私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「歩いても 歩いても」

2008-07-11 21:12:43 | 映画(あ行)

2007年度作品。日本映画。
夏の終わり、横山良多は15年前に亡くなった兄の命日のため妻と息子を連れて実家を訪れた。開業医だった父とそりのあわない良多は失業中のこともあり、ひさびさの帰郷も気が重い。明るい姉の一家も来て老いた両親の家には久しぶりに笑い声が響くが、姉たちが帰り、残った良多たちが両親と食卓を囲むうち、それぞれの秘めた思いが沁み出していく……。
監督は「誰も知らない」の是枝裕和。
出演は「トリック」の阿部寛、夏川結衣 ら。


家族の一日を描いた映画で、世間一般で見られるような普通の家族の姿がそこには映し出されている。

その中でひときわ異彩を放っていたのは、当然のことながら、樹木希林だろう。
特に前半のYOUとのかけあいがおもしろい。そこでのとぼけた感じや、いかにも母親らしい言動などは、見ていて何度もくすりとさせられる。こういう役になると、希林はまさにはまり役で、場の空気をすべて持っていくあたりがすごい。

もちろんそれ以外のキャラも心に残るのが多い。
かまびすしい感じのYOUや、彼女の夫や子どももやんちゃな感じが伝わる。阿部寛演じる男や家族の距離感の描き方や、ちょっと心の狭い父親の姿もユーモラスに描かれている。
そこにはある種の過剰さはあるが、決して嘘っぽくなく、無駄とも見えるおしゃべりを含め、リアリスティックで、役者の自然体の雰囲気が丁寧に撮られているのが印象的だ。

そのような家族の姿は端から見れば仲が良いように見える。だが多くの家庭がそうであるように、必ずしも仲がいいばかりではない。家族という近しい単位の中だからこそ、各人の心にはちょっとした不満なりが立ち上がってくる場合もそこにはある。
特に後半で母親が見せたちょっとした意地悪な言葉や、考えなしの言葉、それに対する嫁の陰湿な視線が興味深い。
また少し違うが、事故死した長男に命を助けられた男に見せる悪意にも家族というものに対する一つの執着を見る思いがする。
また息子も必ずしも親の理想通りに動くわけではなく、ちょっとした衝突だって起こりかねない。
家族というのは、近い分だけ厄介な存在だと、そういう場面を見ると思ってしまう。

しかしそれでも近しい存在だからこそ、反発するだけでなく、しっかり受け継がれていくものも存在する。
ラストシーンの車や、チョウの話などはそれをさりげなく提示していて、爽やかな印象を後に残した。

幾分地味な内容ではあるが、映画の世界にどっぷり浸ることのできる心地よい作品である。是枝監督のセンスを感じ取ることのできる満足の一品だ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想:
・是枝裕和監督作
 「花よりもなほ」
・阿部寛出演作
 「姑獲鳥の夏」
 「魍魎の匣」
 「HERO」
・夏川結衣出演作
 「ゲド戦記」
 「天然コケッコー」
 「花よりもなほ」
・YOU出演作
 「THE 有頂天ホテル」
・樹木希林出演作
 「ブレイブ ストーリー」
・原田芳雄出演作
 「どろろ」
 「花よりもなほ」

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