3月26日は、作家、今東光が生まれた日(1898年)だが、米国の作家、エリカ・ジョングの誕生日でもある。
エリカ・ジョングは、世界的ベストセラー小説『飛ぶのが怖い』を書いた女流作家。
ボーヴォワール、アナイス・ニンといった先駆者たちが、そこまで書くとさすがに自分が軽んぜられるとしてためらったタブーの領域まで、あえて裸足で踏み込み、全裸になって見せたのが、彼女だと思う。
わかりやすく言うなら、
「女にも性欲はある。そしてそれは悪いことではなく、当たり前のことだ」
と、声高らかに訴えた女性である。
彼女はずっと閉められていた雨戸を開け放った。
彼女は、「王さまは裸だ」と叫んだあの少年の、現代女性版だと言えると思う。
エリカ・マン・ジョングは、1942年、米国ニューヨーク市で生まれた。両親はともに東欧系のユダヤ人で、父親は陶器人形の製作会社の経営者だった。母親は画家で織物デザイナー。エリカは三人姉妹のまん中だった。
エリカは、コロンビア大学で18世紀英国文学を専攻し、卒業後、ニューヨーク市立大学で美術史を教え、詩集を出版した。
彼女は4度結婚していて、「ジョング」の姓は、2度目の夫だった中国系米国人の精神科医の姓からきたものである。彼女はこの2番目の夫と、1966年から約3年間、ドイツのハイデルベルクで暮らしている。このとき、英国人男性と不倫関係におちいり、その経験が彼女の自伝的小説『飛ぶのが怖い』となった。
1973年、31歳のときに発表された『飛ぶのが怖い』は、女性解放を志向した、セックスや不倫関係などスキャンダラスな内容によって一大センセーションを巻き起こし、600万部以上を売る世界的ベストセラーとなった。文豪ヘンリー・ミラーは、この本を出版直後から絶賛し、みずからすすんで外国の出版社に翻訳をすすめる手紙を書き送ったという。
著書はほかに『あなた自身の生を救うには』『ブルースはワイルドに』『五十が怖い』などがある。
自分は、専門が1960年代の米国文化史なので、エリカ・ジョングの名は若いころからよく知っていた。ただ、その著作を実際に読んだのは30代になってからだった。
米国で知り合った若い女性が『飛ぶのが怖い』を読んでいた。
「ああ、いまでも、読む人がいるんだぁ」
と自分は驚いた。おもしろいかどうか尋ねてみると、彼女は、
「おもしろい、とっても」
というので、日本に帰ってから、読んでみたのだった。読んでみると、果たして、すごくおもしろかった。さすがに、大ベストセラーだと感服した。もちろん、あの時代にこういうものを書いた勇気にも感心する。それで、自著の『ここだけは原文で読みたい! 名作英語の名文句2』という電子書籍のなかでも取り上げた。
続けて読んだ『五十が怖い』も、とても読み進みやすく、おもしろかった。うまい、と思う。
男性である自分が共感するというのも妙だけれど、
「うんうん、そうだよなあ」
と、納得できる部分が多かった。
現代日本で言うと、中村うさぎ、岩井志麻子といった書き手の先駆者にあたるかもしれない。ただし、ジョングはやはり詩人で、日本の後輩たちより、もっとピュアで、精神的により高いところにいるという気はする。
知的なのだけれど、セクシャルなことがらを真正面から扱っている。
セクシャルなのだけれど、俗に落ちない。純粋でいつづける。
それがエリカ・ジョングだと思う。
(2013年3月26日)
●おすすめの電子書籍!
『ここだけは原文で読みたい! 名作英語の名文句2』(金原義明)
「飛ぶのが怖い」「ガリヴァ旅行記」から「ダ・ヴィンチ・コード」まで、名著の名フレーズを原文で読む新ブックガイド。第二弾!
www.papirow.com
エリカ・ジョングは、世界的ベストセラー小説『飛ぶのが怖い』を書いた女流作家。
ボーヴォワール、アナイス・ニンといった先駆者たちが、そこまで書くとさすがに自分が軽んぜられるとしてためらったタブーの領域まで、あえて裸足で踏み込み、全裸になって見せたのが、彼女だと思う。
わかりやすく言うなら、
「女にも性欲はある。そしてそれは悪いことではなく、当たり前のことだ」
と、声高らかに訴えた女性である。
彼女はずっと閉められていた雨戸を開け放った。
彼女は、「王さまは裸だ」と叫んだあの少年の、現代女性版だと言えると思う。
エリカ・マン・ジョングは、1942年、米国ニューヨーク市で生まれた。両親はともに東欧系のユダヤ人で、父親は陶器人形の製作会社の経営者だった。母親は画家で織物デザイナー。エリカは三人姉妹のまん中だった。
エリカは、コロンビア大学で18世紀英国文学を専攻し、卒業後、ニューヨーク市立大学で美術史を教え、詩集を出版した。
彼女は4度結婚していて、「ジョング」の姓は、2度目の夫だった中国系米国人の精神科医の姓からきたものである。彼女はこの2番目の夫と、1966年から約3年間、ドイツのハイデルベルクで暮らしている。このとき、英国人男性と不倫関係におちいり、その経験が彼女の自伝的小説『飛ぶのが怖い』となった。
1973年、31歳のときに発表された『飛ぶのが怖い』は、女性解放を志向した、セックスや不倫関係などスキャンダラスな内容によって一大センセーションを巻き起こし、600万部以上を売る世界的ベストセラーとなった。文豪ヘンリー・ミラーは、この本を出版直後から絶賛し、みずからすすんで外国の出版社に翻訳をすすめる手紙を書き送ったという。
著書はほかに『あなた自身の生を救うには』『ブルースはワイルドに』『五十が怖い』などがある。
自分は、専門が1960年代の米国文化史なので、エリカ・ジョングの名は若いころからよく知っていた。ただ、その著作を実際に読んだのは30代になってからだった。
米国で知り合った若い女性が『飛ぶのが怖い』を読んでいた。
「ああ、いまでも、読む人がいるんだぁ」
と自分は驚いた。おもしろいかどうか尋ねてみると、彼女は、
「おもしろい、とっても」
というので、日本に帰ってから、読んでみたのだった。読んでみると、果たして、すごくおもしろかった。さすがに、大ベストセラーだと感服した。もちろん、あの時代にこういうものを書いた勇気にも感心する。それで、自著の『ここだけは原文で読みたい! 名作英語の名文句2』という電子書籍のなかでも取り上げた。
続けて読んだ『五十が怖い』も、とても読み進みやすく、おもしろかった。うまい、と思う。
男性である自分が共感するというのも妙だけれど、
「うんうん、そうだよなあ」
と、納得できる部分が多かった。
現代日本で言うと、中村うさぎ、岩井志麻子といった書き手の先駆者にあたるかもしれない。ただし、ジョングはやはり詩人で、日本の後輩たちより、もっとピュアで、精神的により高いところにいるという気はする。
知的なのだけれど、セクシャルなことがらを真正面から扱っている。
セクシャルなのだけれど、俗に落ちない。純粋でいつづける。
それがエリカ・ジョングだと思う。
(2013年3月26日)
●おすすめの電子書籍!
『ここだけは原文で読みたい! 名作英語の名文句2』(金原義明)
「飛ぶのが怖い」「ガリヴァ旅行記」から「ダ・ヴィンチ・コード」まで、名著の名フレーズを原文で読む新ブックガイド。第二弾!
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