フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

決断の時

2005年09月26日 01時23分04秒 | 第5章 恋愛前夜編~トオルの章~
その日、幼稚園から帰るとダディは僕をリビングへと連れて行き、膝の上に乗せて抱きしめた。

「徹。アメリカに帰ろう」

その時、僕は生まれて初めてダディの涙を見た。


その日の夕方、やはり同じ東京に住むダディの弟が僕達を訪ねて来た。
若くてさばさばした性格の叔父を僕は直ぐに好きになった。
ひとしきり叔父さんと遊んだ後、僕は疲れてソファでウトウトとし始めた。

「大きくなったな~。こいつ。この間、生まれたばかりだと思ったら……。生まれた時はこ~んなに小さかったのになぁ」

叔父さんはそう言いながら、両手を50cmほど開いて見せた。

「4年も経つものなぁ」

ダディは叔父さんのグラスにワインを注ぎながら、懐かしそうに遠くを見つめた。

「兄貴は本当にまたアメリカに行くのか?」
「ああ。大学院もまだ途中だし。それにもう逃げるのは止めようと思ってね。この子の将来のためにも」

「……そうか。オヤジは帰ってきて欲しそうだったぜ」

叔父さんがグラスをテーブルに置き、話を続けた。

「オヤジはこの間、兄貴が帰って来なかったら、銀行から持ち掛けられたMBOを受け入れて、病院の経営を今の経営陣に委ねると言っていたよ。病院を後世に残すためにも、体力、精神力共にある今のうちにやるってさ」
「……それがいいかもしれないな」
「兄貴、本当に病院は継がないのか?」

叔父さんは身を乗り出してダディに詰め寄った。

「嘉彦。お前が継げばいいだろう」
「冗談だろ!オレはお気楽な小さな病院の開業医でいいよ。どうも大病院の経営とか、政治とかはオレには向かないよ」
「僕もだよ。それに今は自分と徹のことで手一杯だ」

そう言うと、ダディは掌で弄んでいたグラスの中身をぐぃっと一気に飲み干した。



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苦悩の日々

2005年09月26日 00時00分00秒 | 第5章 恋愛前夜編~トオルの章~
僕は様々な場面で奇異の目で見られた。
まず第一にこの容姿。
金髪にグリーンの瞳。

僕は日本人ではないという事実を否が応でも突き付けられた。

でも、問題はそれだけじゃなかった。

それは4歳の時のことだった。

幼稚園の通常の保育時間が終った後、僕は算数の勉強をそこで教えてもらうことになった。
だけど、3回目の授業の後、先生はマミィに告げた。

「私はもう、この子に教えることはできません。遥かに私の能力を超えてしまっています」

算数の先生は最初は軽い気持ちで僕にテストをさせ始めた。
それを解く僕に対し、賞賛の声を上げ、徐々に難しい問題をテストしていった。
小学1年、2年、3年と難易度を上げていき、遂に3回目の授業では、高校生の問題を出すまでになってしまっていた。

僕は楽しくて、夢中になって関数や微分、積分と言った問題を解いていった。
その頃には、もう、先生の目は「異質のものを見る目」に変わっていたと思う。

両親は、決断をしかねていた。
僕と同年代の子供達と一緒に子供らしい教育を受けさせるべきか、それとも、能力に見合った教育をさせるべきかどうかと言うことを……。

僕は幼稚園の先生や友達が好きだったから、このままでいたいと思っていた。
でも、勉強を教わると楽しくなって、その勉強にのめり込み、知的好奇心が満たされることも確かだった。

子供に合った教育を……

それが両親の願いだった。
唯一それだけだった。

問題は基準だ。

体の成長に合わせるべきか、それとも精神の、つまり頭の成長に合わせるべきかで大きく揺れていたようだ。

そんなことばかり考えて逡巡していた両親に、ある朝アメリカからメールが届いた。

僕はポストに入った癖のある字で書かれたエアメールを取り出すと、マミィに渡した。
マミィは一瞬躊躇しながら震える手でその手紙を受け取った。

「じゃ!マミィ!ダディ!行って来ま~す」

僕はその日も意気揚揚と幼稚園バスに乗り込んだ。


そのメールがこれからの僕の人生を大きく変えるとは夢にも思わずに……。




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