ポン助の迷走日記

30歳目前・無職から、まあ何とかなるでしょうという日々を綴ったブログ。実際、何とかなりかけている。

<簿記バカ一代 第四話 簿記はこづかい帳?>

2004年12月28日 | 簿記バカ一代
<簿記バカ一代>
<第四話 簿記はこづかい帳?>

電卓を手に入れたバカ夫は七五三太にも聞いてみた。

「お前は簿記を知ってるのか?」
「まあ、知ってますけど」

七五三太はひびの入った電卓の液晶画面を指で撫でながら答えた。

「簿記って何だ?」
「何だと言われると困っちゃうんですけど・・・・・・」
「教えてくれ、頼む」

バカ夫に頼むと言われた七五三太は急にテンションが上がった。
この男は意外とタフかもしれない。

「い、いや~、そ、そんなよく知ってるわけではないんですけど、
 わかりました!お答えしましょう。

 簿記とはですね、13世紀のヨーロッパで確立されたと言われています」

「あ?」

「そもそもですね、簿記とは帳簿記入を略して
 簿記と言うようになったという説と、
 英語のブックキーピングが次第になまって簿記となった説があります」

「・・・・・・」

「すなわち、ぶっきーぴん・・・ぶっきーぴん・・・
 ぶぉっきーぴん・・・ぶぉっきーぴん・・・ぼっきーぴん・・・
 ぼっきーぴ、ぼっ・・・・・・あっふ~ん!」

バカ夫は七五三太を殴りたくなったので殴った。

(簿記・・・・・・。今、バカ夫様は簿記とおっしゃいましたわね・・・・・・。

 びんぼったらしく電卓叩いて、
 みみっちく数字を書いていく簿記なんかに
 バカ夫様が興味があるとは意外ですわね・・・・・・。

 これは、あのアホ兄様の出番かもしれませんわよ・・・・・・)

その騒ぎを聞いて、彩子は1人考えを巡らせていた。

「おら~!おまえら席につけ~!」

20代半ばの女教師が教室に入ってきた。
なかなかの美人であるが、昔はワルかった事がオーラで分かる。

生徒たちはごたごた続きで疲れているのか、
特に反発する者もなく席に着いた。

「あー、このクラスの担任になった宮下だ。
 まずは入学おめでとう。

 短い奴は1ヶ月でさよならかもしれんが、
 できれば1年間はお前達の面倒をみたいと思っている。
 よろしく頼む。

 で、早速だが学校側からの注意事項がある」

宮下は淡々と話していった。
しかし、注意事項・禁止事項という言葉には敏感な連中である。
何人かはあからさまに宮下を睨んだ。

「殺人とレイプは禁止。以上だ」

宮下は生徒達を見据えて言った。
睨んでいた者達もぽかんと口を開ける。
第一ラウンドは宮下の勝利といったところか。

「すんませ~ん、遅刻しました~・・・・・・
 って、ナニ?この空気?」

静まり返ったクラスに1人の生徒が入ってきた。
飄々とした感じの男子生徒で、
他の生徒達と比べると少し大人びた様子が窺える。

「タカハシ、3回目の1年生なんだから遅刻せずに来い」
「ちょ、いきなりばらさなくても。
 ダブリっていじめられちゃうじゃん」
「そしたら、相談に来い。退学届を代筆してやる」
「ひでぇ」
「いいから席に着け、お前と話していると気が抜ける」
「はいはい」

タカハシは空いている席に座った。
そこはバカ夫の隣の席だった。

「この後、入学式がある。
 20分ほど時間があるから適当に時間を潰していろ。

 私からの連絡は以上だ」

宮下はそれだけ告げると教卓を降りたが、
何かを思い出したように、再び生徒達の方を向いた。

「そうそう、平等院はいるか?」
「あ、はい、私ですけど」
「SPが入ると聞いていたがどうした?」

教室中の注意が2人に向いた。

「ええ、やはり学園生活にはふさわしくないかと思いまして
 早々に帰らせましたわ」
「そうか、まあそれがいいだろうな。
 絡まれたりはしなかったか?」
「ええ、皆さんとてもよくして下さいましたわ」
「それは頼もしいことだ。困った事があったら相談に来い」
「退学届を書いて下さるのかしら?」
「ははっ、いらぬ気遣いだったか。結構、結構」

宮下は教室を出ていった。

「きっぷのいい先生だったねえ」
「ああ」

リサが古い言葉を使って、バカ夫に話しかけてきた。
バカ夫はフィーリングでその意味を理解した。

「何だ、殺人とレイプって今年も言ったのか?」

タカハシが話に入ってきた。

「今年も、って?」

リサが聞き返す。

「あれな、あの先生の手なんだよ。
 最初にガツンと一発くらわせるってやつ。

 俺、去年も一昨年も聞いたもん」

「詳しいな、ダブリ」

バカ夫が突っ込む。

「お、ご挨拶だな新入生。先輩に向かって」
「同級生だろ」
「くそ、痛いところをって、
 ・・・・・・あれ、お前バカ夫じゃねーの?」
「ああ」
「うわ、まじかよ。
 お前やくざの事務所行くって決めてたのに
 弁護士になるっつってケジメに指1本落としてきたって噂だぞ」

「指はある。事務所に行くなんて話はねえ。
 あと弁護士じゃねえ。公認会計士だ」
「ほえ~、公認会計士。
 札付きのワルからそんな言葉が出てくるとは思わなかった。

 それで、その気合の入った電卓って訳か」

タカハシは机の上に出したままのドイツ製電卓を指差して言った。

「そういうことだ」

バカ夫は何の後ろめたさもなく答えた。

「ねえねえ、あたしもこいつも公認会計士って
 何だか分からないんだけど、あんた知ってるの?」

リサがタカハシに聞いた。

「はあ?あんた・・・・・・えーと、名前は?」
「リサ」
「リサちゃんが分からないのはいいとしてもさ、
 なんで当の本人が知らないわけ?」
「うるせえ。そのうち分かる」

タカハシは額に手を当て天を仰いだ。
同じ事をメガネがやったら殴られていたことだろう。

「なんで、分からないものを目指せるかな。
 じゃああれか?簿記がすげえ得意だとかそういうのか?」
「・・・・・・」
「バカ夫、簿記が何かも知らないんだよ」
「・・・・・・底抜けのバカだな」
「うるせえ、知ってるなら教えろ。
 簿記って何だ?」

タカハシはため息をついた。

「バカ夫君、教えてあげてもいいが、
 君の態度は人にものを教わる態度かね?」
「・・・・・・」
「それなりのいい方ってものがあるんじゃないのかな?」

バカ夫はメガネに感じるものとは違う種類の苛立ちを覚えた。

「・・・・・・本当に知ってるのか」
「当然だ」
「知ってるなら頼む。教えてくれ」

バカ夫は真剣な目で頼んだ。

「・・・・・・あら、なんだマジかよ。しょうがねーなー。

 別に難しい事じゃないだろ。
 簿記はこづかい帳とおんなじだ」

「こづかい帳?」

「そう、かあちゃんから1,000円貰いました。
 通りすがりの人から5,000円貰いました。
 煙草を1箱買いました。ビールを3本買いました。

 そういう金の流れを記録していくのが簿記だ。
 難しくないだろ?」

「そんな簡単なものなのか?
 じゃあ、俺が100円貰ったって書いたら
 それが簿記なのか?」

「そういう事だ。
 お前は既に簿記マスターという訳だな」

「何でそんな簡単な事を誰も知らないんだ?」

「簿記は会社の金を計算するものだと思ってるからさ。
 簿記が難しいんじゃない。
 会社のやり取りする金の流れが面倒なだけだ。
 それに合わせて簿記も難しい顔をしているって訳さ」

「そうなのか・・・・・・」

バカ夫が求めていた簿記とは何かという問に
ようやくひとつの答が示された。

「簿記はこづかい帳」

大幅に簡略化されているが、
これこそバカ夫が知りたかった事だ。

「まあ、実際はいろいろ決まりがあるけどな。
 お前の知りたかったのはそういう事だろ?」

「ああ!これでまた公認会計士に近づいたぜ!」
「道のりは遠いぞ」
「大丈夫だ!何とかなる!
 簿記が何かだって分かったじゃねえか!」

タカハシは軽く笑った。
その顔は何故だか少し淋しそうに見えた。

「ま、頑張ってくれよ。
 うっかりマジメに答えちまったぜ。
 あー、恥ずかし、恥ずかし」

おちゃらけるタカハシは、さっきまでのタカハシに戻っていた。

「なんかバカだと思ってたけど、タカハシって頭いいの?」
「そういう感想が欲しかったんだよ、リサちゃん」
「3回目の1年生なのに」
「・・・・・・まあ、そういうオチだと思ってたけどね」

いつの間にかこの3人が打ち解けていた。

(あのダフリ野郎・・・・・・。

 私が勉強して、明日やろうと思っていた事を
 横取りしやがって!・・・・・・ですわ。

 タカハシ、あなたは私の敵と認定されましたわ。
 見てらっしゃい。
 あの下品女ともども、いずれギャフンと言わせてやりますわよ。

 オホホホホホ・・・・・・)

 タカハシは思わぬところで彩子の恨みをかったようである。

「おーい、入学式が始まるぞ。全員、体育館に集まれ」 

宮下が生徒達に声をかけた。


1日が長いなあ。スラムダンクかよ。
みたいな感じで進んでいく簿記バカ一代。

終わるのか?というより、続くのか?
バカ夫を待ち受ける運命やいかに?

<次回予告>
入学式で生徒代表挨拶に立ったのは「3級の帝」であった。
そこで彼は簿記の素晴らしさを滔滔と語るのだが・・・・・・。

次回、簿記バカ一代、第5話「お前達は何故ここにいる?」