11月末の平日、一人でバスに飛び乗り、飛騨高山に向かった。
現地に到着したら思いのほか寒かった。慌てて近くにあった服屋に入る。おばちゃんが一人で営んでいて、常連のおばちゃんがもう一人丸椅子に腰かけ、互いにほとんど記憶に残らないであろう他愛もない世間話を日がな一日交わしているような、田舎町によくある服屋である。大いなる不安を抱えつつヒートテックを求めると、ヒートテックはないが、これなら代用できる、と似たものを手渡された。男用ですか、と念を押したら、大丈夫だ、とのこと。実際履いてみたら十分温かい。気をよくして街のあちこちを歩き回り、写真を撮った。
昼を過ぎたので、おなかが空いた。あまり観光地然とした店には入りたくない。だがそもそもシーズンオフなのか、ほとんど店がやっていない。なるべく地元の人が通いそうな、と物色していたら、数字を並べただけという珍しい店名の喫茶店を見つけた。入ってみると、おばちゃんが二人、おしぼりを丸めている。今回はよくよくおばちゃん二人組に縁がある。ビールと焼うどんを頼んだ。しばらくすると、奥の扉からおじちゃんが出てきた。だがおじちゃんは誰に挨拶するでも、何の仕事をするでもなく、カウンターにあったキャンディーを口に入れ、また奥の扉に引っ込んでしまった。何だったのだろう。
会計を済ませて帰り際、店名の由来を聞くと、ただの番地だと笑われた。
帰りのバスを途中下車し、平湯温泉につかる。誰も管理人のいない露天風呂である。
湯を出ても、次のバスまでにはかなりの時間があったので、食堂に入り、ビールを飲んだ。それでもなお時間を持て余したので、バスターミナル併設の足湯に向かったら、若いドイツ人夫婦が先客にいた。聞くとほぼ一年をかけて、世界中を旅しているらしい。うらやましい限りである。彼らにとって、私が今回したような小さな旅は、どう映るのだろう。
そもそも自分はこの日帰りの旅で、何をしたかったのだろう。
夜が更けてから帰宅。服を脱ぐとき、ヒートテックもどきを見てみると、しっかりと、「婦人用」と書いてあった。
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