の思いや感情は、ときとして簡単に軽んじられる。
それはささいなものから深刻なものまで様々だけど、日常を生きていれば、往々にしてそういう場面に出くわす。

しかしこれが、全体主義国家なり、独裁者なりが支配する国ならば、人の思いや感情は軽んじられるだけでなく、考慮にすら入れられなくなるのだ。
そして戦争においては、人間の思いや感情だけでなく、人間の存在そのものが軽んじられ、考慮にすら入れられなくなる。

「カティンの森」を抽象的に要約するなら、そういうことになる。わかりにくい要約かもしれないけど。


寡聞なもので、今回の映画を通じ、僕は初めてカティンの森事件というものを知った。
第二次大戦の混乱期では、こういうことが平気で行なわれていたとしても、ふしぎはない。
だが、それにしても、あまりに陰惨な事件である。いやな話だ。

日本人にとって、この事件は多分マイナーな方だと思う。
それがあまり知られていなかったのは、ヨーロッパのできごとという地理的な要因もあろう。
だがそれ以上に大きいのは、冷戦が終わるまで、事件のことに対して沈黙せねばならなかったからでは、と見ていて思った。


カティンの森で、ポーランドの将校や捕虜が、ソ連軍によって虐殺された。
その事実は、ナチスがポーランドを支配したときに、公にされている。
けれど、ソ連がナチスを追い出し、ポーランドに影響力を持つようになると、事件はソ連軍ではなく、ナチスが行なったものとされる。
そして真実をかくすために、隠ぺい工作も謀られる。

冷戦期ということもあり、ポーランドはソ連の意向に逆らえない。
被支配者であるポーランド国民は、事件に対して沈黙をしなければいけなくなる。実にひどい話だ。

カティンの森の事件がむごいことであり、事件を語ることができないという状況はまちがったものだと、多分全員が気づいている。
ソ連軍も後ろめたさがあるから、隠ぺいを行なおうとするのだろう。
映画の中で、カティンの森で兄を殺された妹はこんな感じのセリフを言う。
私は犠牲者の傍にいたい、支配者の傍じゃなくて、と。
それは真実であり、正しいことであり、恐らく多くのポーランド人の思いでもあると思う。

だがそんなポーランド国民の思いや感情は軽んじられ、考慮にすら入れられなくなる。
正しいことを訴えたくても、状況は厳しく、容易に反抗はできない。全体の前で、個はあまりに弱いからだ。
そのため結果的に沈黙をずっと続けるほかなくなってしまう。
これは本当にひどい話だ。


もちろんそういう事件後の状況もむごたらしいが、事件そのものはもっとむごい。
カティンの森で、多くのポーランド人が殺されたわけだが、その方法は本当にえぐいのだ。
一言で言えば、殺戮の手段が、あまりに要領良すぎる。

数多くの人間を殺すため、ソ連軍は、虐殺をシステマティックに行なっている。
それはベルトコンベア式の工場にいるかのような手際の良さで、多くの人間の命を、手際よく、ごみのように消し去っていく。

言うまでもないが、そこに人間の尊厳に対しての敬意はかけらもない。
人間の尊厳がここまで軽んじられてよいのであろうか、と見ている間、幾度も思った。
こんなにも簡単に、人は人を殺せるのだろうか、と考えずにはいられなかった。
そのため見ていて、心が凍りつくような気分にさえなった。それは信じがたい情景だった。

しかし僕がどう思おうと、現実にこのようなことが行なわれたのだろう。


戦争という極限下では残酷なことが平気で行なわれる。
その事実を忘れてはいけない。そう強く訴える作品である。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)
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