1日1話・話題の燃料

これを読めば今日の話題は準備OK。
著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

9月28日・マストロヤンニの自由

2024-09-28 | 映画
9月28日は、フランスの映画女優ブリジット・バルドーが生まれた日(1934年)だが、イタリアの映画俳優マルチェロ・マストロヤンニの誕生日でもある。

 20世紀ヨーロッパを代表する映画俳優マルチェロ・マストロヤンニは、1924年、イタリア北部のフォンターナ・リーリで生まれた。本名はマルチェロ・ヴィンチェンツォ・ドメニコ・マストロヤンニ。父親は家具職人だった。
マルチェロはローマ、トリノなどで育ち、第二次世界大戦のときには兵役につき、イタリア敗戦の後は、ドイツ軍の捕虜収容所に入ったこともあった。
戦後、すぐに演劇の世界に飛び込み、イタリア映画界の巨匠、ルキノ・ヴィスコンティ監督に認められ、23歳のとき「レ・ミゼラブル」で映画デビュー。
以後、フェリーニ監督の「甘い生活」「8 1/2」「女の都」などに主演し、イタリア映画のみならず、世界映画の顔となった。
私生活では結婚して妻子があったのとはべつに、アニタ・エクバーグ、ソフィア・ローレン、フェイ・ダナウェイ、カトリーヌ・ドヌーヴなど多くの国際的女優と恋愛関係をもち、ドヌーヴとのあいだにもうけた娘は女優になった。
すい臓ガンにかかったマストロヤンニは、映画「百一夜」で久々にドヌーヴと共演した後、1996年12月、フランスのパリにある自宅で没した。72歳だった。葬儀はローマの教会で国葬扱いでおこなわれた。

「甘い生活」「8 1/2」などのフェリーニ作品や、ソフィア・ローレンと共演した「昨日・今日・明日」「ひまわり」、カトリーヌ・ドヌーヴと共演した「ひきしお」「モン・パリ」などを観た。いずれもマストロヤンニがいかにすばらしい作品に出演し、いかにすばらしい演技をしてきた名優であるかがよくわかる映画である。子どもにはわからない価値観かもしれない。ある程度成長しないと理解できない価値というのは、ある。
かつって、米国ハリウッドのアカデミー賞の授賞式に彼が登場したとき、会場全員がスタンディング・オベイションで迎えたけれど、中継をみていて、もっともだと納得した。
ヨーロッパ人ならではの文化の重みを体現し、かつ色気を放つ大人で、ドヌーヴが惚れるのも、もっともだと悔しくも了解した。
「百一夜」でのドヌーヴとの共演シーンには、ただただ感動した。老境にいたった在原業平が、若いころに恋愛関係にあった藤原高子(業平と別れ、天皇の后となり、後の天皇を産んだ)に、年を経て再会したときを思わせる風情があった。

名匠フェリーニの名作「8 1/2」でマストロヤンニは、映画監督、つまりフェリーニの役を演じた。撮影中の映画が期限、予算ともにオーバーし、しかも構想がいまだにまとまらず、プロデューサーからは矢のような催促とクレーム。さらに、私生活では妻と愛人がいて目茶苦茶。そんな八方塞がりの状況のなかでも、マストロヤンニ演じる監督は、ホテルを歩くとき、カウボーイハットをかぶり、軽やかに口笛を吹きながら、靴の爪先をくねらせて遊びながら歩く。あの自由の感覚はすばらしかった。
苦境にあるときは、あのシーンのマストロヤンニの動作をまねすることにしている。
(2024年9月28日)



●おすすめの電子書籍!

『映画男優という生き方』(原鏡介)
世界の男性映画スターたちの生き様と作品をめぐる映画評論。ヴァレンティノ、マックイーン、石原裕次郎、シュワルツェネッガーなど男優たちの演技と生の真実を明らかにする。


●電子書籍は明鏡舎。
http://www.meikyosha.jp

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 9月27日・ブハーリンの自己批判 | トップ | 次の記事へ »

コメントを投稿

映画」カテゴリの最新記事