一月26日日曜日。北山しぐれの朝です。
北風にむかって自転車をこぐ、ハーハーと白い息を自慢しながら工房にたどり着きました。
今週はショパールウイークになりました。
写真のようなリューズが見えない特殊なムーブメント。最後に裏ブタを閉めるときに親指の力が必要。
チェリストのロストロボービッチ氏は左指で角砂糖を潰せる得意技で有名でした。チェロの太い絃を押さえ込む力が強いほどクリアーな音が出る。
演奏会は2時間ほどの時間なので最後の方は卵も割れないほどヘロヘロになるのが普通。
チェリストと同じように時計師も指の力が必要。
最近、角砂糖を探すのが難しいので故ロストロボービッチさんとの角砂糖壊しの力比べは天国への勝負になりました。天国に角砂糖はあるのかいな?
「緊張の京都時間」
ショパールのハッピーダイアモンドの修理。
必要な工具はオープナー、ピンセット、探り棒、0,5ミリのドライバー、指サック、度胸、失敗した時に謝る勇気だけなので簡単なのだ。
時計を預かる前にガラスをチェックします。少しでもヒビや傷がついているとガラスが割れるのでお断りします。ガラス1枚割ると2万円飛ぶ。昨年経験済みです。
技能士1級の技術レベルの難しい電池交換。これが終わってもさらに最後の難関に地獄のふたを閉め作業が待っている。
キャリバーを正確な位置におき、裏ブタを閉める、力加減を誤るとガラスを割る。
微妙な力加減で閉めるので工具は使えない。
この作業が終わる頃には利き手の親指はしばらく使えない。
指を骨折する事故もおきるのでショパールの修理は断るお店が多い。修理を断られても怒らないようにしましょう!
「あんたのお店で買ったのになんでできひんのや~!メーカー送ったら6万円取られるやんか!」などのクレームで工房にやってくる同業者さんはこめつきバッタのようにペコペコ状態でやってくる。
一般のお客さんは難易度が解らないのか平気で「電池交換してください!」と差し出してきます。
「これ電池交換できる?」と来る人には「出来ません!」と簡単に答える。修理危険度レベルがわからないのでガラス割ると大騒ぎになる。
「被害者意識」も最近すごいものがある。
「先日電池交換した時計がもう止まった!」
カンカンだ。裏ブタを開けると2年前2012年の電池交換した日付けが書かれていました。
「ロレックスの分解掃除で3万円も取られた!使ってみたら1週間で1分も進む、以前はこんなことはなかった!」
お客様の知識不足にがっくりとなることが多い。
また、昨年は先輩の時計師が次第にピンセットを置く情報が入る。
昔の時計師さんは店の奥でふんぞりかえっているだけでよかった。
説明など求めるお客を叱り飛ばしていればよかった時代の人たちは現状に対応できないのもリタイヤが増えた要因でしょう。
時計メーカーから販売部門へ出向した時に一番感じたのは社員の被害者意識です。
「こんなに安い給与で日曜日まで出勤させられる私たちは被害者だ!」
「それやったらもっと給料のいいところを探したら?」とあきれた。
利益率も低く商品回転率も最低クラス4回転の時計業界に入ってくることがそもそも本人の選択能力の欠如。本人の人生設計のミスなのです。
「バイヤーのおかげで一日40本ほどの修理経験をさせてもらえる、失敗してガラスを割っても会社負担で補填してくれる。こんないいところを見つけただけでもラッキーですよ!」と言ってくれた社員もいました。
若い時計職人を育てるために失敗を恐れない環境つくりが必要です。
それでも19店舗の修理部門を管理している中でサッサとあきらめて本部へ送りつけるお店が多い。
自店で修理をやろうとする店とは利益率も客数にも差がはっきりと出てくるのです。
対策として「被害者意識」を取り除く事を優先順位のトップクラスに持ってくる。
「あんた!大卒やからすぐに偉くなってええな!」
ショパール、カルティエなどの電池交換、タグホイヤーのサイズ調整まで本部に押し付けてくる技術者は被害者意識のかたまりです。指導で入店したとたんこんな挨拶から始まる。
このパターンでは時間をいただいて居酒屋などへ誘って本人を持ち上げる事だ。人格を否定しないで根源を突き止めることです。
要介護者がいるなど家庭環境が厳しかったりするので歩合制に切り替えたりと対策を立てます。
「上司は部下を選べない!部下も上司を選べない!」時計業界の鉄則。
一人のベテランを育てるまで2000万円ほど経費をかけるので簡単に辞めてもらったら会社が困るのです。
皆さんの近所の時計屋さんも長い時間をかけて立派に出来ている。お店は大切な街の文化財だと思って優しく残してもらうとありがたいと想います。
」
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