釜石の日々

貧弱な日本の新型コロナ対策

先月、東京大学大学院農学生命科学研究科の村上晋準教授らが、米国CDC疾病予防管理センターに「Detection and characterization of bat sarbecovirus phylogenetically related to SARS-CoV-2, Japan」と言うタイトルの論文を発表し、日本にも新型コロナウイルスと遺伝的に近縁なウイルスが検出されるコウモリがいることを示し、コウモリと人の間の中間宿主となる動物の存在を調査する必要があると訴えたことを、このブログでも書いた。英国の著名なThe Guardianは、先週4日金曜日に「Wuhan virologist says more bat coronaviruses capable of crossing over」と題する記事を載せた。中国の武漢ウイルス研究所the Wuhan Institute of Virologyの専門家シー・ジェンリーShi Zhengli氏によると、中国の南部や南西部には、新型コロナウイルス以外の他のコロナウイルスを保有したコウモリが生息しており、同種のコロナウイルスは、中国以外の南アジア諸国の自然界で一般的だと思われると言う。また、コロナウイルスのもともとのキャリアはコウモリだったが、新型コロナウイルスは最初に「中間」動物に感染し、その後、ヒトに感染したもので、今はまだその中間動物は分かっていない。ただ、氏は中間宿主について、コウモリから感染した鱗甲目(センザンコウ)の可能性があると見ており、鱗甲目はインドを含む他のアジア地域から中国に密輸されているため、最初の感染源は中国以外である可能性があり、調査する必要があるとする。中間宿主が長期間にわたってコロナウイルスを保有していた可能性があるとするジェンリー氏の考えをシドニー大学the University of Sydneyのウイルス学者のエドワード・ホームズEdward Holmes教授も支持する。さらに教授は、コロナウイルスは発見される前、数ヶ月に渡ってヒトの間で循環していた可能性があり、動物から人へのウイルス感染プロセスは、武漢市や武漢市がある湖北省で起こったとは限らないと指摘している。これらのことは、現在の新型コロナウイルスだけでなく、今後の新たなコロナウイルス感染についても重要なことだ。日本での新型コロナウイルス感染は第3波で、「医療危機」が訴えられるようになって来た。人口が8300万人のドイツは現在、感染者累計が118万4845人で、死者は1万9159人である。100万人あたりの検査は34万7331件も行われている。日本は感染者累計が16万0098人で、死者は2315人である。そして、100万人あたりの検査は2万9611でしかない。ドイツの1割にも満たない検査数である。医療ガバナンス研究所は興味深いデータを出している。ドイツと日本では感染者や死者、検査数で圧倒的な差があるが、第2四半期のGDPは日本がマイナス10.2%に対してドイツはマイナス11.2%、第3四半期は日本マイナス5.4%に対し、ドイツはマイナス4.2%と経済ではほとんど変わらない状態である。そして、人口1000人あたりの医師数と病床数を見ると、日本はそれぞれ2.44人、13.05ベッドで、ドイツは4.11人、8.00ベッドである。医師数はドイツが多いが、ベッド数は日本の6割ほどしかない。そんなドイツは感染者が圧倒的に日本より多いが、重症患者をフランスなど他国から受け入れるほどで、医療崩壊など言われていない。米国に始まった新自由主義は医療費も標的にし、削減を続けて来た。日本の「失われた30年」はまさにその新自由主義に託され、重傷病床も削減された。欧州でも新自由主義が導入されて行ったが、ドイツは他国ほどには米国流の新自由主義に傾倒しなかった。医療を守って来たのだ。経済政策では新自由主義の最先鋒とさえ言える維新の会の大阪などは保険所までも削減し、24区それぞれにあった保健所がたった1つになった。検査まで対応し切れず、検査を絞らざるを得ないために、感染者の発見に遅れ、重傷者が急増する事態に見舞われる。「医療危機」が訴えられる今なお、重症者の震源となり得る老人施設や医療機関へは何ら対策を行っていない。東京都の世田谷区は独自にエッセンシャル・ワーカーに対する検査を行っている。その結果、45施設576人の介護職員を対象に10月2日から11月1日までの間にPCR検査陽性者が2人(0.3%)であったが、45施設960人を対象とした11月2日から22日に実施した検査では、陽性者は18人(1.9%)まで増加していた。いずれも陽性者は無症状である。この独自の検査が行われていなければ、世田谷区の介護施設は間違いなく重傷者を出していた。今月4日、東京の新橋駅前に店舗来店型の「新型コロナPCR検査センター 新橋」が開業したが、ネット予約が殺到しサーバーがダウンしたと言う。来店者は唾液で検体を採取し2900円で、翌日結果が知らされる。診断書が必要な人には6000円の追加で医師の診断書を受け取れる。現在は1日5000件だが、来月には郵送分も追加され、2万件まで可能となる。こうした検査センターを全国展開する計画のようだ。一定の安い自己負担で簡単に希望すれば、検査が可能なこうした設備にこそ国が用意した巨額のコロナ対策費を当てるべきではないのか。感染終息には必須の科学的な検査を制限し続ければ、重傷者が増加するのは当然であり、今後も同じような波を何度も潜らねばならなくなるだろう。
スズガモ(雄) 後ろはオオバン
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