ぴかりんの頭の中味

主に食べ歩きの記録。北海道室蘭市在住。

【本】カルメン

2008年12月07日 08時08分22秒 | 読書記録2008
カルメン, メリメ (訳)杉捷夫, 岩波文庫 赤534-3, 1929年
・「カルメン」と言えばオペラやその曲が有名ですが、その影に隠れた原作の小説です。オペラ版とは多少話が異なり、ある考古学者が自ら見聞したことを語る形で物語は進み、闘牛士ルーカス(オペラでのエスカミーリョ)の扱いは小さかったり、ホセの許婚は出てこなかったりです。
・先入観無く異国の物語の一つとして読んだとしても、面白く読める作品だと思います。約100ページと長さも手頃。
・「カルメン」の曲の演奏が続くので、参考のために読んでみた。
・「竜騎兵」→「鉄砲を装備した騎兵」という意味だと今更知った。
・「私のボヘミヤ女はしかし、これほどの完成された美を誇るわけには行かなかった。はだは、もっとも、完全に滑らかではあったが、銅色にきわめて近かった。目は斜視だが、切れが長く、パッチリしたいい目である。くちびるは少々厚いが、形は端正で、皮をむいたハタンキョウの実よりも白い歯並をときどきチラリと見せていた。髪の毛は、おそらく少々ふとすぎたであろうが、漆黒で、からすの羽のように青光のする光沢を放って、丈長につやつやと光っている。余り長たらしい描写を以て諸君を疲れさすことは遠慮して、ひっくるめて次のことを申し上げておこう。欠点が一つあるごとに、彼女は必ず一つの美点をあわせており、結局その美点は、対照によってかえって美しさを発揮しているのである。ふしぎな野性的な美しさであり、一目見たものをまず驚かすが、以後決して忘れることのできない顔立ちである。とりわけ、彼女の目は情欲的であり、同時に兇暴な表情をそなえており、以後私は人間の目つきにこういう表情をみいだしたことはない。」p.29
・「バスタンの谷間のエリソンド、これが私の生まれ故郷でございます。名前はドン・リサラベングヮと申します。」p.38 『ホセ』の本名。
・「女は赤い下裳(ジュポン)をつけておりましたが、短いので、白い絹のくつ下がむき出しに見えます。くつ下には穴がいくつもあいていました。赤いモロッコ皮のかわいらしいくつは燃えるような濃い赤のリボンで結んであります。わざとショールをひろげて、肩を見せ、はだぎの外にはみでているアカシヤの大きな花束を見せびらかしていました。口の端にもアカシヤの花を一輪くわえていましたが、コルドヴァの牧場の若い雌馬のように、腰を振りながら歩いて来るのです。私の故郷なら、こんな風体の女を見れば、みんなきもをつぶして十字を切るところです。が、セヴィーリャの町では、どいつもこいつもこの女の様子に何かげびたお世辞を浴びせています。女はひとりひとりに流し目を送りながら、それに答えております。握りこぶしを腰に当てて、まったくボヘミヤの名に恥じぬ図々しさです。一目見ていやな女だと思いました。」p.40
・「――女と猫は人が呼ぶときに来ないで、呼ばない時にくるものですが、」p.40
・「ボヘミヤ人にとっては自由がすべてです。ろう獄生活を一日まぬかれるためには、町一つを焼き払うこともしかねない人種です。」p.49
・「この日からのことです。私があの女をしんけんに思い始めたのは。いきなり中庭へとびこんで、あの女に向かって甘いことをべちゃついている青二才どものどてっ腹に、片っぱしから自分の剣を突き刺してくれようか、こういう考えが、三、四へんも私の頭にひらめいたのです。」p.51
・「しかし、ここで、彼女は、ふとした拍子にもらす、あの悪魔的な微笑をうかべながら、つけ加えました。あの微笑こそ、だれもあれをまねしようという気にはなれないしろものです。」p.75
・「――結構でござんすよだ。私ゃ何べんもコーヒーの煮がらで占っているんだ。私たちは一緒に命をおとす定めなんだよ。ふん! それがどうなるものかね! 彼女はこう言いました。それから、カスタニェットを鳴らしました。これは、何かいやな考えを払いのけようとする時、いつもこの女のするしぐさです。」p.78
・「――気をつけたほうがいいよ。私に向かって何かしちゃならんなどと口をきくと、いつの間にか何かがちゃんとでき上がっているからね。」p.82
・「カルメン! おれのカルメン! おれにお前を救わせてくれ、お前と一緒におれを救わせてくれ。」p.88
・「犬も歩けば、骨にあたる。――ボヘミヤ人のことわざ。」p.91 『棒にあたる』の語源?
・「ボヘミヤ人の性質の注目すべき特徴は、宗教に対する無関心であると言えよう。さりとて彼らが無信仰主義者とか懐疑主義者であるというわけではない。決して彼らは無神論に帰服しているのではない。それどころか、彼らの今住んでいる国の宗教がすなわち彼らの宗教である。国をかえるたびに、宗教をかえるのである。」p.98
・「ボヘミヤ人の歴史は、今日なお一個の問題である。彼らの最初の集団の幾組かが、人数は極めて少なかったが、16世紀の初頭、ヨーロッパの東部にあらわれたことだけは、たしかにわかっているが、どこから来たか、また、なぜヨーロッパへやって来たかは説明できない。のみならず、これはさらにいっそう奇異なことであるが、いかにして彼らが、わずかの間に、あのような驚くべき規模で、相互に非常にへだたっている多数の地方に増殖したかは知られていない。」p.100
●訳者あとがきより
・「『カルメン』はメリメ(1803-70)の43歳の時の作で、1845年10月1日号の『両世界評論』に発表された。」p.107

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