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『ゲキxシネ五右衛門ロック』『The Musical AIDA』など、ミュージカルの話題作に出演の青山航士さんについて。

桜と『ビューティフル・ゲーム』

2006-04-15 | ビューティフル・ゲーム
 今年の大阪は4月になってからも肌寒い日が続いたので、桜がまだ咲いていて、小雨ふるなか今日も殆どの花は残りました。例年になく長い開花で、桜の木は、風や雨で花を散らしはしても、一本の木としては最後の花が咲くまで散るのを待っている、と知り合いの方が教えてくれたことを思い出します。パッと咲いてパッと散るのは気候がよく、どの花も順調に生育した場合だけなのだそうです。
 
 不幸なめぐり合わせですが、『ビューティフルゲーム』東京公演中に、20年ものあいだ英国のスパイだったシン・フェイン党の元幹部が惨殺され、この問題がいまも過去のものでないことを思い知りました。IRAの武装解除宣言、英国-アイルランド間の和平プロセスの進行など、ついに長い悲劇が終わるのかと、最後の花が咲くのをじっと待っていた木が切り倒されてしまったような気がしてしまいます。
 ウェバーもベン・エルトンもこんな形で『ビューティフルゲーム』という作品の重要性を知らしめることになったのは遺憾なのではないでしょうか。作品中ではトーマスがスパイであると知りながら、ジョンにはかつての友人を撃つことが出来ませんでした。今回、現実となったスパイへの情け容赦ない報復は、極東の島国でこの物語が「ミュージカル」として表現される際に、ライトの当たらないところに寄せておかれた事実が悲鳴を上げたようにも思えました。
 ただ、私を含め、いまは戦争のない遠い国の住人である日本の観客も、「決勝戦」のシーンに、エネルギー溢れる肢体の美しさ、輝くような生命力を感じたことで、その全てを無にしてしまう「殺戮」を否定する気持ちも知らず知らずのうちに強くなっているのではないか、と思います。あのシーンが力強く「美しい戦い」であればあるほど、銃で人を痛めつける武力闘争の虚しさ、法で人を貶めることの愚かさがよくわかります。
 ロンドン、ベルギーに続いて上演されたこの『ビューティフルゲーム』という作品は、いったん幕を下ろしても、観客のひとりひとりが平和を望むことを、桜の木が最後の花を待つようにじっと待っているような気がしてなりません。今日は東京千穐楽でした。出演者、スタッフの皆様、本当にお疲れ様でした。

 追記:So-net blogとあわせた閲覧数が、12日に80000pvを越えました。ご覧くださる皆さん、本当に有難うございます。    


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