初恋の記憶を

 

 

	桜は緑の雲になった
	次の花はツツジかな
	ツツジの花ことば 白は「初恋」 赤は「恋の喜び」
	ならば　このピンクのツツジは？
	白と赤を合わせて　「初恋の喜び」？
	初恋の記憶を　遠く辿れば
	狂おしい迄の羞恥と
	いたたまれない程の苦悩
	それらに倍する喜びが　あった筈なのに
	あっ　いま　思い出せそう

 

 

 

 

 

 

たんぽぽ

 

 

　　　猫さん私に　愛を教えて

 

 

　　　あなたは幼い　まだ子供

 

 

　　　愛を語るには　早過ぎるわ

 

 

　　　猫さん私に　愛を教えて

 

 

　　　あなたは大人ね　教えてあげる

 

 

　　　そっと優しく　くちづけを

 

 

　　　あなた自身が　砕けぬように

 

 

　　　そっと優しく　触れるだけ

 

 

 

 

 

 

 

 

葉桜

 

 

　あっ　どうしてこんなに早く来たの？

 

　あたしは相変わらずよ

 

　ん？　なあに？

 

　ふふ、今日は無口なのね

 

　あなた、睫毛がとっても長いわよ

 

　　あのね、あたしのこと、ちゃあんと見てなきゃダメよ

 

　……どういう意味かって？

 

　もういいわ　あなたは葉桜でも見てなさい

 

 

 

 

 

 

 

ほほえんでさよならを

 

 

	桜の花びらが 無残にも風に飛ばされてゆく
	もう終わりなのね
	悲しいな
	あんなに散ってしまって 緑の葉まで出ている
	……いいえ
	花びらは 飛ばされるのを嫌がってなんかいない
	むしろ喜んで舞っている
	ほほえんで花に別れを告げなくてはね

　

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

花びらになりたい

	「ミ、ミーコさん、こんにちは」 「こんにちは。あたしに会いに来たのね？」
	「えっ、い、いえっ　ぐぐ偶然ですよっ」 「ん～？　ほんとうに偶然かなぁ～？」
	「正直におっしゃい！　あたしに会いに来たんでしょう！」 ビシッ 「いえ、その、ミーコさん、あの、」
	「うふふ、まあいいわ せっかく来たんだから、ゆっくりしてらっしゃいな」 「ハ、ハイ」
	「ふ～、かなわないなミーコさんには…… ん？　……あ、ミーコさんの肩のあたりに 桜の花びらが付いてる」
	「ああ……僕はあの花びらになりたい」
	「……あなた、いま何かおっしゃって？」 「えっ？　あっ、いえっ何でもありませんっっっ！」
	「うふふっ　……もうじき桜も散ってしまうかしらね」 「ミーコさん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

花を愛でつつ

 

 

 

 

 

 

 

どちらが

 

 

	私の言った通りでしょう 花なのよ これがぜんぶ　花なのよ
	さあ あなたは　どちらがお好きかしら？
	私？
	それとも　桜？
	もしも　あなたが 私に思いを寄せて下さるとしても
	私はあなたに そびらを向けるでしょう
	私などより花に惹かれる そんな　あなたなら
	私はあなたを 好きになるかもしれません

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうすぐ

 

	僕のすぐ前には　あなたがいた
	その向こうには　あいつがいた
	そして僕のうしろに　君がいた
	君はゆっくりと振り向き　静かに笑って　こう言う この桜並木をご覧なさい あなたには想像できて？ もうすぐ花でいっぱいになるのよ
	僕の空耳だったのだろう けれど　君が　ほほえんでいた 君は　確かに　ほほえんでいた