フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

ワイン

2005年09月15日 21時29分25秒 | 第4章 恋愛前夜編~カズトの章~
次の朝、大学の講義が終ると、オレは一目散に大学付属の総合病院に向かった。

「かず先生、こんにちはー!」
「おー!こんにちは!!ちゃんと、宿題やったかな?」
「やってなーーい!!!」
「……おーい」

チビハルナのことがきっかけで始めた週1回の小児病棟での先生は結局、今も続けていた。

「先生が教えに来ると、看護師さん達の見学が増えるんだよね。もてるねぇ先生!嬉しいでしょう」

最近、ナマイキ盛りの篤史が言った。

「たった一人の女から振り向いてもらえれば、それでいいよ」
「えー、つまんないじゃん。そんなの!」
「お前にもいつか分かるよ」

子供達と一緒に勉強をして帰ろうとすると、看護士のかなえさんが、くすくす笑いながら声を掛けてきた。

「あ!かずと先生、矢部先生がお呼びでしたよ」
「何?何、笑ってんのさ?」
「矢部先生ったら、余程、あなたのこと気に入ってるのね。来ることが分かったら必ずお呼びになるんですもの」
「はは。孫みたいに思ってるのかもね」
「まぁ!先生はそこまでお年寄りじゃないから、聞いたらお怒りになるわよ」

かなえさんは、ぷっと噴き出して笑った。

矢部先生の研究室は、棟の真ん中に位置するエレベーターを降りて直ぐ右隣にある。
日当たりも絶好の昼寝ポイントだ。
今日もきっとヤブ、いや、矢部先生は「研究中」を理由に昼寝しているはずだ。
その証拠に、この日もオレが扉をノックしても、中から返事が無かった。

「失礼しま~す」
オレはいつものように乱暴に扉を開けると、矢部先生が扉の横から「わっ!」と飛び出して来た。
「わぁ!!」
オレはびっくりして飛び上がった。

「矢部先生、止めて下さいよぉ」
「んー。君のリアクションを楽しみたくてね」
「で、オレを呼んだ用事は何でしょうか?」

オレは半ば呆れつつ、テーブルの上に鞄を放り投げた。

「そう、むくれなさんな。昨日、ちょっと美味しいワインを手に入れてね。君と一緒に飲もうかなと思って呼んだのさ」

矢部先生は嬉しそうに腹を叩くと、ワインをテーブルに置いた。

「 Romanee Conti 1978って、先生!これ!100万円は下らないんじゃ……。オレ、飲めません」
「まぁ、飲みなさい」

先生は栓を開けてコルクに染み付いた匂いを嗅ぐと、グラスに注ぎ始めた。

「高価なワインほど独りで飲むのは虚しいもんさ。」
先生は、嬉しそうに「かんばーい」と、グラスを持ち上げた。



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葛藤

2005年09月15日 02時24分32秒 | 第4章 恋愛前夜編~カズトの章~
なんで、オレがお前の先生に?!
口をアングリしていると遠くから声が聞こえて来た。

「おーい。かず坊!ビール買って来たけど飲むかい?」

リョーコの声で眠りから覚めた。
オレはいつの間にかベッドの上で熟睡してしまっていたらしい。

「あー。飲むよ。サンキュ……」
まだ、眠気が抜けきらないまま、ベッドからよろけながら立ち上がった。

「顔色悪いよ?大丈夫??飲む前に、食べた方が良くない?」
リョーコは心配そうにオレの顔を覗き込んだ。
「いや、いい。それより、飲みたい」
「いいけどさ。まぁ、なんかあったら、私を始め医者の卵が沢山いるから、安心してね♪」
「……免許取ったヤツを用意してくれ」
オレは力なく応えた。

リョーコは缶ビールの蓋を開け、「ん!」と言って、ビールを差し出した。

「あのさ。言いたくなったら言わなくてもいいんだけどさぁ。ハルナちゃんと何かあった?」
「……」
「ハルナちゃん、泣いた目をしてたから気になって」
「……抱いた」
「え?」
「抱いたんだ」
「え?!遂にヤッちゃったの?!」
「いや、正確には未遂だけど」
「そーだったんだ。それで、か」

リョーコは、くいっとビールを飲むと、ずばりと切り込んできた。

「無理矢理だったんでしょー」
「…………」

オレは無言で頷いた。


「で、これからどうするの?」
「分からない。でも、今日のような状況になれば、オレはきっとあいつを抱いてしまうかもしれない。だけど、あいつはまだ子供だから待つべきなのかもしれないと、分かっているんだけど……」
「そうかなぁ」

リョーコは首を傾げた。

「女がセックスを拒む理由は3つあると思うのよ。まず、1つには、かず坊のことが生理的に嫌いな場合。この理由はまず考えられないけどね。それから次に、彼女のかず坊に対する愛情が熟していない時ね。この可能性が高いかもね。そして、最後に、3つ目。こっちの方が厄介なんだけど……、他に好きな男がいる場合……かな?」

リョーコの分析を聞いてオレは血の気が引くのを感じた。

ハルナに、オレの他に好きな男がいる
ハルナがそいつとキスをし、そいつに抱かれる。
そう考えただけで、血が逆流しそうだ。


出来れば、お互いの合意の上で求め合って幸せなSEXがしたい。
でも、ハルナの胸の中に「トオル」と言うやつが棲んでいるとしたら、オレは無理矢理犯してでも、ハルナを奪ってしまうかもしれない。

オレは自分の中に巣食う醜い獣に慄き、心の中で何度も葛藤していた。




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チビ

2005年09月15日 00時01分03秒 | 第4章 恋愛前夜編~カズトの章~
オレが北尾と話していると、「ハルナちゃーーん!どこなの?」と、大声を上げながら、探している声が方々から聞こえた。

「え?!ハルナ??」

オレは、その聞き覚えのある名前に反応した。
すると、ベンチの後ろがガサガサと揺れ、オレ達のベンチの裏から、小さな小学生位の女の子が出て来た。
オレと目が合うと、「しーっ」と、人差し指を立てた。

「お前、まさかハルナって言うのか?」

オレが聞いても応えない。
その代わり、「私ね。お兄ちゃんのこと、知ってるよ。だってね、看護師さん達が外科にすんごくかっこいい男の子が入院してきたって騒いでたもん」と、オレを指差して言った。

「そりゃ、どうも」
「よっちゃんほどじゃないけどね」
「誰?よっちゃん?」
「ハルナのボーイフレンド!」
「マセガキ!で、どうしてお前は、隠れているんだ?」
「お前じゃないよ。ハ・ル・ナ!!」
「分かった。じゃ、ちびハルナはどうして、ここにいて、どうして皆が探しているんだ?」
「ちびハルナじゃなくて、ハルナ!!」
「分かったよ。で、何で隠れる必要があるんだよ」
「だってね、これからお勉強の時間なんだけど、ホームの先生は、ハルナのこと、バカバカ言って、その上、すんごく嫌味なの。だから、受けたくなくて『ぼいこっと』したの」
「はは。ボイコットか。でも、受けなきゃ、一生、バカのまんまだぜ?」

オレがからかうと北尾が肩を叩いた。

「まぁまぁ。オコチャマ相手にマジになんなよ」
「おこちゃまじゃないよ!!」

ちびハルナは北尾を睨みつけた。

「それに、ハルナ、バカでもないもっ!!教える先生が悪いんだよ」
オレに対しても自慢気に反論した。

それから、くるりとオレの方を向くと、鼻をフフンと鳴らした。
「お兄ちゃん、学年一番で頭がいいんでしょ?聞いたよ、さっき。だから、ハルナ達の先生にしてあげる!!」

これが俺とチビとの最初の出会いだった。




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