その日、幼稚園から帰るとダディは僕をリビングへと連れて行き、膝の上に乗せて抱きしめた。
「徹。アメリカに帰ろう」
その時、僕は生まれて初めてダディの涙を見た。
その日の夕方、やはり同じ東京に住むダディの弟が僕達を訪ねて来た。
若くてさばさばした性格の叔父を僕は直ぐに好きになった。
ひとしきり叔父さんと遊んだ後、僕は疲れてソファでウトウトとし始めた。
「大きくなったな~。こいつ。この間、生まれたばかりだと思ったら……。生まれた時はこ~んなに小さかったのになぁ」
叔父さんはそう言いながら、両手を50cmほど開いて見せた。
「4年も経つものなぁ」
ダディは叔父さんのグラスにワインを注ぎながら、懐かしそうに遠くを見つめた。
「兄貴は本当にまたアメリカに行くのか?」
「ああ。大学院もまだ途中だし。それにもう逃げるのは止めようと思ってね。この子の将来のためにも」
「……そうか。オヤジは帰ってきて欲しそうだったぜ」
叔父さんがグラスをテーブルに置き、話を続けた。
「オヤジはこの間、兄貴が帰って来なかったら、銀行から持ち掛けられたMBOを受け入れて、病院の経営を今の経営陣に委ねると言っていたよ。病院を後世に残すためにも、体力、精神力共にある今のうちにやるってさ」
「……それがいいかもしれないな」
「兄貴、本当に病院は継がないのか?」
叔父さんは身を乗り出してダディに詰め寄った。
「嘉彦。お前が継げばいいだろう」
「冗談だろ!オレはお気楽な小さな病院の開業医でいいよ。どうも大病院の経営とか、政治とかはオレには向かないよ」
「僕もだよ。それに今は自分と徹のことで手一杯だ」
そう言うと、ダディは掌で弄んでいたグラスの中身をぐぃっと一気に飲み干した。
人気blogランキングへ
↑ブログランキングに参加しています。
押して頂けると励みになります。
「徹。アメリカに帰ろう」
その時、僕は生まれて初めてダディの涙を見た。
その日の夕方、やはり同じ東京に住むダディの弟が僕達を訪ねて来た。
若くてさばさばした性格の叔父を僕は直ぐに好きになった。
ひとしきり叔父さんと遊んだ後、僕は疲れてソファでウトウトとし始めた。
「大きくなったな~。こいつ。この間、生まれたばかりだと思ったら……。生まれた時はこ~んなに小さかったのになぁ」
叔父さんはそう言いながら、両手を50cmほど開いて見せた。
「4年も経つものなぁ」
ダディは叔父さんのグラスにワインを注ぎながら、懐かしそうに遠くを見つめた。
「兄貴は本当にまたアメリカに行くのか?」
「ああ。大学院もまだ途中だし。それにもう逃げるのは止めようと思ってね。この子の将来のためにも」
「……そうか。オヤジは帰ってきて欲しそうだったぜ」
叔父さんがグラスをテーブルに置き、話を続けた。
「オヤジはこの間、兄貴が帰って来なかったら、銀行から持ち掛けられたMBOを受け入れて、病院の経営を今の経営陣に委ねると言っていたよ。病院を後世に残すためにも、体力、精神力共にある今のうちにやるってさ」
「……それがいいかもしれないな」
「兄貴、本当に病院は継がないのか?」
叔父さんは身を乗り出してダディに詰め寄った。
「嘉彦。お前が継げばいいだろう」
「冗談だろ!オレはお気楽な小さな病院の開業医でいいよ。どうも大病院の経営とか、政治とかはオレには向かないよ」
「僕もだよ。それに今は自分と徹のことで手一杯だ」
そう言うと、ダディは掌で弄んでいたグラスの中身をぐぃっと一気に飲み干した。
人気blogランキングへ
↑ブログランキングに参加しています。
押して頂けると励みになります。