ぴかりんの頭の中味

主に食べ歩きの記録。北海道室蘭市在住。

【本】五瓣の椿

2008年04月02日 08時00分09秒 | 読書記録2008
五瓣の椿, 山本周五郎, 新潮文庫 や-2-5(1648), 1964年
・時代は天保(1800年代前半)。最後の願いも叶わず苦しみながら死んだ父親の恨みを晴らすべく、放蕩な母親とその相手の男達を次々に手にかける、美しい娘『おしの』。『必殺仕事人』を彷彿とさせるような内容ですが、初出は本書の方がずっと古いです。これまで何度も映画やテレビドラマ化されているようですが、私は未見です。
・今わの際に、父親が母親に直接伝えたかったが、願いもむなしく絶命してしまい、謎のままになってしまった言葉。作中の『おしの』は、母親への恨み言であったに違いない、と解釈するが、果たしてそれが正しかったのかどうか。この点、微妙な含みがあるように感じます。
・『おしの』、『おその』、『おまさ』などなど、登場する女性の名が平仮名三文字で、読み始めは誰が誰だかわからず、しばらく戸惑う。
・気楽に読める、時代小説の佳作。
・「――女というものはね、おしのちゃん、自分のためにはなにもかも捨てて、夢中になって可愛がってくれる人が欲しいものよ、あたしのためならむさし屋の店も、財産もくそもないというほどうちこんでくれたら、あたしだってもう少しはあの人に愛情を持てたと思う」p.57
・「「やるわ、やってやるわ」暫くしておしのは呟いた、「これは女というものぜんぶのためよ、女ぜんたいの恥だわ、女ばかりじゃない、人間のぜんぶを汚したことだわ、――これがこのままそっとしておかれていい筈はないわ、この償いは誰かがしなければあんらない、こんな、人間ぜんぶを辱めるようなことを、放っておいていいわけはないわ」」p.61
・「これまでの女遍歴で彼が得たものは、石を踊らせようとして汗みずくになって徒労に終るか、反対にこっちが踊らされて疲労困憊するか、いずれにせよ、結局はこちらのへたばるのがおちであった。」p.82
・「「人間の悲しいのは」と彼は冷笑するように云った、「あとになって自分がばかなことをしたと気づくことだ、けものはそんなことに気づきゃしないがね」」p.108
・「「あのとおりの縹緻で、金がふんだんにあって、おまけに触れなば落ちんという風情でもちかけられるんだ、これでのぼせあがらなければ男じゃあない、そうだろう」」p.130
・「あの女中に「おりうさん」と呼ばれたときだけ、あたしは罪というものを感じた。それも、蝶太夫や得石を殺した、ということに罪を感じたわけではない。決してそうではない、それとはまったくべつの、なんと云ったらいいかしら、――わからない、なんと云いようもない。あなたはおりうさんではないか、とあの女中の云った言葉のなかに、罪を感じさせるものがあったような気がする。」p.184
・「心では救いを求めて泣き叫びたいようなおもいをしながら、それを隠してまじめに世渡りをしている人たち。そういう人たちの汗や涙の上で、自分だけの欲やたのしみに溺れているということは、人殺しをするよりもはるかに赦しがたい悪事だ。」p.248
・「男も人間だし女も人間だ、ばかなことをしたり思わぬ羽目を外したり、そのために泣いたり苦しんだりするのが、人間の人間らしいところじゃあないだろうか、いろごとでたのしむのは男だけじゃあない、女のほうが男の何十倍もたのしむという、だからこそ、前後の分別を忘れて男に身を任せるんじゃあないか」p.253
・「とそこに書かれていた告白は異常なもので、とうてい十八歳の娘などにできることとは思えなかったが、同時にまた「十八歳」という年齢の純粋な潔癖さがなければできなかったろう、とも思えるものであった。」p.269
・「――この世には御定法で罰することのできない罪がある。」p.271
●以下、解説(山田宗睦)より
・「山本周五郎は、<法>というものに深い関心をもっている作家である。」p.282
・「山本周五郎が『五瓣の椿』でとりくんだのは、御定<法>も罰せられない罪がこの世にはあり、それを人間の<掟>から審くというテーマであった。」p.284

?ろうがい【労咳】 肺結核。肺病。
?ふわけ【腑分】 解剖のこと。
?せんしょう【僭上】(「せんじょう」とも)1 臣下、使用人などが、身分を越えて長上をしのぐこと。さし出た行いをすること。また、そのさま。  2 分を過ぎた贅沢をすること。みえをはること。また、そのさま。過差。  3 大言壮語すること。ほらを吹くこと。また、そのさま。

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