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『ゲキxシネ五右衛門ロック』『The Musical AIDA』など、ミュージカルの話題作に出演の青山航士さんについて。

『マイケル・コリンズ』-IRAが生まれたのは

2006-02-09 | ビューティフル・ゲーム
 『ビューティフル・ゲーム』の少年達のお祖父さんの時代を描いた、ニール・ジョーダン監督の『マイケル・コリンズ』を見ました。『シンドラーのリスト』主演のリーアム・ニーソンが、現在のアイルランドの礎を築いたマイケル・コリンズを演じたこの作品は、96年のヴェネツィア映画祭金獅子賞を受賞しています。
 
 極東の島国ではわかりにくいアイルランド問題ですが、この映画では、アイルランド国境が現在の形になった、そのいきさつと、どうして少年が殺人をおかすほどの争いが続けられているのかがとてもよくわかりました。
 
 1916年、長年続いたイギリスの差別的な支配に、普通に街で暮らしている市民がありあわせの武器で抵抗したことに対し、イギリス政府は情け容赦ない射殺をもって報復しました。あまりの惨さに、一般市民の独立への想いがかつてなく高まった折、20代の青年であったコリンズが、現在IRAと呼ばれている組織の母体となった市民軍のリーダーとなり、ゲリラ戦法でイギリス側の要人を次々と暗殺、1919年には独立戦争がおきます。

 アイルランド側の激しい抵抗に、イギリスは休戦宣言し、コリンズを代表とするアイルランドとの講和条約を結びますが、このとき、『ビューティフル・ゲーム』の舞台となるベルファストの街を含む北アイルランド6州はイギリスに属する形になり、南アイルランド26州と分断されてしまうのです。
 
 北アイルランドは、現在もイギリスへの帰属を望むプロテスタントが多く居住する地域なのだそうです。理想どおりではないにせよ、カトリック教徒が圧倒的多数の南だけでも、とアイルランドの自由・独立への一歩としてコリンズは条約にサインしますが、北アイルランドが独立できないこの条約をコリンズは「私の死刑宣告書だ」と言ったともいわれています。

 さらに、北と南に国が分けられるのでは「独立」とはいえない、と今度はアイルランド人の間で意見が分かれ、同じ国の人間同士で闘う、内戦が起きてしまいます。その結果、コリンズは内戦の収拾に努めながらも、22年、同じアイルランド人に暗殺されるのです。こうした独立を目指す者のなかでの分裂、さらに英国帰属派(プロテスタント)と独立派(カトリック)の対立が引き起こす「内戦」は、『ビューティフル・ゲーム』の時代も今も、断続的に悲劇の歴史を刻んでいる・・・ということのようです。

 『ビューティフル・ゲーム』は69年のベルファストが舞台、ということですが、この年8月、英国帰属派(プロテスタント)の暴徒がアイルランド独立派(カトリック)が居住する区域を侵略し、住宅から発砲によって住民を追い出す事件が起きました。これはイギリス発の情報ではTroublesと呼ばれているようですが、アイルランド発の情報ではPogroms(虐殺)と呼ばれていることをとっても、溝は深いという気がします。

 A.L.ウェバーは、特定の誰かを描いたのではなく、「北アイルランドで起きたこと」にインスパイアされ『ビューティフル・ゲーム』を書いたと語っています。そして少年達の潜在的な力が、Troublesによって、常軌を逸した行動として現れてしまう、その悲劇を、そしてそれが、生きることの肯定とともに、98年4月ベルファストで結ばれた、憲法改正とともに政治犯の釈放・武装解除を宣言する"Good Friday Agreement"によって終わることを描きたかった、と『ビューティフル・ゲーム』初演に際して語っていたそうです。

 でもそれがこの長い悲劇の「終わり」でなかったために、今もこのミュージカル界の巨匠はブロードウェイでこの作品の上演を望んでいるのだという気がしました。その作品に日本で触れられるのだから、もう少し耳を澄ましていようと思います。知らないことばかりで溜息の連続、なんですが・・・。


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