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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

10月21日・江戸川乱歩の遺産

2014-10-21 | 文学
10月21日は、ダイナマイトを発明したアルフレッド・ノーベルが生まれた日(1833年)だが、推理作家、江戸川乱歩(えどがわらんぽ)の誕生日でもある。名探偵・明智小五郎、怪人二十面相、少年探偵団の生みの親である。

江戸川乱歩は、1894年、三重の名張で生まれた。本名は平井太郎(ひらいたろう)。武士の家系で、父親は役所の書記係で、太郎はその長男だった。一家は父親の転勤にともない、引っ越しが多かった。
押川春浪の冒険小説や、黒岩涙香の探偵小説を愛読していた太郎は、中学を出ると、東京の早稲田大学に進学した。政治経済学部で学び、大学卒業後は、貿易会社、古本屋、ラーメン屋などさまざまな職業を転々としながら探偵小説を書いた。
29歳のとき、雑誌に投稿した『二銭銅貨』で作家デビュー。米国作家エドガー・アラン・ポーに漢字をあてた奇抜なペンネームで、欧米の探偵小説や科学、心理学をよく研究し、少年愛、女装、人形愛、残虐趣味など独特の趣味性を加味した推理小説を書いた。
推理作家として活躍しながら、探偵小説誌「宝石」の経営にたずさわり、日本探偵作家クラブを立ち上げ、私財を投じて推理作家の登竜門である江戸川乱歩賞を創設するなど、日本の推理小説の隆盛に尽力した。
晩年は、動脈硬化、パーキンソン病にかかりながらも、口述で著作を続けたが、1965年7月、クモ膜下出血のため、没した。70歳だった。
作品に『D坂の殺人事件』『屋根裏の散歩者』『人間椅子』『鏡地獄』『一寸法師』『陰獣』『押絵と旅する男』『黒蜥蜴(くろとかげ)』などがある。

昔は、自分の認識によれば、男の子は小学校時代には推理小説を読むものと決まっていて、シャーロック・ホームズか、アルセーヌ・ルパンか、明智小五郎か、どれかをひいきと決めるべきだった。自分はルパン派だったので、ルパンものはすべて読み、ついでホームズものもかなり読んだ。でも、乱歩を読みだしたのは大学生になってからで、乱歩に関してはひどく奥手だった。
はじめて読んだ乱歩作品『押絵と旅する男』の味わいは忘れられない。冒頭の一文から乱歩独特の猟奇の世界へすっと読者をさらっていってしまう傑作だと思った。椅子のなかに人間が潜んでいて、すわった人を感じるという『人間椅子』の触覚の味わいは、川端康成の『眠れる美女』に通じる異常さで、そのすばらしさにしびれた。自分は推理小説を読んでも、トリックにはあまり関心がないみたいだ。

子どものころ、自分はテレビで映画『黒蜥蜴』を見た。これは乱歩の原作を、作家の三島由紀夫が戯曲化し、それを映画化したもので、二度映画になったうちの、自分が見たのは二度目のほうだった。
監督が深作欣二、音楽が冨田勲。明智小五郎役を木村功、黒蜥蜴役を美輪明宏が演じていた。黒蜥蜴がコレクションしている美しい人間の肉体標本のなかに、ボディービルをやっていた三島由紀夫本人がポーズをとっていた。当時、三島を知らなかった自分は、ひとつだけ顔のついた標本あって、それがまた眉毛の濃い変な顔なので、どうしてもっと美しい顔の役者を使わなかったのかと不思議に思ったものだった。

西村京太郎、 森村誠一、東野圭吾、桐野夏生、池井戸潤などはみな乱歩賞作家であり、江戸川乱歩が残した遺産の大きさは計り知れない。
(2014年10月21日)



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