フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

愛なんて知らない

2005年09月17日 01時35分16秒 | 第4章 恋愛前夜編~カズトの章~
今、こうしてオレが医者の道を歩んでいるのもこの先生のお蔭だ。

「出来事には必ず必然がある」

その通りだった。


足を故障してからのオレは随分すさんでいた。
思うように進まないリハビリ。
オレがいなくても順調に勝ち進むバスケチーム。
それらのことがオレを苛立たせた。

オレはバスケの優勝戦を松葉杖をつきながら観に行った。
取るか取られるかのシーソーゲームだったが、最後に僅差で俺達が勝った。
嬉しそうに喜び合うチームに「おめでとう」と、観客席から賛辞を送りながらもやるせなさが残った。

ベンチを去ろうとした時、隣りに座っていた女が、駆け寄ってきた。

「ねぇ!あんた、すんごいカッコいいよね。良かったら今度遊んでよ」

女はそう言うなり、ボールペンでオレの杖のカバーにケーバンを書き始めた。

「今日は、これからカレシとデートだから遊べないけど、来週だったらオッケーだよ」

どうでもいい人生に、どうでもいい女……その頃のオレにはお誂え向きだった。

オレは生まれて初めて女を抱いた。
いや、正確には抱かれた。
好きでもない、どうでもいい女に。

女は「渋谷にいいラブホがあるんだ」と、アッケラカンと言った。
「そこね。ベッドのスプリングが結構ツボなんだ」
まるで大したことをする訳じゃないから来いと言わんばかりに、オレの腕をグイグイ引っ張っていった。

オレは、部屋に入るなり、杖をどけ、ベッドに体を投げ出すと、「勝手に動けよ」と言った。
どうせこの足じゃ、動けない。
女は盛りのついたメス猫みたいにオレの上で、勝手に動き、果てた。
大した事じゃないと思った。
女は満足し、オレはスカッとする。
SEXなんてそれだけだ。
単なるスポーツだ。

それから、何人も何人も女を抱いた。
どの女の顔も今は覚えていない。
愛なんて知らなかった。




人気blogランキングへ
↑ブログランキングに参加しています。
押して頂けると励みになります。
忍者TOOLS


ロマネ・コンティ

2005年09月17日 00時30分42秒 | 第4章 恋愛前夜編~カズトの章~
「かんぱーい」と、つられてグラスを持ち上げながら、オレは尋ねた。
「で、何の?」

すると、矢部先生は、少し赤くなった顔を益々赤くさせながら、白状した。

「いや、実は結婚することになってな」
「え!息子さんが?!」

先生はオレの頭をゴツン!と殴った。

「いってぇーーー!冗談だよ!何も、グーで殴ることないだろぉ!!」
「お前は私が独身ってこと知ってて言うからだ!!」

それからオレ達はワインのアルコールの力も手伝って大いにはしゃいだ。

「で、いつ結婚するんですか?」

オレは先生のグラスにワインを注ぎながら聞いた。

「んー。実はもうしちゃったんだよ。入籍だけの、ジミ婚ってやつさ」
「はっえー。で、相手はどんな人?いつ、出会ったの?」

オレが矢継ぎ早に尋ねると、先生は照れながらも、節目がちに答えた。

「私の中学時代の初恋の人さ。彼女の旦那さんが、癌でこの病院に入院してきて、それで再会したんだよ。旦那の方は私が小さい頃から良く知っている幼馴染でね
この病院に来た時は既に末期癌だった。彼は、亡くなる間際に、彼女と子供達のことを頼むと私に言い残して亡くなったんだよ」

「知らなかった」

オレはポツリと言った。

「実は、このRomanee Contiの1978年は彼女が前の旦那さんと結婚した年なんだ」
「えっ!?」

オレはワインをまじまじと見つめた。

「彼女とヤツが育ててきた大切な時間のリレーを今度は私が引き受けていきたいと思ってね。よーっく、噛み締めて飲んでみるつもりだよ」
「の、割にはピッチが早いじゃないですか」

オレが、冷やかすと、ヤブのヤツクスリと笑った。

「まぁ、多少のヤキモチくらいは入ってるかもしれないね」

ロマネ・コンティを半分も飲まないうちに先生は酔って机に突っ伏して寝てしまった。
「おーい。センセー、風邪引くぞぉ」

先生は、世界一幸せそうな顔で熟睡していた。

オレは隣室にある宿直室から、ブランケットを持ち出し、先生に掛けた。

「幸せになれよ。ヤブ」

それから、オレは残ったロマネ・コンティをヤブの寝顔をエサにチビチビ飲んだ。




人気blogランキングへ
↑ブログランキングに参加しています。
押して頂けると励みになります。
忍者TOOLS