YAMAHA FG-180 ライトグリーンラベルです。国産ギター(スティール弦)の最初期に製作された、伝説のジャパンビンテージギターです。1966年10月に発売され、1972年に販売を中止するまでの、わずか6年間しか製作されませんでした。FG-180には、生産年代で大きく分けると、ライトグリーンラベル期と赤ラベル期があります。サウンドホール内のラベルの色のことです。ライトグリーンラベルは、最初期の1967年4月までに製作された個体に付けられています。発売からわずか半年の間に製作された個体にしかライトグリーンラベルは付けられていません。個体数としては、FG-180全体の1~2%だそうです。ライトグリーンラベルから赤ラベルへの変更理由は、ライトグリーンラベルが無くなったからという、何とも単純な理由だそうです。
このギターが、そんな由緒正しいギターとはつゆ知らず、何と、実家の地下室に何年もの間埃にまみれて眠っていたのでした。元々は、自分の母が、結婚前に購入したものだそうです。結構高級機種を買ったというイメージだったそうです。当時の販売価格は18000円だったそうですが、現在の物価に換算すると90000円程度でしょうか。あまりギターを弾かない母にしてみれば、それなりに奮発したということなのでしょう。結婚後は、主に父が弾いていました。親も年を取り、誰も本機を弾くことが無くなったので、自分が譲り受けました。
↑ 反対側から撮影してみました。このFG-180ですが、弾いてみると、激鳴りです。近所迷惑なくらいのデカい音で鳴ります。合板仕様なので、音はデカいですが、単板のような繊細な鳴りではありません。ただし、音のデカさは半端ではありません。僕が所有しているハミングバードよりも音自体はデカいです。勿論、オール単板のハミングバードのような繊細な鳴りはありませんが、パッキンパッキンの鳴りで、ガンガン前に音が出る感じは、固定ファンがいるというのも頷けます。ストロークでガンガン押すタイプのプレイヤーなら、かなり良い感じで鳴らすことが出来るでしょう。自分もどちらかと言えば、ストロークでガンガン弾くタイプなので、本機と相性が良いかもしれません。
本機は、色々調べたところ、ライトグリーンラベル期の後期型のようです。1966年11月頃から1967年4月頃までに製作された個体のようです。シリアルナンバーは562237です。ライトグリーンラベルの最初期には、単板仕様の個体が数十本だけ製作されたようですが、ほとんど市場に出回らず、都市伝説のようになっています。しかし、実際に存在するようです。勿論、同じ値段で単板と合板の仕様を発売したら、合板を買った客は怒ります。そのためにシリアルナンバー無しの、プロトタイプというか、先行量産型というか、そんな感じの扱いになっていたそうです。
単板の個体は全てプロの手に渡ったという説もあるようですが、プロに渡ったのであれば、ある程度はファンの知るところになるでしょうし、YAMAHAとしても宣伝して欲しいと思うでしょうから、そうした状況が無いということは、少なくとも有名なプロの手に渡ったという感じではなさそうです。無名のプロ、例えばスタジオミュージシャン等の手に渡った可能性はあるかもしれませんが、その辺りの経緯は、良く分かっていないようです。
現在では、一部のマニアが単板の個体を押さえているか、あまり詳しくない人が単板とは知らずに所有しているかのどちらかでしょうね。いずれにしても市場に出回る可能性は低そうです。そうした状況から、単板の個体の存在が、都市伝説化したのかもしれませんね。
↑ 母が結婚前に購入し、結婚後は主に父が弾いていたギターです。年季が入っていますが、それなりに弾き込まれているので、鳴りはばっちりです。まぁ、製造から50年近く経つギターですから、歴戦の傷があります。かなりメンテナンスを施さないとベストコンディションにはなりません。
トップ材はスプルースですが、飴色に変色して、貫録があります。いかにもビンテージギターです。
↑ ライトグリーンラベルです。市場では、10万以上の値が付くこともあります。現在は大分値段も落ち着いたようですが、一時期は20万越えの個体もあったようです。その時期に価値を知っていたら売ったでしょうか...否、家族の歴史を刻んだギターですから、プライスレスです。今後も売りに出すことは無いでしょう。大事にしたいと思います。
と言いつつ、実は前に一度、本機の値段を調べたことがあります。その際には、18000円を提示されました。店の人もあまりよく分かっていなかったのか、こっちが分かっていないと思われて、足元見られたのか分かりませんが、とにかくその価格を提示されました。その上で、売るよりも、大切にした方が良いと言われました。
何故査定することになったのかと言いますと、TVのお宝鑑定団でFG-180が取り上げられたことがあり、実家の親が観ていました。その際に、70万という高値が付いたそうで、親も急いで本機のラベルを確認したようです。本機がFG-180だと分かると、このギターの価値が知りたくなり、自分が親の依頼を受けて、店に持ち込んで査定してもらったという経緯です。高値で売れるようなら、本機を売却して、マーチンのD-28辺りを代わりに購入しようかという、皮算用をしたようですが、残念な結果に終わりました。店の人に、TVで70万という値が付いていたと言ったら、それは単板仕様の場合で、本機は合板仕様なので18000円だと、あっさり言われました。合板仕様でも、もうチョイ上乗せしても良いように思いますけどね。まぁ、その時に売らなくて良かったです。
この一件があるまでは、本機が伝説のFG-180であるということさえも意識していませんでした。ただのYAMAHAのおんぼろギターという扱いをしていました。本機の出自が分かったのは、そんな偶然からなのです。もしかすると、我が家のように、FG-180の事を全く知らずに所有している人もいるかもしれませんね。そんなこんなで、今後は売りに出さずに、大切にしていこうかという感じです。
↑ サウンドホールを別角度から。ジャパンビンテージの最高峰と謳われるギターです。合板ですが、これだけの鳴りを引き出せるとは、YAMAHAの技術は素晴らしいです。当時の職人の心意気を感じます。
↑ ブリッジの様子です。ブリッジピンはオリジナルのままです。サドルはプラスティック製のものに交換してあります。
先述の査定の際に自分がしばらく預かっていましたが、その当時既にほとんど弾かれておらず、状態も悪くなっていたので、自分なりに少しメンテナンスを施しました。ブリッジサドルは、父か母が、弦高を低くしようとして、サドルを削り過ぎたようで、オリジナルのサドルは、下に銀紙を敷いた状態で使用していました。そのため、汎用品のサドルを買って来て、自分でやすりをかけて、新しく製作しました。その時の物が付いています。弦高は、やや低めに設定してあります。非常に弾き易く良い感じです。ただし、プラスティックサドルの音はチープなので、いずれ牛骨の物に交換したいと思います。
残念ながら、サドルのオリジナルパーツは不明です。と言うか、僕が無くしちゃった感じです。まぁ、ハードケースも行方不明になっていますので、今更オリジナルに拘るよりも、より良い状態にしてあげた方がギターにとっても良いかもしれません。
↑ ピックガードが剥がれかかっています。10年前には剥がれていませんでしたので、地下室に眠っている間に湿気等で剥がれてしまったのかもしれません。修理が必要ですね。ボディーの方にあまりダメージが無くて良かったです。
↑ 指板の様子です。フレットは少し擦り減っておりますが、演奏に支障はありません。快適に使用するためには、フレットの擦り合せをした方が良いかもしれません。それ以外は、ネックの状態もベストコンディションです。50歳近い年齢を感じさせない良い状態のネックです。
スケールは、当時の資料が見つからなかったので、良く分かりませんが、FG-180の復刻版であるThe FGが634mmであることや、ハミングバードやJ-45と弾き比べた際に、スケールの違いでの違和感は無かったことから、634mm前後である可能性が高いように思います。少なくともミディアムスケールではあると思います。
↑ ヘッドです。YAMAHAのロゴは平体(エクステンド)と呼ばれる字体です。文字の間隔が狭い、ナロータイプです。ライトグリーンラベル期の後期モデルである証です。
トラスロッドカバーは釣鐘型と呼ばれるタイプです。一度も開けたことはありません。ネックの状態はベストコンディションなので、トラスロッドを調整する必要は無いです。この状態で50年近く年月が経過している訳ですから、木材も完全に安定化しており、今後もトラスロッドの調整は必要無いでしょう。
↑ ナットの様子です。ナットは、父か母のどちらかが削ったようです。1弦、2弦、3弦が低くなり過ぎています。薬のプラスティックパッケージを小さく切って、弦とナットの間に挟んで、弦高を調整しました。一時的にはこれで凌げますが、やはりベストの状態にするためにはナットの交換が必要でしょう。
↑ ヘッドを縦にして写真を撮りました。年季の入ったヘッドです。貫録十分ですね。
↑ YAMAHAのロゴです。平体(エクステンド)で文字の間隔が狭いナロータイプのロゴです。先にも述べましたが、このロゴから、この個体がライトグリーンラベル期の後期生産であることが分かります。1966年10月から11月までの僅か1カ月間だけ生産された最初期型は、平体ロゴですが、文字の間隔が少しだけ開いているそうです。1966年の11月にこのナロータイプのロゴに変更されるのですが、ロゴの型紙が破損したとか、最初期の型紙が使い難かったので改良したとか、そんな感じだったのでしょうかね?そうでもない限り、僅か1カ月で、ある意味ギターの顔とも言えるヘッドのロゴを変更するメリットが無いですからね。
↑ ヘッドの裏側です。ペグはオリジナルペグです。ギア比は15:1だそうです。グローヴァーのロトマチックが13:1なので、結構高精度狙ったのですね。単純な構造のペグなので、操作感は正直チープです。3弦用のペグのネジが取れてしまったようで、付け替えてあります。多分父の手によるものだと思いますが、ネジ穴も広がってしまっており、固定出来ていません。ここも要修理ですね。
今回譲り受けた直後は、ペグがさび付いており、チューニングが非常に大変でした。力いっぱい回さないといけない状態でした。軽く油を差してあげたら、スムーズに動くようになりました。
↑ 裏側の様子です。マホガニーの合板のようです。鈍く光って、裏側もかなり貫録が出ています。
↑ ボディー裏を反対側から撮影してみました。くすんで鈍い光を発しています。小傷も良い具合にあり、貫録十分です。
↑ ネックの裏側です。ハミングバードやJ-45と比べると、やや太めのネックですが、握り難いということはありません。50年近い年月を経たネックですが、全く反っていないのが驚異的です。
↑ エンドピンです。ネットで調べたところ、カバの木で出来ているようです。ライトグリーンラベル期の特徴だそうです。赤ラベル期には、プラスティック製のエンドピンに仕様変更されます。カバの木製であるところが趣深いです。
こうして見ると、結構ボディーの厚みがあります。あのデカい音は、こうした構造によるものなのでしょうか。
↑ 立てかけてみました。マーティンを徹底的に研究して開発されたギターですが、完全にオリジナルデザインになっています。職人の心意気を感じる部分です。単なるコピーではなく、YAMAHAブランドを印象付けるオリジナルデザインにしたことで、現在のYAMAHAの地位を確固たるものにしたのでしょう。
↑ 立てかけて全体像を写真に撮りました。なかなか格好良いデザインだと思います。日本人のためのギターですが、マーティンのドレッドノートよりも厚みのあるボディーだそうです。抱えやすさよりもサウンドを重視した結果でしょうか。個人的には、抱え難いという程ではありません。
YAMAHAのFG-180ですが、ジャパンビンテージの最高峰として、銘機の名を欲しいままにしていますが、弾いてみると、それも頷けます。当時の職人たちは、世界にYAMAHAのギターを売り出そうという壮大な思いを抱いて、このギターを開発したのでしょう。コストの問題で、オール合板に格下げされてしまいましたが、合板には合板の良さがあると言わんばかりのサウンドに仕上がっています。
本機を元にした、復刻版とも言えるThe FGにも興味が湧いて来ました。何となく、YAMAHAはありふれているし、初心者用のモデルが多いイメージなので、最近は敬遠していましたが、アリかもしれません。初心者の頃には、僕もYAMAHAのDRシリーズやFSシリーズを所有していました。現在は手放してしまいましたが、日本人ギタリストの大多数が、僕のように、一度はYAMAHAを手にした事があると思います。そう考えると、その原点である本機を所有出来ることは、大変に光栄なことです。大切にしていきます。