フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

トンネル

2005年09月27日 00時48分26秒 | 第5章 恋愛前夜編~トオルの章~
「徹。君が今の日本の幼稚園に通うことは、難しいかもしれないね」と、言うダディの言葉が僕には理解できなかった。

僕は友達とかけっこしたり、お遊戯をしたりして有意義に過ごしていたのだから。

ただ、これまでと違ったのは、幼稚園の先生に勉強を教わるのではなく、叔父さんにお勉強を教わることになったことだ。

叔父さんは日本のことについてとても詳しくて、それはそれは面白い話をしてくれた。
授業はお散歩をしながらすることになっていた。

交通標記に始まって、日本の株式市場のシステムに至るまで幅広いお話しをしてくれた。
雨が降ったり、風が吹いたりと言った気候の変化も、化学や物理学を交えながら楽しく教えてくれた。

ダディには天文学と医学と数学、それから政治学。
マミィには美術と音楽と英語、日本語を教えて貰った。

でもどれも一緒に外に出掛けて遊びながら教わったので僕は教わっているというよりも、一緒に遊んでもらっているという感覚に近くて、それらの勉強を心から楽しんでいた。


ある日、僕はマミィが幼稚園に迎えに来るまで、幼稚園のお砂場で遊んでいたことがあった。
一生懸命穴を掘っていると、背の高い白髪のおじいちゃんが、話し掛けてきた。

「君は何を作っているのかな」
僕は、穴掘りに夢中になりながら「トンネルだよ」と答えた。
「ほほぉぅ。このトンネルを作ってどうするのかね」
「この穴に手を入れてね、地球の裏側の人と握手するんだ。でも……」

僕は穴に更に深く手を差し入れ、土を掻き出しながら答えていた。

「でもなんだい?」
おじいちゃんは屈んで、僕の顔を覗き込んだ。
「大陸プレートを刺激しちゃって、地震が起きちゃったらどうしよう」
僕は、真剣に悩んでいた。

「わっはっはっは!面白い子だね」
僕とおじいちゃんは楽しく穴掘りをしながら、面白いことを言ってはお腹を抱えて笑った。

夕暮れ時に、ママが、迎えに来てくれたと先生が教えてくれたので、僕はママにこのおじいちゃんのことを教えてあげようと、走り寄って行った。
でも、振り向くとおじいちゃんはもういなくなっていた。

これが僕と父方の祖父との生涯たった一度の出会いだった。



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