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いい日旅立ち

日常のふとした気づき、温かいエピソードの紹介に努めます。

名家鑑賞⑧~白骨温泉にて~

2019-04-30 21:16:16 | 思い出の詩


もろもろの
想ひのはてよ
落葉松のしづ枝にたちて
松の香をかぐ

夕づつの かたむく頃を
谷あひの
住まひの前に
薪を割るひと

きその夜も この夜も
水車小屋にきて
ただひとこゑを
啼く狐かな
















河野裕子の歌③~蝉声③~

2019-04-30 18:26:33 | 思い出の詩

河野裕子の晩年は、
乳癌との闘いであった。
あと2年、と余命を宣告され、
それでも家族のために生きようと、
必死で病と闘い、歌を作る。

……

来年もこの花たちに会へるやうに一晩一晩ふかく眠らねば

大事なのはお母さんでゐること山茶花よご飯をつくりお帰りと言ふ

過ぎゆきし歳月の中の子らのこゑお母さん、お母さんどのこゑも呼ぶ

夕光のなかに今年最後の朝顔が精いっぱいに青き襞ひらきゐる
























河野裕子の歌②~蝉声②~

2019-04-29 22:34:25 | 思い出の詩


河野裕子の歌は、最晩年、挽歌といっていいものになった。
長い間の闘病生活の間に鍛えられた。
切々と、家族に感謝し、生き続けることを祈る。
思い病状を隠さず歌にしている。
歌の中、「君」は、夫の永田和宏である。
……

一日に食いたるものは桃一個スイカひときれ牛乳一杯慎ましきかな

夫につかまり草庭の草庭眺めゐる一分も立てばよろよろとして

肩でする呼吸の辛さ失ひし乳房をよすがに呼吸するものを

すざいゆく蝉声の中にへまなやつも二つ三つゐる落ちながら鳴く

残さるるこの世どうせうと君が呟くに汗にぬれたる首をなでやる






















河野裕子の優れた短歌①~余命僅か、乳癌再発~

2019-04-27 10:06:02 | 思い出の詩

高名な歌人、河野裕子は、

54歳の時乳癌を発し、
64歳で亡くなった。
62歳で乳がん再発。
乳癌の場合、再発は、余命を告げられることを意味する。
闘病の歌も、多く残した。

体の自由が利かなくなり、
娘は息子に世話を受ける。

そうしたなかで、
詠われた歌を、
挙げてみる。

……

われを治す抗癌剤はもうあらずヒアフギ水仙また入院す

もう1度の生はあらねば託しおくことばはこの娘に 口述筆記続く

歌はしかし口述筆記ではできぬもの体力が欲し机に向かえる二十分の

やせ果ててわたしは死んでゆくならむあなたを子らを抱きしめし身は

新しい詩⑥~昨日はどこにもありません」~

2019-04-26 19:32:59 | 思い出の詩


「昨日はどこにもありません」

昨日はどこにもありません
あちらの箪笥の抽斗にも
こちらの机の抽斗にも
昨日はどこにもありません

それは昨日の写真でしょうか
そこにあなたの立っている
そこにあなたの笑っている
それは昨日の写真でしょうか

いいえ昨日はありません
今日を打つのは今日の時計

昨日はどこにもありません
昨日の部屋はありません
それは今日の窓かけです
それは今日のスリッパです

今日悲しいのは今日のこと
昨日のことではありません
昨日はどこにもありません
今日悲しいのは今日のこと

いいえ悲しくありません
なんで悲しいのでしょう
昨日はどこにもありません
何が悲しいものですか

昨日はどこにもありません
そこにあなたの立っていた
そこにあなたの笑っていた
昨日はどこにもありません













新つじどう会の作品⑥~令和に向けて~

2019-04-26 19:16:45 | 思い出の詩


毎月一回、辻藤公民館で、
短歌サークルの例会が催される。
会員は5人。
毎月、3首の詠草を発表する。

今回は、
6首紹介すする。

……

友手作りのおでんの鍋を囲みおりぬくもりあふれる花見の宴は

就活の内定知らせる孫の声 混じりて聞こゆ若き等のざわめき

自らの終活のしおり持ちて夫語る聞き入る娘と吾目でうなずきぬ

はるかなる天の国なる園の中 逝きし母あり帰らぬ父あり

ひとへやに老人少年やすらぎて駒音響く 春の夕暮

たまきはるいのちのさきのたゆたいのむねのなかなる春のうき雲

名家鑑賞30 ~百歳の猫ムー~

2019-04-25 23:03:42 | 思い出の詩


河野裕子の歌集「蝉声」より。

河野家には、百歳の猫」ムーがいます。

……


四日すればチョッキを買いに行きませう痩せてさむげなこの老嬢に

一匹も子猫を生まずにぼんやりと門外不出のままに百歳

この猫と過ごしし歳われらにはいろいろありきお前だけ能天気

ぼんやりのアホな猫なれど機嫌よし注射うたれてもムーと返事す

猫の呆けに付き合ひ来たりてわたしらも寛容になりゆくおしっこの始末も

新しい詩④~池に向かへる朝餉~

2019-04-25 21:11:21 | 思い出の詩


「池に向かへる朝餉」

水澄み
ふるとしもなきうすしぐれ
啼く鳥の
鳥のねも日にかはりけれ
ひとり居をわびしといはむ
いくたびか
朝餉の箸をやすませて
魚光る眺めてあれば
なほさだかなれど 一日のうれひを感ず
楽しきことを考へよ
かく思ひ 愉しさにとりすがれども
ちひさき魚は水に消え
かなしみばかりしたしけれ

新しい詩④~青い葉が出ても~

2019-04-23 22:44:27 | 思い出の詩



「青い葉が出ても」

はなが咲いたよ
はなが散ったよ
あま雲は駆け出し
蛙は穴からひょっこり飛び出す
やあれやあれ
はなが散ったよ
青い葉が出たよ
青い葉が出てもとんまな人からは便りさえないよ
女だてらに青い葉が出ても
やあれ青い葉が出ても
ちょいと意地を張ったよね

思い出の詩①~道程~僕の前に道はできる

2019-04-23 10:11:46 | 思い出の詩



55年前にある式で読んだ詩です。

高村光太郎

「道程」

僕の前に道はない
僕の後ろに道はできる
ああ、自然よ
父よ僕を独り立ちにさせた広大な父よ
僕から目を離さないで守ることをせよ
常に父の気魄を僕に満たせよ
この遠い道程のため
この遠い道程のため

……

今、改めて決意しています。