フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

別れ

2005年09月11日 03時43分00秒 | 第4章 恋愛前夜編~カズトの章~
中学2年の冬。
オレと吉澤は付き合い始めた。

3回目のキスをした頃、オレは吉澤の家に誘われた。
大きな家だったが、誰もいない淋しい感じのする家だった。

「どうしたの?入って」

玄関でオレが躊躇していると、彼女に促された。

家には誰もいないことが直ぐに判った。

「やっぱ、帰るよ」

オレが帰ろうとすると、「帰んないで」と、吉澤は腕に巻きついて離そうとしなかった。

「だって、今、家に誰もいないんだろ?まずいよ」
「いいから上がって」

半ば強引に手を引っ張られ、オレは吉澤の家へあがった。

吉澤の部屋は、何にもない殺風景な部屋だった。
暫くの談笑の後、オレ達はキスを交わした。

「あのね。私、カズ君だったらいいよ……」

吉澤はオレに寄り掛かってきた。
オレは優しく吉澤の頭を撫でていた。

しかし、困ったことにバスケ三昧のオレは女の抱き方すら知らなかった。
この先、どーすりゃいいんだよぉと内心、冷や汗が出てきた。

「自分を大切にしろよ」
そう言ってその場は逃げるように家に帰った。

バスケの本の下に隠してそのテの本を必死で読み漁った。
実践経験は無くても、少しずつ自信をつけてきた頃、Hビデオの鑑賞をしてやるから来いと、当時、友達だった北尾から誘いを受けた。

想像以上にハードなビデオにオレは衝撃を受け、吐き気を催した。

「本当にこんなことするのか??」
オレは北尾に詰め寄った。

「まぁ、似たり寄ったり、こんなもんだな。で、誰とヤルのか白状しろよ」
北尾は煙草に火を点けながら笑った。

オレは正直に、「吉澤えり子」と答えた。
すると、北尾はさっと顔色が変わり、「あいつは止めとけ!」と、声を潜めた。

「なんでだよ」
自分のコイビトをこう言われてムカツかないやつなんていない。

「言いにくいんだけどさ。あいつ、昔、エンコーしてたって噂だぞ」
「エンコー??ってなんだよ」
「お前、ホント世情に疎過ぎ!ウリのことだよ」
「…………????」
「あーもー!!お前、マジでバスケ以外にも関心持てよ」
北尾は、呆れ顔で天を仰いだ。

「分かったよ。今度からそうするから。で、エンコーとかウリとかって何なんだよ」
オレは決して良い意味ではないことを察しながら尋ねた。
「つまり、どっかのオヤジに体売って金を貰うことだよ」

その言葉は、とてもショックだったように思う。
それが事実だとしたら、オレは彼女を許せないだろう……

オレはその夜、吉澤に電話した。
そして、直ぐに切り出した。

「お前さ、エンコーしてたって本当?」
「…………」
「単なる噂だよな」
「…………」

彼女の無言に堪えられずオレは電話口で叫んでいた。

「何とか言えよ!!」

それが精一杯だった。

「ごめんなさい……」

彼女は電話の向こうで泣きじゃくっていた。

オレは彼女の過去を許せるほど大人じゃなかった。
こうしてオレ達は終った。

風の便りに彼女がその後、進学した高校の同級生と同棲し、妊娠、出産したことを聞いた。
もう少しオレが大人だったら、もう少しオレが寛大だったら違う今があったのかもしれない。
時々、そう思うことがある。

楽しそうに笑いながらすれ違う親子を見る度に「淋しい」と良く言っていた吉澤を思い出す。

今は多分淋しくなんか無いだろう。

吉澤、幸せになれ!

人を……、ハルナを愛することを知った今だから、心からそう思える。



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ファーストキス

2005年09月11日 01時39分24秒 | 第4章 恋愛前夜編~カズトの章~
中学2年になり、オレは評議委員に指名された。
別名「センコーの使いっ走り」って言う面倒な仕事だ。

吉澤えり子もオレと同じクラスになっていた。
彼女は女子の評議委員に自ら立候補していた。

そうなると放課後二人で活動する機会も自然と増えていった。

その日は、二人で明日みんなに渡す運動会のハチマキの図案を考えているところだった。
吉澤えり子は、作業の手を止めて、身を乗り出して聞いてきた。

「ねぇ。カズト君は付き合っている子いる?」
「いねぇよ。そんなの」

オレは、シャーペンをカチャカチャと振りながら答えた。

「じゃっさ。私と付き合わない?!」
「はぁっ?!なんで、お前と付き合わなきゃなんないんだよ」
ナチュラルに告白してくるえり子の言葉に動揺したのか、日誌に書き込んでいたシャーペンの芯がプツンと折れた。

オレはまたカチカチとシャーペンの芯を出しながら、素気なく答えた。
「あんたに興味ないよ」
「ひっどーーいなぁ。これでも勇気出して、コクってるんだよぉ」
「へぇ……。すげぇじゃん」

そんなことよりも、早くこの作業が終るように協力してくれ!
オレは早くバスケに行きたくてイラついていた。

「噂通りだね」
吉澤えり子がぼそっと呟いた。
「何が?」
「カズト君、女の子に興味がないって噂」
「それピンポーンじゃん」
「あなた、ホモ?」
「……殴るぞ」
「殴れば?!」

むかついて、マジで一発殴ってやろうかと思って、顔を上げると吉澤えり子は泣いていた。

吉澤はガタンと立ち上がるとオレの方にツカツカとオレの方に歩いてきた。
「殴れば?!」
もう一度、しゃくりあげながら吉澤えり子は言った。

オレは彼女の気迫に押され、後ずさった。
「オレ、ホモじゃねぇよ。それに、今は女よりもバスケの方が好きだし。第一、あんたは好みじゃない」

……みたいなことを言ったような気がする。

「よく平然とした顔でそんな残酷なフリ方が出来るよね」
そう言うと、彼女はオレの服の襟元を掴み、オレの唇に噛み付くようなキスをした。

あまりにも突然なことでオレが呆気に取られていると、「バーーーーカ!」と捨て台詞を吐いて教室から出て行ってしまった。

毒気を抜かれたとはまさにこのことだ。
その時は、まさかオレが吉澤えり子と付き合うことになる、なんてことは夢にも思ってもいなかった。



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風穴

2005年09月11日 01時23分47秒 | 第4章 恋愛前夜編~カズトの章~
ガタガタガタと言う強い風の音に目が覚めた。
「夢か……」
ベッドから起き上がると、のそのそと重い足を引き摺って窓を閉めた。

部屋中に散乱したレポート用紙をぼんやりと眺めながら、今日提出のレポートがないことに気付いた。

「やべっ!今日提出のレポート!!」
部屋中を探し回った。
……出てこない。
「まじ?!」

取り合えずコーヒーでも飲んで、眠気を覚まそう。
それから探してもまだ昼の3時だから締め切りの6時まで時間は十分にある。
「あ!そー言えば、パソコンにデータが入ってたんだっけ……。オレも相当追い詰められてんなぁ」

安堵しながらリビングまで行くと、テーブルに置き手紙があった。


『カズ坊へ。
レポートは私が出しとくから。
とにかく寝て睡眠不足を解消すべし!   
byリョーコ』

「はは。犯人はお前か。サンキュ、リョーコ」
リョーコの部屋にヒラヒラ手を振って自室に戻った。

ベッドに再び転がり込むと、ほんの数時間前まで腕の中にいたハルナのことを思い出した。


「もうちょっとだったのになぁ……」


ハルナの香水の残り香が微かにベッドから立ち上ってくるような気がした。

……あいつ、泣いてた。

でも、強張りながらも微かにオレを受け入れようと身体を開いてくれた、ような気がする。
白く柔らかな胸の感触も濡れた身体の感触もまだこの掌に残っている。

時折洩れるハルナのか細い声が、オレから「兄としての存在」と言う唯一の理性への枷を全て殺ぎ落としてしまった。
オレはベッドに顔を埋めて、ハルナの感触を思い出そうとした。

ハルナの白い肢体が何度何度も脳に鮮烈に蘇っては消え、くすぶっていた欲情を掻き乱していく。

「抱きたい……」

オレは仰向けになり天井を凝視した。




まだ小学1年生のハルナが、親父さんの転勤で九州に引っ越したのはあの祭りの日からほんの1ヶ月も経たない初秋だった。

可愛がっていた犬っころが手元からいなくなる、そんな感じで、心にぽかーんと穴が開いたようだった。

「ハルナみたいな手の掛かるヤツがいなくなってセイセイする!」
周りに豪語していたものの、ひどく淋しくなったと言うのが本音だった。
それはおふくろも一緒だった。
あいつは片岡ファミリーにでっかな風穴を開けたまま去ってしまった。


オレは突然、バスケを始めた。
ハルナを失った寂しさを埋められれば何でも良かった。
がむしゃらに練習をした。
あれだけ練習すれば、入部して半年もしない内にレギュラーになれるのは当然の結果だった。
朝から晩までバスケバスケのバスケ三昧だった。

中学に入り、オレのバスケ三昧の生活に微かな変化が訪れた。
「吉澤えり子」だ。
みんなに「エリー」って呼ばれて誰にでも愛想のいい、人目を引くようなキレイな女だった。
その上、クラスの中でもちょっと大人びた変な女。

オレは、この女に当初全く関心を持たなかった。
あの日までは……。



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