2023年11月19日(日)、妻が大分前に購入していた平谷美樹(ひらや・よしき)著『虎と十字架~南部藩虎騒動』(実業之日本社、2090円。2023年8月1日 初版第1刷発行)の単行本を読み終えました。南部藩を舞台にした歴史時代ミステリー長編小説である。
寛永2(1625)年の陸奥国(むつのくに)南部藩で大事件が起きた。徳川家康から拝領し、盛岡城内で飼われていた虎2頭が虎籠(檻)の外に出たのだ。1頭(雄虎「乱菊丸」)は徒目付(かちめつけ)の米内平四郎(よない・へいしろう)が捕らえ、もう1頭(雌虎「牡丹丸」)は藩主(利直)の三男の南部重直(なんぶ・しげなお)が鉄砲で仕留めた。
だがなぜ、虎は外に出ることができたのか。虎籠番が切腹したが、調べると殺された可能性が浮上する。さらに虎の餌として与えられた、2人の切支丹(きりしたん)女性の死体も消えていた。事件を探索する平四郎だが、次々と新たな事実が判明し、混迷の度合いを深めて行く。
著者が「徳川実紀」に書かれている南部藩が家康から虎を拝領したという事実を使い、そこに実在した後藤寿庵をはじめとする切支丹を絡めたストーリが面白い。まさに、この時代この場所でなければ成立しないミステリーになっているのだ。
すでに数々の難事件を解決しているという平四郎だが、探索の方法は関係者を当たって話を聞くという堅実なもの。その結果たどりついた騒動の真犯人は、実に意外な人物だった。「歴女」の妻は、「昔から噂されていた人物なので意外ではない!」というが、まあ、しかしうまく纏めたものである。
歴史時代小説のファンだけでなく、ミステリーフアンにもおすすめしたい傑作小説である。
なお、捕らえられた虎「乱菊丸」は寛永(1643)20年まで生きたそうです。虎騒動から18年後である。
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