『笛物語』

音楽、フルート、奏法の気付き
    そして
  日々の出来事など

フルート奏者・白川真理

「こんまり」気分で

2022-12-07 02:19:47 | アンティーク
先月のことになりますが、母方の従姉Kちゃんから久々に連絡をもらいました。

年内に長年住んだ目黒から引っ越すとのこと。

きっかけは、今まで暮らしていた家の大家さんが亡くなって、相続等の問題から、そこを出なくてはならなくなったから。

さらにはパートナーのTさんが「海が見たい!」と言いだして、それもいいねえ、と海の側に転居するため、ずっと探していたのだけれど、神奈川県の海の近くの小さな町に良い家を見つけて、そこに引っ越すことになったとのこと。

Kちゃん、と呼んでいるけれど、二人共、もう70代。
Tさんは後期高齢者になったばかり。
この年齢で、これから引っ越し、というのも相変わらずエネルギッシュで凄い。

kちゃんは画家の田島和子。
カフェやリビングに飾れるような絵ではなく、社会派を貫いている。
http://maler.wasedabook.com/01/01.html

Tさんは、田島伸二。ずっとユネスコで、アジアの恵まれない子供たちの識字教育等に尽力してきた。自然環境保護の問題提起も昔からしていて、関係する絵本も何冊も出し、世界20か国で翻訳されている。

https://www.fesco.or.jp/winner/h18/204.php

2人は昔、

「まあ、茶碗ひとつあれば、なんとかなるもんだよ~」

と暮らしていたイスラマバードから帰国した折に言っていた。
「施し」の文化が自然に根付いていて、茶碗を差し出せば、誰かしらが食べ物を入れてくれるのだそう。

昔から二人に会うたびに、話をするたびに、視野の広さと深さに圧倒され、自分には到底できないなあ、と思うことばかりで、「何故音楽か、フルートか?」「自分と他者」に関して改めて考えさせられてしまっていた。

でも、人それぞれの器の問題でもあり、こればかりはしょうがない。

私はその茶碗のデザインや質感にもこだわるし、色々なものが欲しいし、と物欲優先だし、ましてや茶わんを差し出して、なんて想像もつかない。

もちろん、彼等がそうしていた訳ではないけれど、多分いざとなったら自然にそれが出来るのだろうなと思う。

新たな家の持ち主だった高齢女性は、契約した時はお元気だったのに、その後急に亡くなってしまい、未婚で跡継ぎもいなかったため、こちらもまた相続の関係で色々あったらしい。

ようやく遠くに住む親戚が相続し、その方との交渉の末、「家じまい」をするのが大変だし、もし良かったら使えるものも色々あると思うので、使えるものは使って、他はそちらで処分してくれないか、その分おまけするから、という展開になったそう。

私が骨董や着物好きなのを知っている和子ちゃんは、

「家自体は30年前くらいのもので、古民家じゃないけれど、前の持ち主は鎌倉の地主の家のお嬢さんだったので、多分真理の好きなものが色々あると思うよ。良かったら着物とか、器とか持っていかない?リサイクル業者を呼ぶ前に、もし欲しい物あったらあげるから一度見においでよ!」
とのお誘い。

もちろん二つ返事で出かけました。

駅から徒歩5分くらいの場所で、海も山も近く、何より駅周辺に銀行、郵便局、病院、お店、と全てがコンパクトにまとまっていて、徒歩で全て済むというのが素晴らしい。
私も笛が吹けなくなってリタイアしたら、こういうのも良いかも?とちょっと思う。

そして家の中は・・・

想像していた以上に素晴らしかった!

田島さんが「こんなの捨てちゃいなよ」と言っていたのは、なんと山葡萄の籠。
それがデザイン違いで5つもゴロゴロ。

「捨てちゃだめです!」

和子ちゃんは「籠は好きなので、使おうと思ってとってあるの。これ、アケビか何か?」

和子ちゃんのお母さん、つまり私の母の姉のS子おばちゃんは、とてもお洒落さんで、スラっとしていて駅前商店街では、近所に住んでいる女優の十朱幸代の次に綺麗、と評判だった。
なので、色々とこうしたお洒落な物は沢山家にあったはずなのだけれど、和子ちゃんは、一切そちら方面に関心がなく、ずっと素顔でジーンズに黒のトップスが定番。

まあ、画家とはこういうものかもしれない。

今回の「家じまい」で初めて、色々な「もの」と向き合った、といったところ。

どちらかといえば、私の弟と似たタイプ。
弟もその奥さんも、ものには殆ど関心がない。
同じ姉弟なのに正反対。


まずは、アケビと山葡萄の違いを説明。
アケビも悪くないけれど、格と値段が全然違うこと。
山葡萄も、中国産と国産があって、国産でも養殖されたものもある、とレクチャー。
国産の天然ものなら使い込むほど艶々になってくるので楽しいということも。
下世話な話だけれどと、大体の値段も教えたら、びっくりしていました。

私は既に山葡萄の籠は、不思議な事にいつの間にか増えていて3つあるので(夫は1つだと思っている)そちらは遠慮してダイニングへ移動。

そこには大きな中国製の花梨の彫刻が施されたテーブルと椅子のセットが、

「これは重たいし気に入らないので、処分しようと思う。真理、要らない?」
・・って置くところがないし。私もこれはちょっとな。でもとても良い物でした。

さらには、軽井沢彫りの桜模様のチェスト。
これはKちゃんも気に入っていて、使うと言っていた。



これは多分、昭和初期くらいの軽井沢彫りだよ、と教えたら、真理はよく知ってるねえ。
鎌倉の人だから鎌倉彫だと思ってた、とのこと。
で、最近入手した100年くらい前だと思う軽井沢彫りの箱の写真を見せて、
「ホラ、この隙間の点々の星打ちが特徴なんだよ!」と最近知ったばかりの知識を披露。

ついでに、ブラシで掃いてやって、あとはやわらかな布で拭いて、オイルとかはNGで、と手入れの仕方もレクチャー。
時間が出来たら、手入れしに行ってあげるよ、と提案。
・・早く磨いてきれいにしてやりたい・・とうずうず。

別の部屋では全部ではないけれど、食器の一部を見せてもらって、印判だけれど、状態の良い珍しい龍の模様のなます皿をもらいました。



そして着物!

これが、もう膨大な量・・・

これをせっせと仕分け。

全部広げて状態を見ながら「どうする?」というのは、「片付けの魔法」の「こんまりさん」になった気分。

まさに「ときめくか、ときめかないか」での判断は結構な瞬発力とエネルギーが必要だけれど、ワクワクでとても楽しい作業。

分類は、
・田島夫妻が残して置きたいと思うもの、

・ロンドンで暮らしている息子のKくんとそのアイルランド人のパートナーに譲るもの、

・田島さんの知人のお嬢さんに譲るもの、

・2人の海外の友人などにプレゼントするもの。
・・これは私からの提案で、見事な金糸銀糸を使った袋帯なども何点かあったのですが、これをタペストリーみたいに壁にかけたり家具の上に敷いたりすると素敵だし、海外の人はとっても喜ぶよ、と言ったら「なるほど!」と喜んでもらえました。


・そして私に譲ってくれるもの。

・この範囲に入らないものは業者に処分してもらうとのことで、サクサクと作業。

羽織も含めると50着くらいあったかも。

その中の一等賞は紳士ものの上布。
昔デパートで冷やかしで200万円の越後上布の反物に触れさせてもらったことがあるけれど、ちょっとそれに近い感じ??

それと同じかどうかはわからないけれど、今ではみかけることのない、とても細い糸で織られていて、涼しそう。
田島さんも、これは気に入って、夏に着て散歩するよ、と喜んでいた。
上布は麻なので汗になっても家でも洗える、といったら驚いていました。

大島紬も4枚程あって、私も一枚、スッキリした柄のをいただいた。
2人とも着物は着たことがなく、着るために必要なものもろもろをこれまた解説。

当然、畳み方も知らないので、その場で伝授しつつ処分しない着物をみな畳んで項目ごとにまとめました。

まず、ここの脇の線をね、こうして、ああして、と言いながら手を動かしていると、またしても片付けの魔法の「こんまりさん」になった気分。

こうやって畳んでおけば、余計な皺もつかないから着物も一息つけるというものです。

私も大島紬の他にもモダンな緑と金茶の紬、ベージュと白の木綿の単衣、帯と羽織を同じ生地であつらえてある珍しいセット、紅型の名古屋帯、半幅帯などもらいました。

最近、ターバンにすれば、髪を染めなくてもいいからラクチンだね、とウクライナワンピースばかりなのですが、また生え際とつむじまできちんと染めてアップにして着物を着ないと、生きている間に着きれない・・

着物はもう増やさない、と誓っていたのですが、どれも、とても素敵なものだったので仕方ない。これも運命の出会いの一つです。

みな状態もよかったのですが、着物は丸ごとのクリーニングに出すので、それなりに費用はかかるけれど、昔のものはやはり生地の弾力が違って生き生きしています。
和子ちゃんも私も150㎝なので、寸法もぴったりでした。

他には大きな桐の箪笥や、紫檀に螺鈿細工の置台など、沢山あり、
要らないか?とまた言われたけれど、やはり置くところないので、と断る。






そして!
「これは真理にもらってもらうのが一番いいんじゃないかと、ずっと思ってたんだけど」

と見せてくれたのは小さな足踏みオルガン。\(^o^)/



先日、学士会館で足踏みオルガンをみかけて、良いなあ、と思っていたところ。

弾いてみると、柔らかな懐かしい音色がし、その上全ての音も出て、良いコンディション。きっと大切にされてきたのでしょう。

こんな時に弾く曲はやはりこれだろう、と「蝶々」をハ長調で弾く。
一気に村の分校の女先生気分に。

2人共喜んでくれて、「やっぱり、オルガンは真理のところがいいね!」とにっこり。

・・何処に置こう・・??
と考えたけれど、オルガンも私に連れていって欲しそうな顔をしていたので、これも有難くいただくことに。

・・・置き場は2階の階段踊り場しか今のところ思い当たらないけれど・・・

年内はリフォーム作業と引っ越しがあって忙しいので、落ち着いたら連絡くれるとのことで、龍のなます皿だけ持って帰り、後は、オルガンと一緒に改めて夫と車で受け取りにいくことにしました。

「落ち着いたら海で釣りでもしましょう!」と田島さん。

「山には古墳もあるんだよ。本当はその隣にある家も気に入ってたんだけど、駅からバスだったから、こっちにしたの。でもちょっと残念。」

と古墳の隣に住みたがっていた和子ちゃん。
やはりちょっと変わっている。

来年、二人が落ち着いたら、遊びに行って、着物の着方や畳み方のレクチャーして、軽井沢彫りのチェストを磨いて、海や山を散歩して、色々な二人の話を聞いて・・と新たな交流が楽しみです。

今回、改めて自覚したのは、私はモノが大好きだということ。

それも古くて美しくて価値があるにも関わらず打ち捨てられているものが。

それを発掘、救出して、手入れして蘇らせて愛でるのが好き。



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