タミアのおもしろ日記

食文化・食育のお役立ちの話題、トンデモ食育、都市伝説、フードファディズムなどを分析して解説します!(^.^)

「NHK食の起源・ご飯」の間違い2「アミラーゼ遺伝子から腸内細菌まで」

2020年03月08日 | Weblog
○はじめに。
11月24日に放映されたNHKの「食の起源 第1回ご飯」は、科学的間違いが多いので、前回のブログで問題点を指摘しました。タミアもお米が大好きだから、お米食べてねと言いたい気持ちはNHKさんと同じなんですが、科学的に間違った理由でお米が体に良いと宣伝されるのは、お米がかわいそうです。

今日のブログは、お米とNHKにがんばれって愛を込めて書く第2回目です。NHKならもっと良質な番組を作れると、心から信じて書きます。

○前回のブログの指摘内容は?
 たくさん間違いがあったのでたくさん指摘しました。その中でも重要な指摘を一言で言うと、「番組の肝の『デンプンを食べて脳にブドウ糖が送られたから人類は賢くなった』説が本当なら、果物を食べて消化して大量のブドウ糖を脳に送っていた猿の方が先に進化してるよね?」というところ。

そのほか、肉ばっかり喰ってるネアンデルタール人もいたという有名な論文を無視して、デンプンを食べていたことばかり強調したり、菜食主義のネアンデルタール人が病気を患っていた話を言わなかったり、「火を使って加熱調理したデンプンをよく噛んで感じる甘みが初めての食の喜びだった(本当は、それよりも先に果物の甘みや肉類の出汁味を楽しんでいた。)」等のいろいろな間違いがありました。詳しくは前回のブログを読んでくださいね。

○今日取り上げる内容。
本日は、番組の中で強調されていたアミラーゼ遺伝子や腸内細菌の話題をメインに取り上げます。番組ではいろいろな取材と実験を行ってましたが、取材と実験に協力した先生達の研究内容自体は事実でも、その実験結果を科学的に不適切に説明している部分が多くて、視聴者が誤解する部分がたくさんありました。科学的に間違った解説が入ると事前に知っていたら、ほとんどの先生方はオファーを断ってただろうと思います。

○ラオスの少数民族と腸内細菌の話題。

番組開始後2分40秒で、「ラオスのある少数民族は、一日1キログラムもお米を食べているが太っていないで健康的だ、その理由は腸内細菌。」と説明しました。ところがですね、番組後半で、実は彼らが食べているお米は「蒸したモチ米」であることが明かされます。この時点でのけぞってしまいました。「蒸したモチ米」は日本人が普段食べている「うるち米を炊いたごはん」と性質が全く異なり、デンプン構成が全く異なるし血糖値上昇が緩やかなのです。

 それに、この少数民族の方々は映像から家屋・持ち物・生活ぶりなどを判断すると、運動量が平均的日本人事務職員より多いはずです。電車や車で会社に行き1日中パソコンやスマホに向かっている日本人サラリーマンと比較していいのでしょうか。運動量も全く異なるラオスの少数民族を、日本人がまねしたつもりで、「蒸した餅米」と性質が違う「炊いたうるち米」を大量に食べて健康になると考える方がおかしいのです。科学的には、ラオスの少数民族の方に最低1年以上は日本人と同じうるち米飯を1日1キログラム食べてもらって、ほとんど運動しないでパソコンやスマホで仕事をしてもらって、それでもやはり健康を保てるかどうかを調べなければなりません。こういう両国の様々な暮らしの違いをすっとばして、番組冒頭で「理由は腸内細菌。」と断言してしまうのは、科学論文だったら即座にリジェクトです。

○近江さんは番組の冒頭で「人類の祖先の主食が重要だ」と話してたのに。
ラオスの画面の後、ナビゲータのTOKIOさんたちが集まって会話をしていると、近江さんが現れて「人類の祖先の主食が重要」と語り、番組はその後、古代人の食事の話がしばらく続きます。でも、番組の36分目ごろに伊藤先生が「数千年で遺伝子が変わる」と述べて、欧米人と日本人では適切な食べ物が違うと示唆し、さらに43分目前後で、腸内細菌により日本人は「ご飯に適した体への改造を受けた」と言っています。とすれば、番組4分目前後で近江さんが「祖先の主食が重要」と言ったことは間違いだとなります。番組は論理的に破綻しています。

○本筋とは無関係な話を、人気タレントとCGで丁寧に説明・・・って一体。
 番組では21分目にシモンズ大学のTeresa.T.Fung先生が出演して、低糖質ダイエットを否定したんですが、説明はたった1分20秒ほどで終わり、直後、この番組が低糖質ダイエットを否定する理由は「32億年前に秘密がある」とナレーションが入り、5分間のタイムトラベルを始めます。

人気タレントの長瀬さんが32億年前に行くCG映像が流れ、同じく人気タレント城島さんが美しく楽しいCGでミトコンドリアの祖先に変身します。ミトコンドリアの祖先が無酸素呼吸する単細胞生物に寄生したおかげで、単細胞生物は糖質を分解して酸素呼吸ができるようになり、それが進化して現在の多くの生物になったことが、手間暇かけた映像で5分かけて説明されます。

その後で「そんな重要な糖質、もしもとらなかったらどうなるでしょう」とナレーションが入って、糖質を取らないと動脈硬化や心臓病のリスクが高まって健康に悪いのだと1分30秒程度紹介しますが、この部分には豪華なタレントも美しいCGアニメもありません。説明の構造は「ご飯バーガー」と同じ構造ですが、具(ミトコンドリア劇場)が5分間もあるのに、挟んでいるお米バンズ(低炭水化物ダイエットを止めよう論)が上下合わせても3分しかないのが奇妙です。

多くの生物が糖質を分解して呼吸してる、という説明のためだけに、人気タレントさんに依頼して手間暇かけて人件費かけて丁寧なCGと楽しい演劇で説明をしてる一方で、その前後の低糖質ダイエット否定部分があまりに簡素な番組作りなので、その人件費配分の温度差がどうも気になりました。

例えるなら「ゲームの歴史・球技」という番組で、出演者が頻繁に「野球がいいよね」と言いながら、クリケットやサッカーの健康面の効果を測定している学者が登場し、その間に、中大兄皇子のけまりの感動エピソードを高価な再現衣装を着た人気タレントの演劇で再現している番組、と同じぐらい奇妙です。

そこで、Teres.T.Fung先生の原論文を読みました。
出典はAnn Intern Med. 2010 Sep 7; 153(5): 289–298.
タイトルはLow-carbohydrate diets and all-cause and cause-specific mortality: Two cohort Studies.
アブストラクトの結論はこう書いてあります。
Conclusion
A low-carbohydrate diet based on animal sources was associated with higher all-cause mortality in both men and women, whereas a vegetable-based low-carbohydrate diet was associated with lower all-cause and cardiovascular disease mortality rates.

野菜ベースの低炭水化物ダイエットが健康に良いと?!本文を熟読したら、なんとこの論文は、穀類を少しだけ減らして植物性脂肪に置き換える低糖質ダイエットは死亡率を下げる、という論文だったんです!!

さらに本文掲載の第3表を見て愕然とする事実を発見しました。番組では、Teresa先生の声に日本語がアテレコされて「糖質が少ない人は死亡率が1.3倍になります。」と言っていたんですが、実際の表を見ると、死亡率が有意に1.3倍になるのは、男性でしかも食事のカロリーの中の糖質を29.3%以下まで絞る極端な低糖質ダイエットの例です。女性の場合、全ての低糖質ダイエットをまとめて統計分析すると死亡率に有意差なしと判定されました。そして植物性脂肪からカロリーを取る低糖質ダイエットなら、男女ともむしろ死亡リスクが減りました。

なお、この論文では低糖質ダイエットを軽いものから極端なものまでD1~10ランクに分けて、そのランク番号で死亡リスクを記載しています。ランク番号と糖質の割合の対応表を見たい方は、次の先行論文に書いてありますのでご参考までに。
N Engl J Med. 2006 Nov 9;355(19):1991-2002.
タイトルLow-carbohydrate-diet score and the risk of coronary heart disease in women.
著者Halton TL1, Willett WC, Liu S, Manson JE, Albert CM, Rexrode K, Hu FB.

Teresa先生が「糖質を植物性脂肪に置き換える低糖質ダイエットは健康に良い」と唱えている不都合な真実を、番組は伏せていたと判明しました。これで謎が解けました。番組では低糖質ダイエットは健康に悪いよと主張する映像が短くて、本論と関係ないミトコンドリアの進化の話を丁寧に時間をかけて画像を作り込んでいた理由が。

○お米をフードファディズムのネタにしないで。

さて、糖質制限ダイエットを批判したすぐ後(29分目)に、番組は「1万年前に農耕が始まった、中国浙江省で上山遺跡から世界最古の米が発見された」と紹介しました。ついで30分目に、「実はお米はすごい性質を持つ」、とナレーションが入り、30分50秒で「必須アミノ酸がすべて含まれている」、「繊維やミネラル、ビタミンなどもぎゅっと含まれて」いる、と説明されました。この説明が間違いであることは、このブログで既出ですので、2019年01月18日記事「「お米は栄養バランスが良い」は勘違いです。」を読んでください。ごく簡単にこの記事内容を抜粋します。
(1)お米は必須アミノ酸を全て含んでるがバランスが悪い。
(2)お米に含まれる必須アミノ酸の絶対量が少ないのでお米だけでは健康を保てない。
(3)お米にはある種のミネラルやビタミンCなどが含まれてないので、「栄養バランスが良い食品」という説を広めると、信じた人が健康を害する恐れがある。

○アミラーゼ遺伝子説には3つの奇妙な誤解が隠れてる。

32分目で「3000年前に、日本人は世界でもっともお米を食べる民族になった。」と放送しましたが、根拠が一切示されませんでした。中国南部や韓国、東南アジアと比較してデータがあるのでしょうか。
32分40秒前後で「日本人は遺伝子が変化した」と語られて33分に、「クラッカーを食べると、日本人はすぐに甘みを感じるが、欧米人は、甘みを感じるスピードが遅い。」と紹介されて、33分40秒でダートマス大学の研究が紹介されます。それは、世界の民族の唾液を集めてアミラーゼ遺伝子を解析したら、欧米人は遺伝子コピーを4、5個、日本人は平均7個もっていたとの研究でした。

この研究について、ナレーションは、こう解説しました。日本人は3000年の間に日本人はお米を食べてアミラーゼ遺伝子が増えたので、遺伝子のコピーの数が多い、だから日本人はクラッカーを食べてすぐに口の中でデンプンが分解されたから甘みを感じたが、欧米人はデンプン分解速度が遅くて甘みを感じにくいと。

(1)推論の前提が間違いで、背後に食養会が見え隠れ。
実は、一昔前、食育を3省庁協同で管轄してたころ、洋食否定食養復興運動の島田彰○先生(故人。)の友人が担当したんですよ。その人は島田先生の論とそっくりな講演会を各地の小中学校で開いていた上、その人の周囲にいた人が「日本人は他の人種と比較してアミラーゼ活性が高いが、お米を食べるためにそういう遺伝子になったのである、だから日本人は牛乳や肉を減らしてお米をたくさん食べるべきだ。」というパンフを配布しました。講演会に参加した子から伝え聞いた親たちが噂話をしたため、この情報は全国の食育研究者にも口コミで伝わり、ある掲示板(現在は削除されました。)にも、この出来事に関する情報が断片的に載りました。そういえば、そのころ知り合いの食育研究者は「あの役所はマクロビを応援してるのか!?」とカンカンに怒ってました。

その人が今どこで何をしてるかは知りませんが、一時昆虫食運動やビーガン運動にも関与していたらしいという噂もあります(あくまでも噂ですが)。このパンフを見てぞっとした知り合いが、遺伝の専門家さんに「日本人のアミラーゼ活性が高いのは、昔からお米を食べたことと、なにか関係あるんですか?」と確認したことがあります。その答えはもっともな内容でした。

「現代の日本人と欧米人のアミラーゼ活性を比較した結果を基に、『昔からお米を食べた結果だ』と説明するのは話が飛躍だ。その時点でもう科学者からは相手にされないよ。」と苦笑していたそうです。

続けて、「仮にそんな話が事実なら、パンやトウモロコシなどの穀類をたくさん食べる他の民族もアミラーゼ遺伝子が多いはずだ。欧米人もほんの100年以上前までは貴族や一部地域を除けば、穀類に依存していた地域も多い。日本人も、伝統的には、お米をたくさん食べていたのは裕福な人と都会の庶民。日本の農民の場合、長寿伝説のゆずりはら村に代表されるように、ほんの数十年前までは、雑穀や芋類を主食としていた地域がたくさんあり多くの現代日本人はその子孫である。そして日本人のアミラーゼ活性が高いということは、ヒエやアワや芋をたくさん食べていた人の子孫もアミラーゼ活性が高いのだから、つまり、お米と関係がない証拠だ。

祖先が大陸横断して日本にたどり着く直前に、ボトルネック効果などが原因で、すでに遺伝子が変わっていた可能性もおおいにありうる。だから、現代の遺伝子を比較しても食事が原因で遺伝子が変わったなんていう結論はだせないんだよ。」という答えだったそうです。(ボトルネック効果は、以前、このブログの「牛乳不要論は疑似科学」の回で詳しく紹介しています。)

高校で日本史をきちんと学んだ人なら分かると思うけど、この学者さんの方が筋が通ってますよね(遺伝子の変化が食と関係なくて単なる偶然やボトルネック効果で生じることは、このブログの乳糖不耐の記事にも書きましたのでご覧ください)。

番組の説が本当なら大発見なので、遺伝学の専門家が出てお話をして欲しいところです。番組の説があのパンフをそっくり同じくなぞっているのはどうしてなのでしょう。不気味な何かを感じるのですが。

あと、この番組では口の中で生じるのを間違ってブドウ糖としてましたがこれも痛い。アミラーゼ酵素がデンプンを分解して作るのはマルトース(麦芽糖)です。

(2)実験手続きの不備につきリジェクトしましょう。
クラッカーを食べて日本人が先に甘みを感じたという実験には、手続き上重要な欠陥があるのです。日本人の方が先に「甘みを感じる」と答えたのは、アミラーゼ遺伝子の数ではなく、甘みレセブターの数の違いや感度の違い、あるいは単なる文化の差の可能性が高いのです。

皆さんも輸入のお菓子を食べて気がつくと思いますが、欧米や東南アジアのお菓子は普通は激甘です。欧米の人や東南アジアの人は、少々の甘みでは満足できないのでお菓子に大量の砂糖などを加えています。口の中の甘みレセプターが少ないのかもしれませんし、子どもの頃から激甘のお菓子を食べていた影響で、少し甘いくらいでは甘いとは言わない文化なのかもしれません。

したがって、こういう実験をする場合は、最初に同じ濃度の麦芽糖液をなめてもらって、同じ感度で甘みを感じる人を集めて被験者にしなければなりません。同じ程度に甘みに敏感な人を集めて、クラッカーを噛んで、アミラーゼ遺伝子のコピー数が多い人の方が甘みを感じやすいのかどうかを比較するのが、正しい実験方法です。

(3)アミラーゼ遺伝子を持つ人は太りにくい説は?
35分目で「アミラーゼ遺伝子を持つ人は太りにくい。20パーセントインシュリン分泌量がでにくい、だから日本人はご飯をたべても太りにくい。日本人が長寿である原因の一つと考えられる。」と言うのですが、太りにくいのだから安心してスパゲティのお昼ご飯やハンバーガーのお昼ご飯やラーメンの夜食でもいいよね?日本人は太りにくいということとお米を食べろという話は全然関係がありません。

本当にインシュリン分泌量が少ないなら、血糖値が上昇している時間が長いということですので、そこへ糖質をたくさん取り入れたら糖尿病予備軍になりかねません。ですので、血糖値対策としては、デンプン質と一緒に脂質を取り入れるのがふさわしいです。パンや白米は油と一緒に食べるとGI値が激減するのです。バターを塗ったパンや油で炒めたピラフはGI値が低いんですよ。白米を茶碗に盛ったご飯ばかり毎日食べるよりは、スパゲティやピラフも血糖値対策に取り入れてみてはいかがでしょう。

そうそう、日本人は本当に太りにくいのですか?つい近年まで「日本人は代謝経路の酵素が欧米人と異なるため、太りやすい体質だから粗食をしなければならない」とあちこちのテレビ番組で言ってましたが、その「日本人は太りやすい体質だ」説はどこへ消えたのでしょう。

それから、日本人が長寿になったのは、お米の消費量が激減した昭和50年代以降のことです。お米をガンガン食べていた大正時代から昭和40年代初頭(ただし戦時中は除きます。)は、日本は寿命が短い国でした。日本人が長寿に変化した圧倒的理由は、小児期の死亡率が激減したことですので、アミラーゼ遺伝子が原因だという説が本当なら、日本人の中にもアミラーゼ遺伝子のコピー数が少ない人が大勢いるので、日本人の中で比較しなければなりません。そういう基本統計もなしに安易にこういうことを言うのは謹んで欲しいものです。

36分目で伊藤先生が、数千年で遺伝子は変わる、と。であれば番組前半の話は何だったのだろう。先生はさらに「いくらご飯を食べてもぜんぜんだいじょうぶ」と、個人的に発言しました。そして脈絡もなくチンパンジーのアミラーゼ遺伝子は2個だとぽつりと言いました。なにをほのめかしてるのかと不安になりました。次いで「アミラーゼ遺伝子が少ない人はよくかんで唾液を出してください」と言っているので、多くの平均的日本人はよく噛まなくていいってことになりますね。

38分目で「ご飯を食べて遺伝子を変えた」とナレーションが入ります。昭和初期にお米をもっと沢山食べるようになったとも説明されました。それならさっきの「3000年前からお米を沢山食べるようになった」という話から、「2900年間もの長い間、昭和初期よりも少ない量の米を食べていた」という意味になりますよ。昭和初期にオーバーな量の米を食べ始めた、ということになりますよ。従って、健康を考えれば昭和初期のようにたくさんお米を食べてはいけない、という意味になりますね?それに、雑穀や芋類や麦類を食べていた人々も日本にたくさんいた事実を無視してませんか。

○ラオスの少数民族のプロボテラ菌の話は。
39分目で舞台はラオスに移ります。
もち米を食べる村が紹介され。「肥満や生活習慣病の人はいません」と言いますが、それは運動してるからではありませんか。40分目で、検便と腸内細菌が紹介され、41分目で珍しい腸内細菌としてプロボテラ菌を紹介し、それがラオスの村人の腸内細菌の2割を占めていたと言います。この菌は短鎖脂肪酸を作るので肥満予防、動脈硬化予防になると紹介され、42分で、かつては日本人の腸内にも同じ菌が多かった可能性がありますと言うのですが、それは証明のしようがありません。山形県鶴岡で50人を集めて検便したらプロボテラ菌が「受け継がれていた」と主張するのですが、「受け継がれた」という言い方がすでに偏っています。古代の日本人の大多数には実はその菌はなくて、100年くらい前にその菌がたまたま日本海側の一部地域に来た可能性があります。しかも、現代の鶴岡の人が現代の生活をしてもこの菌がいる以上、お米の摂取量とプロボテラ菌の量が正比例してない証明になります。

ラオスのその少数民族はお米を食べすぎたために、糖質過剰で大勢の人が死んで、プロボテラ菌を持つ人のみが生き延びた可能性もあるので、現代日本人が無理矢理お米を沢山食べる理由はどこにもありません。いや、もっと深刻な問題があります。この番組を見たあなたがお米をドカ食いしても、あなたが生きている間にあなたのおなかにプロボテラ菌が住み着いて健康になるなんて誰も一言も言ってないのです。

43分目、腸内細菌のおかげで日本人は「ご飯に適した体への改造」を受けたとするが、それを言うなら、お米をたくさん食べられなかった北関東、四国、岩手など多くの地域の子孫はそんな改造を受けてないわけです。それに現代の日本人の大多数はプロボテラ菌を持ってないから、お米をたくさんたべちゃいけないという事になります。私たちは、現代の食事に適合する善玉菌を腸内で育てるほうがよほど健康に良いでしょう。

ラオスの人たちは餅米だから血糖値上昇はうるち米よりゆるやかです。日本人がラオスの人と同じほどのうるち米を食べたら、血糖値が上がりすぎて体を壊す恐れもあります。


47分目直前で伊藤先生が登場して、「脳は糖質が一番おいしいと感じる」とお話されるのですが、であれば果物おいしいですよね。その次先生は「ご飯はご飯、砂糖は砂糖、違うものである、ご飯やゆっくり消化されるものがよい。」と言いますが、バター付きパンやスパゲティもゆっくり消化されてGI値低いですよね。ここで言っている「ご飯」はまさかご飯論法のご飯ではないですよね。

○いよいよまとめ。
この番組は、「200万年前の祖先はデンプンを食べて賢くなったしデンプンをかみしめて甘みを感じて初めて食の喜びを知った」といい、米ではないデンプン(原論文からおそらく松の実)がくっついたネアンデルタール人の歯を紹介し、植物の根やどんぐりを古代日本人が食べていたと紹介し、小麦クラッカーを食べて甘みを感じる実験をし、ラオスの餅米を食べる少数民族を紹介しながら、番組の最後では白米を炊いた飯を勧めるのだから、論理が破綻しています。

番組終盤の48分目で「ぼくらの遺伝子が変わってしまう可能性がある」と語られます。うん、現代の食事は1980年ごろから40年続いて、その間日本人は史上最高の長寿を保ってるんだから、理想的な方向に遺伝子が変わっていくと思いました。

○もしかしたらこっちの方が重要な問題かも???

さて、科学とは別の角度に分析を切り替えます。映像のマジックが何度も登場している問題です。
例えば、45分目で、「50~50%の糖質をカロリーからとるのがよい、その量はご飯に換算して1日3杯に相当」とあたりさわりのない話がありましたが、そこへゲストが唐突に「それなのに、パンや麺などをたべてますよね?おいしいものを知っちゃった、脳がね。」。と言い、同時にテレビ画面にはドーナッツの写真が写ります。このシーンはあきらかにおかしいですよね。この番組は、この場面までに、パンや麺やドーナツが米より劣るとは一言も言ってなかったのです。ゲストの方は「疑うまでもなくパンや麺などを食べるのは悪い事だ」と信じていたのでしょうが、そういう思い込みでお話したのを、科学番組としてそのまま放映するのは奇妙です。

実は番組冒頭の3分目で、鋭い人はすぐ気がつきます。この番組はお米をテーマにしてるのに、タイトルは「ご飯」という、不思議な事実に。日本語では、ラーメン食べてもそばを食べてもスパゲティを食べても「ご飯を食べた」と言いますよね?そんなあいまいな言葉を、お米の良さを宣伝する番組のタイトルに選択しているのは、言葉の使い方に非常に厳しいNHKとしては異例です。

そこへたたみかけるように、ナビゲーターのTOKIOさんが、炊いた白米を指しながら口々に「ご飯」「ご飯」と連発し、直後に近江さんも「お米にはでんぷんが大量に含まれる」と1回だけ「米」と言った後、即座に「ご飯」「ご飯」と言い換えています。43分目でも腸内細菌によって日本人は「ご飯」が適切だと主張していますが、前後の文脈から、ラーメンやうどんの昼ご飯ではなく、白米飯を指している発言です。「ご飯と言えばお米であり、お米だけをご飯と呼んで欲しい。」と、視聴者に働きかけようとしてるように見えるのですが。もちろん、出演された方にもそんなつもりは全くなくて、台本にそう書いてあるからなんとなくそういっただけなんだろうと思いますが。

画面変わって、シアトルの「パレオダイエットの会」のパーティが映し出されます。「石器時代の食事」を再現する会ですが、料理パーティ会場を撮影してるのにふさわしくない、美味しくなさそうな映像なのでドキリとしました。画面には、色があまりおいしそうに撮影されてない肉が映し出され、登場人物も肉をかぶりつき、ナレーションは「肉、肉、肉」と語り、画面のテロップには大きな「肉、肉、肉」という文字、パーティのシンボルマークの「肉を手にした原始人の絵」が何度も画面にクローズアップされ、登場した男性は「原始時代は肉を食っていたんだよ」と吹き替えが入ります。
さてここでクイズです。「パレオダイエットって、何を食べること?」

「肉ばっかり、がっつり食べることでしょ?」と答えたあなた、はずれです。

番組中では詳しく説明されなかったのですが、パレオダイエットとは、原始時代に人類が食べていなかった食品を食べないことで、具体的には、「パン・米・砂糖・乳製品・ジャガイモ・スナック菓子などの加工食品を避け、代わりに野菜・果物・魚・卵・肉類をバランス良く食べましょう」という運動なのです。うそでしょうと思ったあなたは、海外のサイトをみてごらんなさい。セレブ達が「私はパレオダイエットでパンやジャンクフードを止めて野菜をたくさん食べてこんなに美ボディよ。」と、個人の感想を語る頁がたくさんありますよ。この事実を知ってもう一度同じ映像をスローモーションでじっくりと見れば、肉の隣にサラダボウルが一瞬映っていたり、遠方のテーブルには、野菜や果物と思われる皿があったり、サラダを食べる女性の姿が一瞬映っていることに気づきます。でも、カメラは肉ばっかりクローズアップしているので、野菜や果物が画面に出ていることには、ぼーとみてると気がつかないのです。しかもナレーションやテロップや吹き替えで「肉、肉、肉」と音声と目から意識づけられ、こでもかと「肉を手に持つ原始人の絵」がインサートされるため、視聴者の大多数は、「パレオダイエットとは肉ばかりやたらと食べることだ」と、思ってしまう映像になっています。

もしもパレオダイエットを正確に日本に紹介したいのであれば、こういう撮影とナレーション、テロップになるはずがありません。だからここには明確な意図があると考えた方がいいでしょう。しかも登場した男性の、「原始時代は肉を食ってたんだよ」、という声の直後にナレーションが「この定説を覆す」と、ばっさり男性の発言を切り捨てたので、男性がかわいそうで痛々しくなりました。前回、このブログに書いた通り、原始時代に肉ばっかり食べていたネアンデルタール人の遺跡も発掘されてるのですから、この男性の言うことも一面では事実なのですよ。この男性もこういう演出がなされるって事前に知ってたら、出演依頼を拒否したでしょうね。

このほかにも、この番組では、寿司などお米を食べるシーンにはいい印象を与える明るい画面構成をして、逆に洋風の食品を食べるシーンでは台詞か画像が良くない印象を与えるものになってます。

例えば、番組開始40秒目に、「食べ過ぎ」は肥満や糖尿病などになるというナレーションに、日本で普通に売られてる普通サイズのハンバーガー(またはアイスクリーム)を白人が一個食べるシーンが登場しますが、薄暗くて寂しげ・わびしげな絵作りをしています。
ここは、番組の意図を紹介するシーケンスなので、これをナレーションと映像とテロップの3つに分解して、詳しく説明しましょう。

まず「食べものは人を幸せにする」というナレーションが入り、アジア人(たぶん日本人)が寿司や焼き鳥を食べる映像が明るく鮮やかに映ります。次に、地中海式食事の典型例のピザを食べる人物が色鮮やかに映りますが、太った白人男女を写しだし、太る食品のようなイメージがかもしだされます。そこに、「でも気をつけないと」というナレーションが入ります。その瞬間に、普通サイズのハンバーガーを食べる肥満白人女性が映り、「肥満や糖尿病」というナレーションとともに、画面の色味が急に暗くて寂しく変化します。そしてただちに、白人男性が普通サイズのハンバーガーを1個食べながら、電話をする映像が映されます。

そこへさらに「心臓病にガン」というナレーションがあり、画面には、円錐形のアイスクリームコーン(長さ7~8センチ、直径3~4センチ程度)を食べる白人男性が映ります。この男性の映像の上に、巨大なテロップが「糖尿病、心臓病、肥満、ガン」と刻印されます。このテロップが残存したままで、「命を縮めることに」というナレーションが、フォークで何かを食べる白人女性の映像に重ねられます。その直後、テロップがさっと消えます。「私たちは何を、どう食べればいい?」という、気持ちを切り替えるナレーションが入り、そこには東欧系と思われる老人が雑穀のような物を食べている映像と、日本人と思われる人影がアパートの一室で弁当らしきものを正座で食べている映像が当てられます。この人影の背後の窓越しには、明るい町並みが見えます。こうして一連のシーケンスが終わります。

・・・こうしたナレーションと画面によって視聴者の潜在意識には、「肥満や心臓病、糖尿病、ガンなどの原因は白人の好きなハンバーガーやアイスクリームやフォークで食べる洋食などであり、これらは平凡な量で命を縮めることになるのか。」とすり込まれる可能性が高いと言えるでしょう。悪気はなくて、たまたま偶然こんな映像とテロップとナレーションになってしまったのかもしれませんが、北欧圏でメディアリテラシー教育を受けた人ならすぐに「これは科学番組ではなくプロパガンダ番組特有の演出ではありませんか」と言い出しかねないなあ。こういう映像は、白人をおとしめているようで適切とは思えないのですが、いかがなものでしょう。

テレビ番組は、作り手の心の奥底の熱い気持ちがついつい画面ににじみ出ちゃうのよね。だから、お米を食べて欲しいばかりに奇妙な映像になっただけだと信じたいのです。でも問題は、なぜ、お米を食べない人は「残念な人」「命を縮める人」扱いをされるのでしょう。個人的思い?忖度をしなければならない何かの力学?食養会復興運動に近いポジションのパンフと同じ論法が登場したのは何故?そういえば、和食の健康性について懐疑的な研究をしようとすると科研費がつかないという噂は本当?

重い「何か」が見え隠れするので、これ以上私はこの問題には踏み込めません。過去のブログで食養会について、いくつか指摘をしてます。つなぎ合わせればある構図が見えてくることでしょう。読者の方々に宿題として考えて欲しいです。

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