1日1話・話題の燃料

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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

3/24・華のある孤独、マックイーン

2013-03-24 | 映画
3月24日は、1185年に壇ノ浦の合戦があり、平家が滅亡した日だが、この日はまた、米国の映画スター、スティーブ・マックイーンの誕生日でもある。
スティーブ・マックイーンは、自分の子どものころからのヒーローだった。
いまとなっては想像しづらいが、少年時代には、たまに、
「スティーブ・マックイーンに似ている」
などと言われたこともあって、そういうときは有頂天になって、言ってくれた人に「寿司食いねえ」とおごりたくなったものだ。
自分は、マックイーンの出演した映画の八割以上は観ている。テレビ・シリーズの「拳銃無宿」も観た。日本で出ている彼の伝記はすべて読んだし、彼の写真集や映画のソフトも、もちろんたくさん持っている。
ひたすらかっこいい。アメリカの匂いがぷんぷんする、映画スターらしい映画スターだった。

スティーブ・マックイーンは、1930年、インディアナ州で生まれた。本名は、テレンス・スティーブン・マックイーン。父親は曲芸飛行のパイロットだった。生後間もなく父親と別れたマックイーンは、3歳のとき母親にも捨てられ、母方の祖父母と大伯父のもとで育った。4歳のとき、大伯父に三輪車をプレゼントされ、マックイーンがレースに興味をもちはじめたのはそれ以来のことだという。
8歳のとき、再婚した母親に引き取られたが、義父とそりが会わず、マックイーンは街の非行グループに入った。盗みを働いて警察に捕まった。家で義父にさんざん殴られた彼は、義父にこうののしったそうだ。
「お前のそのくさい手で、このつぎおれに触れたときには、かならずお前を殺してやるからな」
14歳で彼はカリフォルニア州チノにある少年感化院へ入れられた。
16歳のとき、施設を出たマックイーンは、さまざまな職業を転々とし、海兵隊員を務めた後、21歳のころ、つきあっていた恋人の勧めにしたがって、演劇学校のオーディションを受けた。そして40倍以上の倍率の難関をくぐって入学者に選ばれ、復員者奨学資金をもらいながら、演技を勉強しだした。
テレビや映画の端役を務める下積み時代の後、マックイーンは28歳のとき、西部劇のテレビ番組「拳銃無宿」の主役に抜擢され、一躍人気者となった。そして、30歳のとき、ユル・ブリンナー主演の映画「荒野の七人」の準主役に選ばれ、この作品の大ヒットによって一気に世界的スターとなった。
以後、強力な観客動員力をもつ人気スターとして、「ガールハント」「大脱走」「シンシナティ・キッド」「ネバダ・スミス」「砲艦サンパブロ」「華麗なる賭け」「ブリット」「栄光のル・マン」「ゲッタウェイ」「パピヨン」「タワーリング・インフェルノ」などの名作に出演した。
1980年11月、メキシコのフアレスで、中皮腫により没。50歳だった。

「フォーブス」誌によると、スティーブ・マックイーンは、亡くなった後も、彼の肖像権が広告などに使われて、2012年度で約800万ドル(約6億4000万円)の収入があったそうだ。
マックイーンの魅力とは、いったいなんなのだろう。
それは、彼がもつ、颯爽とした感じ、孤独な感じ、華のあるところ、そして、絶対に逃げない男気のある雰囲気だと思う。
男くささを売りにする男優はたくさんいる。孤独の影を感じさせる映画スターも、たくさんいる。華麗な雰囲気の俳優もたくさんいる。けれど、華のある孤独の影を背負った男らしい男優は、そうはいない。あのマックイーンの独特の雰囲気は、やはり彼の不遇な生い立ち、遍歴時代があってのもので、後の演技修行で身につくものではない、という気がする。

自分はマックイーンの映画はみな好きだけれど、どの作品での彼がいちばん素敵かと問われれば、やはり「荒野の七人」だと答える。
あの映画のなかのマックイーンの、若い、獣のようなしなやかさは、「ローマの休日」のオードリー・ヘップバーンなどと並び、世界映画史におけるひとつの奇跡だと思う。
ご存じの通り、「荒野の七人」は、黒澤明監督の「七人の侍」を、ユル・ブリンナーが西部劇に翻案したもので、七人のガンマンが、貧しい村に用心棒として雇われ、村を襲ってくる山賊たちと戦うという話である。
あの映画のなかに、こんな場面がある。
村は、せっかく用心棒のガンマンを雇ったのだが、山賊に脅されて、ガンマンを解雇することにする。村に居すわった山賊のボスは、ガンマンたちに武装解除を要求する。
「村を出ていった後で返してやるから、いったん銃をこちらに預けろ」
雇い主に裏切られた恰好で、仕方なく、ガンマンたちはガンベルトをはずすのだが、そのとき、山賊のボスが、ガンマンたちの頭領であるブリンナーに尋ねるのである。
「わからないのは、そもそもお前みたいな男が、なぜこんな仕事を引き受けたのかということだ」
すると、ブリンナーはこう答える。
「自分でもわからないさ」
そのとき、マックイーンがこう言うのである。
「以前、エルパソで会ったやつに似ている。そいつは、裸になって、サボテンのなかに飛び込んでいったんだ。おれは、そいつに、まったく同じ質問をした、なぜそんなことをしたんだ、と」
山賊のボスは続きをうながす。それで、なんと答えた?
マックイーンは答える。
「そいつが言うには、そのときは、それがいい考えだと思ったんだそうだ」(He said it seemed like a good idea at the time.)
そうして、マックイーンは腰のガンベルトをはずして、山賊のボスのテーブルに置くのである。
自分はこのマックイーンのせりふに感激して、以来、ずっとこのせりふを信条に生きてきた。いつか死ぬときがきて、誰かに、
「そもそも、どうしてこんな人生を送ろうと思ったんだい?」
と訊かれたら、こう答えるのだ。
「そのときは、それがいい考えだと思ったんだ」
(2013年3月24日)


著書
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スティーブ・ジョブズ、村上龍、桑田佳佑など、2月誕生の29人の人物評論。ブログの元となったオリジナル原稿版。2月生まれの必読書。

『1月生まれについて』
村上春樹、三島由紀夫、モーツァルトなど1月誕生の31人の人物評論。ブログの元となったオリジナル原稿版。1月生まれの教科書。

『12月生まれについて』
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