東京】29日の日曜日、日本で高まっている反原発運動の政治的影響力が試される出来事が2つある。日本で最も著名な反原発派の1人が候補となっている山口県知事選と、1960年代の日米安保闘争の時をほうふつとさせる国会周辺で行われるデモだ。
この数週間続いてきた数万人規模の定期的な反原発デモは最近の日本では見られなかった光景で、国民の間で新たなレベルの政治活動が広まっていることを示している。だが反原発デモの声は高まり、規模も拡大しているが、まだ政治の主流派からの賛同は得られていない。山口県の知事選挙は、それが変化するかどうかを示すリトマス試験になるとみられている。
慶応大学の竹中平蔵教授は「みんな日本では中東で起きているジャスミン革命やアメリカのオキュパイ・ウォールストリート運動みたいのは日本では起こらないと言っていた。でも実際に起きている。これはかなり大きな影響があると思う」と話す。竹中氏自身も、政府の原発再稼動のやり方は、あまりに性急かつ不透明だと批判的だ。
反原発グループは自らの活動を、6~7月の梅雨の時期に咲く花になぞらえて「あじさい革命」と呼んでいる。多くの小さな花が集まって1房の花となることも、一人一人は無力でも多くの人々が結集した今回の運動を象徴していることも、あじさいを選んだ理由だ。
蒸し暑く不快な梅雨の季節にもかかわらず、東京のデモ参加者の数は毎週増えているようにみえる。主催者発表によれば、7月16日に代々木公園で行われたデモには17万人が参加した。これは昨年の福島第1原発事故以来の規模だ。ただし日本の報道機関が引用した警察発表によれば参加者は7万5000人となっている。デモは平和的に行われ、子連れの家族もたくさん参加していた。警察の広報担当者は、今年、デモに関連した逮捕者はいないと思うと述べている。
次回の大規模デモは29日に計画されている。参加者はろうそくを持って人間の輪で国会議事堂を取り囲む予定だ。今までデモ隊は道路を挟んだ首相官邸を目指したが、主催者側は、今回は「日本の政治の中枢に向かう」と述べている。主催者の一部は、今回のデモで1959年と1960年の日米安保闘争を思い起こさせるような大規模なデモを実現したいと語る。当時は国会周辺に安保反対を唱える人々が30万人以上集まった。
反原発デモの声は高まり、規模も拡大しているが、まだ政治の主流派からの賛同は得られていない。与党民主党の大半の議員は、福島第1原発事故後、維持作業とストレステストのために稼動停止している原子炉の再稼動に賛成している。そして、日本の原発の成長を後押ししてきたのは2009年まで半世紀にわたって日本の政治を支配してきた最大野党の自民党だ。
原発に反対してきたのは共産党や社会民主党など、少数の弱小政党だ。これらの政党は反原発デモ行進にも積極的に参加している。また、もうすぐ総選挙となる可能性が高まっていることから、最近民主党から離党した小沢一郎氏率いる新グループなど、反原発の世論の高まりに乗じようとする政治的な動きもみられる。国政進出を視野に入れている人気の高い大阪市長、橋下徹氏率いる大阪維新の会もその1つだ。
だが、原発再稼動決定に反対してこの数カ月毎週のように集まっている抗議者の心をつかんだ政党はまだないようだ。反原発を旗印に掲げる全国的な政党はないが、地方選挙では反原発を唱える候補者が現れている。だがその多くは落選した。最新の例では、3週間前、鹿児島知事選で原発推進派の現職知事が反原発派を抑えて圧勝した。
しかし、反原発派は29日に行われる山口県知事選挙に立候補した環境NPO代表の飯田哲也氏に期待を寄せている。飯田氏は原発業界で働いた後、最も著名な反原発活動家の一人となり、代替エネルギーを考えるシンクタンクを設立した。福島第1原発事故後多くのメディアに登場しており、大阪の橋下市長は同氏を出馬による辞任まで、大阪市のエネルギー政策の顧問に迎えていた。
今回飯田氏が知事選に立候補した山口県は自民党が長く権勢をふるった「保守王国」だ。選挙戦では2030年までに原発ゼロとする目標を掲げ、公約の中心は県内の上関原発建設の白紙撤回だ。
朝日新聞によれば、同氏は選挙スピーチで「しっかりと国策に対して真正面から戦い、ものを申していく。四人の候補のうち、それができるのは私一人」と述べている。山口県知事は現職が引退するため、新人候補が争っているが、有力な対立候補は、公共事業拡大を提唱し、自民と公明両党の推薦を受けた元国土交通審議官の山本繁太郎氏だ。
飯田氏が草の根運動によって、山本氏と自民の集票組織の機動力に打ち勝つことができるかどうかは、組織票が決定する選挙から無党派が左右する争点中心の選挙へと日本の政治がどれだけ変化したかを示すバロメーターとなるかもしれない。
地方選挙で反原発候補が勝てない要因の1つには、原子力の地元経済への貢献が挙げられる。山口県の有権者を対象とした世論調査によれば、上関原発に7割が反対する一方で、有権者は雇用や経済の方をより重視している。それが福島の事故後も原発を持つ市町村が脱原発をためらう主な理由だ。
全国レベルでは反原発はさらに厄介な政治問題となる。日本大学の岩井泰信教授(政治学)は「既存政党は原発を選挙の争点にはしたがらない。与党の座を戦う政党は、原発に代わるエネルギー政策を打ち出さなくてはならないので、反原発は小さな野党の主張におさまっているのが現実」と指摘する。
安定した電力源の確保と原発反対を政治的に両立させることは難しい。そのよい例が飯田氏をかつて特別顧問に迎えた橋下大阪市長だ。同市長は総論では原発に批判的だったが、夏のピーク時に大阪の電力が18%不足する可能性があると分かったあと、大飯原発再稼動容認に転じた。
そして29日の知事選で飯田氏を応援することは「難しい」として、橋本市長が主宰し広く人気のある大阪維新の会による支援を否定した。飯田氏を支持している既存の政党は共産党のみだ。そして共産党ですら、市場主義と小さな政府を推進する大阪維新の会と同氏と関わっていた同氏への支持を間接的なものに留めている。
一部のアナリストは、反原発運動は、他の問題も取り込んで、幅広い国民の不満に訴えることができればさらに弾みがつく可能性があるとみている。
慶応大学の小熊英二教授は「見ていて一番気がつくのは、30代、40代のスーツを着ていない男性、子連れじゃない女性がすごく多い。これは、晩婚化、不定期雇用の増大と、日本の社会が変わった(ことの表れ)としか言いようがない」と指摘した。
記者: Yuka Hayashi、Toko Sekiguchi