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無計画な死をめぐる冒険 74

2007年01月07日 | 連続物語
 証拠隠滅。明々白々である。愚か者が、隠滅しようとすればするほど、証拠は炙り字のごとく浮き出てくるのだ。ボトルを誰にも気づかれないうちに始末した、これぞ黒である何よりの証拠。警部よ、この女を即刻逮捕せよ。
 うすのろな警部はしかし手帳を顎に当てると、目を寄せてふむ、と唸った。仕方ありませんな、ではまた明晩、と言って退出しかねない顔つきである。威圧感のある割りに今一つ押しの弱い警部である。
 「ボトルを捨てられたのはいつですか」
 彼は続けて、ボトルを捨てた場所、捨てた袋の大きさや色、そもそものボトルの品名や形態など細かなことを質問していちいち手帳に書き留めた。
 質問がボトルの入手先に及ぶと、美咲の眉間に皺が寄った。そう言われましても・・・ウイスキーなんぞ、あちこちからたくさんいただくものですから・・・去年いただいたのやら、一昨年とか、もっと前のまでございますので・・・はあ、思い出せと言われましても・・・。
 このとき伏し目でうろたえていたのは、美咲だけではない。私もまた必死で思い出していたのだ。
 入手先。あれは誰のくれたローヤルだったか。先週唐島が来たとき開けた。そうだ。唐島が来たとき開けたのだ。それは確かだ。だから唐島を疑ったこともある。
 幾多の雨粒が私の体を通り抜けて落ちていく。
 唐島が来たとき封を開けた。しかしあの時は二人とも一二杯しかいかなかった。その前に相当飲んでいたからだ。あの日からは、寝酒に時たま。飲むとぐっすり眠れた。死の晩、私はおおよそ残り三分の一を空にした。いや半分はあったか? あのボトルは、そもそも誰から。

(つづく)
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